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【仮屋薗聡一】ビジネスと社会課題解決、自然に結びつくミレニアル世代の起業家たち

令和の時代 日本の社長 更新日: 公開日:
グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの仮屋薗聡一氏=同社提供

インタビューシリーズ「令和の時代 日本の社長」#23 グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー 仮屋薗聡一氏 近年、貧困や格差、環境など、さまざまな社会課題をビジネスを通じて解決しようとする「社会課題解決型」のスタートアップが増えてきた。どんな背景があるのか。ベンチャー投資の第一人者である仮屋薗聡一氏(グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー、日本ベンチャーキャピタル協会名誉会長)に話を聞いた。(畑中徹)

■震災を機に動き出したミレニアル

――令和の時代、活躍が期待される起業家の特徴を教えてください。

貧困や格差、環境など社会が抱える課題をビジネスで解決しようとする起業家が増えてきていると実感します。いわゆる「ミレニアル世代」(1981~96年生まれ)がその中心にいるのが特徴です。「起業家がなかなか出てこない」と言われた日本ですが、いよいよ多くの起業家が育ってきているのだと思います。志の高いミレニアル世代の人たちが自らリスクをとって起業し、イノベーション(技術革新)の主役になろうとしているのは、とてもいい兆候だと思います。

――そういうタイプの起業家が増えるタイミングがあったのでしょうか?

私の個人的な感覚ですが、「社会課題解決型」の起業が増えたのは、2011年の東日本大震災がきっかけになったように思います。当時、多くのミレニアル世代は10代でしたが、感受性が高い時期にあのような未曽有の危機を目の当たりにしたわけです。「社会課題を解決するため、自分も何かできるのではないか」という意識が芽生えたように思います。あの震災が、大きな転換点になった気がします。

■「企業は社会課題解決のため」浸透

グロービス・キャピタル・パートナーズの投資先である「グローバルモビリティサービス」(=GMS、東京・港)は、フィンテックとモビリティーを融合したビジネスで、信用実績の少ない人向けのサービスを東南アジアなどで提供している(グロービス提供)

――「社会課題解決型」の起業家が増えたと実感する出来事があったのですか?

2015年、ベンチャー投資会社で構成する日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)会長に就任してから、若手起業家がビジネスプランや事業戦略を披露するコンテストに審査員などとして参加する機会が増えました。そこで新鮮だったのは、プレゼンテーションの冒頭で、どの起業家も「自分が解決しようと考える社会課題」を説明することから始めるのです。これは多くの起業家がそうでした。一昔前まではスマホのソーシャルゲームや電子商取引(EC)など、「将来はこの事業分野が成長しそうだ」「どのビジネスが成長の狙い目か」といった視点からのプレゼンが目立っていただけに、大きな変化のうねりを感じました。

――多くの起業家にとっては、「新規株式公開(IPO)」は大きな目標です。社会課題解決型の起業家にとっては、IPOはどんな位置付けなのでしょうか?

この点も大きな変化を感じます。「IPOはゴールではなく、企業成長の一つの通過点である」という考え方が浸透してきていると思います。「社会課題を解決することが目的」なわけですから、資金調達手段の一つとして必要があればIPOに踏み切るが、それが起業家としてのゴールでもない。IPOによって社会の公器となり、「さあいよいよ本格的に社会課題と向き合い、世の中に影響力も発揮していくぞ」という受け止めが多いです。つまり、IPOで「やっとスタート地点に立つことができた」という認識を持っているようです。

■テクノロジーを活用して、社会課題を解決

――「社会課題解決型」のベンチャー企業に、投資家サイドはどんな関心を持っているのでしょうか?

ベンチャーキャピタル(VC)にとって、NPO法人のように事業をするソーシャルビジネスはなかなか投資の対象になりませんが、社会課題の解決に取り組みながら、しかもそれをテクノロジーを活用することで解決するビジネスモデルを確立できているベンチャー企業には、かなりの注目が集まっています。

世界で資産運用している機関投資家は、気候変動など世界規模の社会課題を解決しようとする企業に高い評価を与えるようになっていますが、未公開企業にも着目するようになった点が注目に値します。たとえば、新興国で低所得者向けの小口融資(マイクロファイナンス)のビジネスを手がけている「五常・アンド・カンパニー」(東京・渋谷)は、世界的に有名なスコットランド拠点の資産運用会社「ベイリー・ギフォード」からの資金を調達したことが特筆されます。

起業家にも変化が見られます。有力な機関投資家などに、株式を中長期にわたり保有してもらい、安定的なバックアップを得ることで、社会課題に向き合うビジネスに腰を据えて取り組んでいくというかたちを模索するベンチャー経営者が増えています。

――先ほど、社会課題をテクノロジーを活用して解決するビジネスモデルを確立したベンチャー企業が注目されているとのことでしたが、具体的にどんな企業があるのでしょうか?

私たちの投資先でもある「グローバルモビリティサービス」(=GMS、東京・港)は典型的なフィンテックとモビリティーを融合したスタートアップです。事業内容はなかなかユニークで、エンジンの起動や停止を遠隔で制御する全地球測位システム(GPS)・通信機能をのせた専用機を車両に取り付け、車両ローンの与信管理を支援する事業を、東南アジアや日本で展開しています。ローンの支払いが滞るとエンジンを遠隔で起動制御しますが、支払いがあれば再び稼働させる仕組みです。貸し倒れが減るので、これまでの基準だったらローンの与信審査が通らなかった低所得の人たちも、車両を買うためのローンが組めるうえに、その際の金利も下げることができます。貧困から抜け出せない人たちが経済的に自立するきっかけになっています。日本でも、こういう社会課題を解決する起業が増えていくのではないでしょうか。