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布団の中、不安を音楽でかき消すシングルマザーの夜 女性に重くのしかかるコロナ禍

World Now
40代シングルマザーの小学1年の子どもが保育園でつくった。「かわいくできてません?」。女性はうれしそうに言った

小学1年のわが子が、寝息を立てている。フローリングに敷いた布団で添い寝する母親は、スマホを手にした。ユーチューブで人気アーティストの米津玄師やジャズの曲をかける。コロナ禍、眠れぬ夜の習慣になった。「この先、どうなるんだろう」。頭に浮かぶ不安を、寝落ちするまで音楽でかき消す。

子どもの将来のため、ためた貯金を取り崩し、日々の生活費に充てる。「親として情けない」。自分を責めてしまう。

母親は40代。2人の子を育てるシングルマザーだ。新型コロナウイルスが感染拡大する以前は200万円ほど預金があった。子どもたちの進学に備え、2年くらいかけて蓄えていた。元夫から養育費の支払いは一度もない。

厚生労働省の2016年度の調査によると、母子家庭で離婚した父親から養育費の支払いが「現在もある」と答えたのは24.3%にとどまり、「受け取ったことがない」は56.0%に上る。離婚後、養育費を支払わない父親という存在が、母子家庭の貧困リスクを高める。

母親は時給900円のパートで製造業の会社で働く。コロナ禍で受注減に陥り、シフトに入れないことが増えた。以前なら手取りは月12万円ほどあったが、5月は手取り7万円ちょっと、6月も手取り9万円近く。預金に手をつけなければ、暮らせない日々が続く。

収入は減っても、家賃や光熱費といった固定費は減らない。みるみる残高は減り、コロナ前の半分に。「子どもたちの将来の選択の幅も一緒に減っていっているような気がして」

上の子は高校2年で、そろそろ進路を決めなくてはいけない。進学を希望したら費用はどうすればいいのか。自身が高校を中退した母親は、子どもの選択肢は狭めたくないと考える。

「困窮者に優しい国じゃないんだな」。母親はそう漏らす。悩んだ揚げ句、生活保護の相談を自治体にしたが、教育費としてためていた預金が基準を超え、利用できないと言われた。行政に頼りたくないという思いに折り合いを付け、助けを求めて差し出した手を、握り返してくれない。「子どものためのお金も使い切ってからでないと助けてくれないなんて。行政って何のためにあるのか」

「子どもの教育費を生活費に使うのがつらい」と話す関東地方の40代のシングルマザー

子どもの貧困対策に取り組む公益財団法人「あすのば」が、小学生から高校生の入学や卒業時に3万〜5万円を1回支給する「入学・新生活応援給付金」には20年度、過去最多の約8300人から応募があり、約3000人に支給した。小河光治代表理事は「生活保護の仕組みでは、子どものためにためたお金を切り崩して、『すっからかん』になってからでないと利用できない。新たな制度設計を考えるべきだ」と話す。子どもの貧困対策を担当する内閣府の調査研究報告書(17年)も指摘するように、学力は子どもの将来の収入にもかかわる。教育格差は世代間の「貧困の連鎖」につながる要素の一つだ。

コロナ禍は格差の固定化という側面もあぶり出す。東京都内の50代女性は、最初の緊急事態宣言が出た昨年4月から給料がゼロになった。フルタイムのパートで働いていたイタリア料理店が休業したからだ。店では10年以上のベテランで、調理を担当。時給は1200円ほど。午前10時〜午後11時の勤務中はずっと立ちっぱなしで、きつい仕事だった。週6日働き、得られるのは手取り22万円前後。それが突然ゼロになった。

コロナ対策で、政府が感染対策の「急所」と位置づけてきたのが飲食の場だった。飲食業は非正規雇用の女性も多く働く。さらに、そもそも女性は男性に比べて賃金が低く、貧困に直面しやすい。厚生労働省のデータ(20年)によると、男性の「正社員・正職員」の月給は約35万円。これに対し、女性は「正社員・正職員」でも約27万円、パート主婦も含む非正規雇用では約19万円だ。

非正規、さらに自分一人で生計を立てる女性。この二つの要素がそろうと、日本社会では貧困リスクが高くなる。シングルマザーや独身女性の貧困という、別々にみえる現象には共通の背景がある。雇用や性別による待遇格差という、日本の構造問題。そこに、コロナ禍が襲いかかり、「女性不況」を引き起こした。

世界でも状況は同じだ。国連は、日本で最初の緊急事態宣言が出て雇用に大きな影響が出始めた昨年4月に公表した報告書で世界で起きている状況をこう表現した。「世界中で、女性のほうが収入や貯蓄が少なく、不安定な仕事に就いており、貧困層が多く働く業種において雇用されている場合が多い。社会保障にアクセスしにくく、ひとり親家庭の大半を占めている。経済的ショックを吸収する余力が男性より小さい」。リーマン・ショックで製造業で派遣社員として働く男性中心に影響が出た時とは状況が異なる。

ユーチューブで好きな音楽を聴く女性。眠れない夜はそう過ごすようになった

前出の都内の女性の場合、蓄えがあれば、違ったかも知れない。しかし、現実には難しかった。女性は、「元シングルマザー」。子ども一人を育てるため、昼は自動車販売店、夜は水商売という掛け持ちを続けた。手取りは合計して月20万〜25万円。電気や水道が止まるのは日常茶飯事だった。

「毎月の給料を、毎月の生活費に充てる感じだった。貯金する余裕なんてなかった」。子どもは社会人になり、一人で暮らす女性を困窮が襲った。会社の都合で休業させられた場合、休業手当を払う義務があるが、勤め先の料理店を経営する会社は支払いに応じなかった。女性は政府が原資を出す緊急小口資金や総合支援資金を借り、生活費に充てた。会社側と交渉の末、政府が新たに設けた「休業支援金」をもらえた。休業手当を受けとれなかった働き手に休業前の1日当たりの平均賃金の8割を保障する仕組みだ。

女性は、世間でいう定年を過ぎても働くつもりだ。シングルマザーだった頃、保険料を払う余裕がなかった。だから公的年金は当てにならない。ようやく見つけた障害者のグループホームでの仕事を続けながら、民間の資格をとろうと考えている。「子どもには頼らない。自分の力で生きていく」