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【銅冶勇人】あえて「アフリカ」を押し出さない。支援しながらしっかり稼ぐ戦略

令和の時代 日本の社長
アフリカ・ガーナの子どもたちと交流する銅冶勇人さん=本人提供

■アフリカに雇用をつくるアパレル

――アフリカ支援では、NPO法人による活動と、株式会社によるビジネスの両方を手がけていますね。

NPO法人の「Doooooooo(ドゥ)」と株式会社「DOYA」、この2つの法人を同時に回しながら、アフリカを支援しています。NPOの方は、ガーナとケニアを中心に学校を建設し、仕事がない人たちのために工場を建設しています。学校で給食を提供したり、性教育を行ったりしています。

株式会社の方は「CLOUDY」というアパレルブランドを運営しています。もともと、アフリカの現地雇用をつくるために生まれたブランドです。現地で自社の工場をつくって、そこで生産したプロダクトを日本を中心に販売しながら、売り上げの10%をNPOに還元して、資金と人を循環させながらビジネス展開しています。

アパレルブランド「CLOUDY」の店舗=東京都渋谷区、井手さゆり撮影

――アフリカ支援に関わるきっかけを教えてください。

「世界ウルルン滞在記」というテレビ番組が好きで、大学の卒業旅行では「人生で二度と行かない場所に行き、二度とできない経験をしよう」と思い、ケニアのマサイ族にホームステイしました。そのとき偶然訪ねたのが、アフリカで2番目に大きいといわれる「キベラ」というスラム街でした。

そこで見た光景に衝撃を受けました。仕事はないし、学校もない。インフラ設備も悪く、トイレは200世帯に一つしかなかった。あまりの衝撃に、「一生をかけてこの地域の人たちと何か一緒にできないだろうか」という気持ちがわき出てきました。もともと途上国に興味があったわけではなく、いまこうした活動とビジネスをやっていることに、一番びっくりしているのは自分自身です。

■ゴールドマン・サックスで思い浮かべたスラム

アフリカ・ガーナで現地の人と=銅冶さん提供

――大学卒業後は、大手金融機関ゴールドマン・サックス証券に就職されたのですね。

卒業旅行から帰ってきてから、就職が決まっていたゴールドマン・サックスで社会人生活をスタートしました。外資系金融志望だったわけではなく、もともとテレビ局志望で内定をいただきました。その時点で、就職活動は終わったつもりでしたが、周りのみんなが「すごい人たちが集まっている会社があるらしい」と話しているのを聞きまして、締め切り直前、ゴールドマン・サックスにエントリーシートを提出しました。

当時は、ゴールドマン・サックスという会社のことも、証券会社・投資銀行が何をやっているかも全然知りませんでした。この会社の面接では、多くの現場の人たちに会って話をしました。そこで、「この会社は全員が同じ方向を見て仕事をしている」と感じました。ここで働けたら、どんな仕事の内容でも絶対に成長できるだろうと確信したのです。そして、ありがたいことに内定をいただきました。

――NPO法人を立ち上げたのは、ゴールドマン・サックスの在職中でした。外資系金融機関といえば、非常に忙しいといわれますが、働きながらNPO法人を回すのは大変だったのでは。

本業の仕事はたしかにハードでした。でも、スラムの光景を思い出すたびに、「自分には、友人も家族も食事も仕事も全部ある。それなのに悩んでいるなんて」という気持ちになりました。

そのころ、もういちど現地に行ってみたいと思っていて、入社してから1年後に現地に行きました。そのとき、「やはり自分は、この場所で、この人たちと一緒に何かをしたい」という気持ちを確かめることができました。そこで、まずはNPOをつくって支援活動を始めようと考えまして、在職中にNPOを立ち上げました。

アフリカ・ガーナで現地の人とともに=銅冶さん提供

――ゴールドマン・サックスは計7年間働いてから退職し、今度は株式会社をつくりましたね。

働きながら、会社をつくる準備はしていました。ある日、部下に「アフリカ支援活動の方が楽しそうですね」と言われて、「そんなことないよ」と言ってはみたものの、10分後に妙な気持ちになりました。「あっ、これはもう自分が部下に対して背中を見せられていないな」と思いました。同じ仕事をがんばるチームで、違うことに一生懸命な人がいることほど、全体のモチベーションが下がることってないと思います。僕は、もうこの組織、チームにいてはいけないと考えまして、翌日すぐに辞表を出しました。そのとき、自分がそう見えていることを率直に指摘してくれた当時の部下には感謝しています。

■異なる「ものさし」の理解が大事

アフリカを支援するNPO法人と、アフリカの素材を使った製品を扱うアパレルブランド「CLOUDY」を展開する銅冶勇人さん=東京都渋谷区、井手さゆり撮影

――実際にビジネスを始めて、どんな苦労がありましたか?

ガーナという遠く離れた国で、まったく異なる文化の人たちと仕事をする大変さはありました。工場のミシンを勝手に売ってきてしまう人がいたり、学校建設現場に作業員が来なかったり、そんなことがふつうにあります。そういう現地の人にもそれぞれに理由があるのですが、「生活に困ったからミシンを売った」「神様が休んでいいと言ったから休んだ」というものです。

こちらのルールとしては、そんなこと絶対にダメじゃん、そんなのありえないじゃん、と思ってしまいますが、一緒に働くうちに、「自分がもし同じ生活環境で生きていたら、やっちゃうな、やってしまう可能性はある」と思うようになりました。まずは、お互いの「ものさし」の違いを理解するように努めています。

アフリカ・ガーナの自社工場を訪問した銅冶勇人さん(左から2番目)=本人提供

――「ものさし」の違いというのは非常に興味深いです。銅冶さんが意識している「ものさし」の違いについて詳しく教えてください。

僕がスラム街で見た光景は、一日一食をどうやって食べようかという人たち、物乞いをする子どもたちでした。僕の生活にはないシーンがあって、人びとが求めているものの水準が圧倒的に自分とは違う。自分が当たり前に受けてきた教育がそこになかったり、親が出してくれた一日三食のご飯が出てこなかったり。その格差というものを現地で感じたことが、いまの行動につながったのは確かです。

ところが、振り返ってみると、それを「格差」と感じたのは、あくまで自分の「ものさし」を基準に照らして、そうとらえていたのだと思います。僕たちにとっての「当たり前」がそこにはないので、そういう生活はよくないことだと思ってしまうかもしれないけど、アフリカでは、ささいなことでみんなが笑い、一食のご飯ですごく楽しんでいる光景も目にしました。現地の人たちにとっては、これが「幸せ」なのかもしれない。そんなことを考えたとき、「格差」という言葉でひとくくりにしないで、現地の人たちの生活の選択肢を広げてあげることが重要だと思うようになりました。

■「数字をつくる」ことにこだわる

「CLOUDY」で販売されているマスク=東京都渋谷区、井手さゆり撮影

――アフリカ支援を目的としながらも、アパレルブランド「CLOUDY」はビジネスでもあります。どんなことを大事にしながら、事業をしているのでしょうか?

NPOを絡めて事業会社をやっていますが、一番大事なことは「数字をつくる」ことだと思います。数字をつくっていく、つまり「しっかり稼ぐ」ということです。数字をつくることによって、現地で雇用をより多く生むことができるし、学校をたくさん建設して教育の場を提供できる、給食を提供できる、ということにつながっていきます。

この「MIYASHITA PARK」(東京都渋谷区の商業施設)の店舗を見ていただいても分かるように、アフリカの写真って一枚もないんですね。かつ、何か貧困をうたっているようなものは、まったくありません。これには狙いがあります。ふだんからアフリカ支援に関心がある人であれば、アフリカの写真などを掲げている空間には入りやすいかもしれません。しかし、日本というマーケットでは、それに関心がある人は、ほんのわずかだと思うのです。日ごろ、「アフリカの貧困問題って、ちょっと気になるな」というぐらいの人は、日本にもたくさんいるかもしれません。でも、そういう方々が「貧困問題」を前面に押し出したショップに入るかといったら、きっと入らないです。店に入りづらいということに加えて、「何かを買わなくちゃいけない」と思ってしまうかもしれません。

「CLOUDY」では環境に配慮した紙製のハンガーを使っている=井手さゆり撮影

まずは、私たちの「CLOUDY」というブランドを好きになってもらうこと、気に入ってもらうこと、かわいいと思っていただくことを大事にしています。そうなってもらわない限り、ビジネスの継続性がないからです。しっかりした「数字をつくる」ためにも、アフリカ支援のためではなく、いちアパレルブランドとして好きになってもらうということが一番大事なのだと考えています。

現地で学校建設をして分かったことがあります。世界のいろいろな組織や団体が学校をつくっているのですが、その多くの運営が継続していないのです。学校を建てること、そこに一生懸命になっています。でも大事なのは「その後」の運営です。支援をどう継続できるか。その資金を得るためためにもアパレルブランドのビジネスで「数字をつくる」ことを、とても意識しています。

■若い世代に広がる共感

――銅冶さんが展開している活動や事業が、若い世代にも共感を呼んでいるようですね。

私たちはインターンを募集していないのですが、それでも募集があって、現在20人ほどを受け入れています。CLOUDYの店舗に履歴書を持参する大学生のほか、高校生からの問い合わせもあります。若い世代の意識はものすごく高まってきていると実感します。

ガーナの工場では、訓練中の従業員がつくったものもあり、商品としては出せないものがあります。そういった「B品」だけを並べて販売するイベントを開きまして、これはインターンの学生主体で運営してもらいました。ここでしか学べないこと、経験できないことを得てもらえればと思っています。