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中国は何を目指し、どこに向かうのか 理解のヒントが延安にある

At the Scene 現場を旅する 更新日: 公開日:
毛沢東が暮らした楊家嶺の窰洞は人気の観光スポットだ

1937年1月、後に「建国の父」となる毛沢東がここに拠点を構えた。国民党軍に追われ、「長征」と呼ばれる約1万2000キロの苦難の行軍の末にたどり着いた。出発時に8万人以上いた紅軍兵は、1万人以下にまで減っていたという。だが、この地に約10年間とどまった毛は、抗日戦争や国共内戦の指揮をとりつつ革命の礎を築いた。

正面に見えるのが宝塔山。山頂に高さ44メートル、9層の塔が建つ

毛ら党幹部は、日本軍の空襲などで住まいや党中央の拠点をたびたび移した。最も長く過ごしたのが、中心から3キロ西北にある楊家嶺(②)だ。黄土高原特有の横穴式洞窟住居「窰洞」が保存され、毛や周恩来などの当時の生活ぶりが垣間見える。毛は42年、党思想教育の「整風運動」に着手し、ライバルを粛清した。45年には楊家嶺の中央大礼堂で開かれた第7回党大会後、党主席に就き、名実ともに党最高指導者となった。

第7回共産党大会が開かれた楊家嶺の中央大礼堂は、観光客の記念撮影スポット

楊家嶺から西へ5キロ行くと、44~47年に党中央が置かれた棗園(③)がある。ここで毛が行った「為人民服務(人民に奉仕する)」という演説は、党の代表的なスローガンとなった。現在、北京の中枢・中南海の門にもこの5文字が刻まれている。

棗園には当時の共産党を率いた毛沢東(中央)らの銅像が建つ

共産党は延安に着いた頃は崩壊寸前だったが、第7回党大会時は全土に党員121万人を有するまでになっていた。党勢拡大の成功は、巧みな宣伝工作によるところが大きい。毛は米国人ジャーナリスト、エドガー・スノーの取材に応じ、その書籍が若者たちを大いに刺激した。入党希望者が延安に集まる現象に手応えを感じた毛は、新聞、ラジオ、映画などの事業に力を入れた。市中心部にある延安新聞記念館(④)には、毛が記録映画の撮影時にポーズを決める写真が掲げられている。

毛は「革命に重要なのは銃とペンだ」とし、メディアは党の「喉と舌」、つまり代弁者だと説いた。現行の中国憲法は言論や出版の自由を認めるとする一方、権利の行使にあたっては国家や社会の利益を損なってはならないと定める。権力監視や批判が許されない点は、西側社会におけるメディアの性格と大きく異なる点だ。

延安新聞記念館は窰洞の形をモチーフにした建築

正面広場に5メートルの毛沢東像がそびえ立つ延安革命記念館(⑤)には、多くの観光客が詰めかけていた。習近平指導部は愛党・愛国教育の一環として、こうした「紅色ツアー」を推進している。

延安革命記念館の広場で記念撮影する紅軍服姿の観光客

延安から東へ70キロの場所には、習近平国家主席が文化大革命の下放運動によって送り込まれた梁家河村がある。69年、15歳で来た習氏は約7年間を梁家河で過ごした。北京の都会生活に慣れ親しんだ習青年にとって、窰洞で暮らす最大の難点はトイレの異臭だったという。習氏は国家主席就任後、中国全土の公衆トイレの衛生環境を改善する「トイレ革命」の旗を振り続けているが、梁家河の原体験が影響しているのかもしれない。梁家河も習氏の原点を学ぶ場所として整備され、連日多くの党員が訪れている。

日本にとって、共産党を知る意味は何か。一党支配や社会主義は私たちとは異なるものだが、隣国から目を背けることもできない。彼らは何を目指し、どこへ向かうのか。理解への手がかりが、延安にある。

雨岔大峡谷。砂岩の浸食により美しい曲線模様がつくられた

共産党の歴史はちょっと……、という人には延安郊外の自然観光がおすすめ。市中心から南西70キロにある雨岔大峡谷(⑥)は、黄土が長い年月をかけて雨水に浸食され、神秘的な波紋を描く峡谷となった。中国版アンテロープキャニオンとも称される。2017年に発見されたばかりで、自然の姿が残されている。

陝西省と山西省の境にある黄河壺口瀑布

市内から南東へ150キロ、陝西省と山西省の境にあるのが中国3大滝の一つ、黄河壺口瀑布(⑦)だ。川幅300メートル以上の上流からつぼの口のように狭まった下流へ、一気に流れ落ちる姿から名付けられた。夏は轟音が響く壮大な滝だが、冬は氷柱が連なり、美しさが際立つ。

■小米涼皮

宝塔山のふもとにあるレストラン「老延安・延安菜・小米加歩槍」に入ると、大勢の地元客でにぎわっていた。「老延安」は地元延安の味という意味。「小米加歩槍」はアワと小銃を指し、劣悪な条件で打ち勝ったという共産党の故事にちなむ。実際、黄土高原の土地は乾き、農業環境は厳しい。だが、そこは食にうるさい中国人。舌をうならせる料理は、ごまんとある。

延安を含む陝西省の名物と言えば、秦の始皇帝の時代にはあったとされる冷たい麺料理の涼皮だ。店員に「これ絶対食べて!」と薦められるまま、アワの「小米涼皮」を注文。うどんに負けないモチモチ感たっぷりの平たい麺に、ピリ辛の麻辣だれが絡みつく。絶妙の味だ。

小米涼皮。ピリ辛たれとの相性が最高

盆地形状の延安は、夏の暑さを利用した発酵酒も有名。キビで作ったどぶろく「陝北米酒」は甘み、酸味、苦み、渋みが一体化した独特のおいしさだ。延安の人々の宴席や春節(旧正月)には欠かせないという。