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ポルシェはなぜ、ドイツの女性に人気がないのか ピンク色の車体めぐり「炎上」発言も

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 更新日: 公開日:
ポルシェ初のEV「タイカン」の高性能モデル「ターボS」(写真は本国仕様)=ポルシェ提供
ポルシェ初のEV「タイカン」の高性能モデル「ターボS」(写真は本国仕様)=ポルシェ提供

車種によってポルシェは4秒で時速100キロに達することができるものの、このような瞬発力のある車が日常生活において果たして「必要」なのかというと、答えは冒頭の創立者が言うように「ノー」なのでしょう。

それでもドイツでポルシェが根強い人気を誇るのは、ポルシェに「必要性」以外の魅力があるからです。

時速制限のないドイツの高速道路で誰よりも早く走れるという爽快感、ポルシェに乗っている時の他人からの羨望の眼差し、そして何よりも「最もカッコいいスポーツカー」というイメージに助けられてドイツのポルシェは人気を保ってきました。

ところがドイツでは最近、「ポルシェに対してポジティブなイメージを持っている」のは「ほぼ全員が男性」だということが分かり、物議を醸しました。

それもそのはず、ポルシェは長いあいだ購買力として「男性」しか想定してきませんでした。

これはドイツで「スピードの出る車」というものが「男性」とつなげて考えられていたことと無関係ではありません。「ポルシェは成功しているマッチョな男性が乗るもの」という暗黙の了解が会社側(ポルシェ側)にも一般市民の側にもあったわけです。

ただシュピーゲル誌(21号)は「最近はお金持ちではあるけれど、太り気味だったり、あまり社交的ではない男性もポルシェを買う傾向がある」としています。

でもドイツで「ポルシェを乗る男性のタイプ」が変わってきていても、昔も今も「男性」が多いという事実に変わりはありません。

この状況を変えるべくポルシェは最近「ドイツの女性にポルシェを買ってもらいたい」と、様々な試行錯誤をしています。

不人気、女性差別と関係

ドイツの2021年の男女平等指数は「153ヵ国中、11位」ではありますが、女性役員の数が極端に少ないなど課題も残ります。

ドイツの昔からの考え方として、日本と同様に「女性は仕事の成功を追求するよりも育児や家事など、家の中のことをやるべき」という考えが根強いです。

そしてドイツ特有の女性差別的な考え方には「女性は地に足がついた生き方をすべき」「女性は物欲とは無縁であるべき」「女性は無償で他人に尽くすことが幸せなはず」という具合に、女性に対して「マザー・テレサ的な生き方」を望む傾向が強いのです。

ドイツでは男性と同じ仕事内容であっても、女性のほうが給料が少ないことも多く、男女間に給料格差があります。そういったこともあり、まれに「女性」がポルシェに乗っていると、周囲から即「誰かの愛人に違いない」「ポルシェは女性が自分で買ったのではなく、シュガー・ダディー(若い女性にためにお金を使う金持ちの中年男性)にプレゼントされたに違いない」と思われる傾向にあります。

ポルシェのマーケティング・チーフであるRobert Ader氏はシュピーゲル誌(21号)のインタビューで「ドイツでは経済力のある女性であっても、ポルシェに乗ると『シュガー・ダディーに買ってもらった』と周囲に思われる可能性があります。女性達もそのことを恐れているため、仕事で成功をしている女性であってもポルシェの購入を躊躇しがちです」と分析しています。

中国では購入者の半分が女性

ドイツでは女性がポルシェを買うことを躊躇(ちゅうちょ)しているのに対し、中国ではポルシェの購入者の半分が女性です。

ポルシェが中国に進出したのは20年前であるため、ドイツで昔からあるような「ポルシェは男性が乗るもの」といったステレオタイプ的な考え方はされていません。中国でポルシェの購入は「仕事で成功したことの証」であり、性別はあまり関係ないようなのです。

このように中国では性別に関係なく「富裕層にポルシェが売れている」一方で、アメリカではポルシェを買う顧客のうち女性は4人に一人、ドイツに関しては、ポルシェの顧客のうち女性の割合はたったの13パーセントであることが分かっています。

そういった事実を受けとめ、ポルシェは最近「ポルシェを即男性と結び付けるイメージの払拭(ふっしょく)」および「女性をターゲットにしたマーケティング」に乗り出しました。

先日ポルシェ社の役員のDetlev von Platen氏がドイツのHandelsblatt誌で「女性のニーズに考慮するため、ポルシェのTaycanではシートを従来通りの本物のレザーではなく、動物の皮を使わない『ビーガンのカヴァー』にしました。またFrozen Berryはピンク系です」と語ったところ、ドイツのSNSで「女だから、ピンクにしておけばいいや、というのは典型的な女性差別」だとして「炎上」してしまいました。

ドイツで女性の顧客を獲得するためにあえてした発言が問題となった格好ですが、話を複雑にしているのは、このピンク系のFrozen Berryが中国の女性にはよく売れていることです。ピンク系のFrozen Berryは中国で大人気で、女性だけではなく、男性にも人気があり、この車を買う顧客の半分が女性、半分が男性とのことです。

「炎上」の背景には、ドイツでは過去何十年間にもわたり、「ポルシェは男が乗るもの」として同社が女性を排除してきたことが原因なのではないかと筆者は考えます。

改革に着手、でも社内は…

ポルシェのマーケティング・チーフであるRobert Ader氏はシュピーゲル誌のインタビューで「マーケットリサーチの結果、男性は車のテクノロジーやスポーティーさを重視するのに対し、女性は品質やハプティクスのほかにデザインを重視することが分かっています」と語り、ポルシェが今後女性のニーズに沿った車作りをしていくと語りました。

そのなかでも注目されているのは、ポルシェの購入時に「車内を自分の好みによって変えていくことができ、その選択肢が700種類もある」ことです。

「男性が好むマッチョなポルシェ」から「女性が好むお洒落なポルシェ」への変貌を遂げるために、ポルシェではフランスのモードラベル「バルマン」のクリエイティブディレクターであるOlivier Rousteing氏の意見も取り入れ、同氏に推奨広告を定期的に依頼しています。前述のポルシェのRobert Ader氏は「このようにして、女性の目の留まるところにポルシェをどんどんアピールしていきたい」と語っています。

ポルシェは現在、ドイツ各地に新たなポルシェスタジオを設けていますが、その際に「女性が入りやすい雰囲気であること」を重視しています。

6月にはBarbara Frenkel氏がポルシェの女性初の役員に就任しました。このように「ドイツの女性にポルシェを買ってもらう」ために様々な努力をしているポルシェですが、同社で働く従業員のなか、女性はたったの16パーセントです。2012年から同社は本格的に女性活躍を推進してきたはずでしたが、2012年に13パーセントだった女性の従業員はこの9年間でたった3パーセントしか増えていません。

車のスピードは速いけれど、ジェンダー平等の追求に関しては全く速くないことが明らかになってしまいました。