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出生率が過去最低に 出産がもはや現実的な選択肢ではない、アメリカ女性の現実

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出産を控えたアメリカの女性=ロイター

アメリカにおける「母であること」への不合理な期待
The unreasonable expectations of American motherhood
6月15日付 ワシントン・ポスト紙


今年5月、アメリカで発表されたある統計が話題になった。2020年アメリカで生まれた赤ちゃんは、40年以上ぶりの最低レベルまで落ち込んだというものである。1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数を示す「合計特殊出生率」は1.64で、1930年代に記録を取り始めた時からもっとも低い数値だった。これは日本の1.34よりは高いが、人口規模が長期的に維持されるreplacement rate(人口置換率)を下回るので心配である。

新型コロナは出産にも影響を与えただろう。経済が低迷すると、出生率が減ることは一般的な現象だ。得体(えたい)の知れないウイルスが拡散する中で、子どもを産むために病院に通うことを恐れて、妊娠を断念した人もいただろう。しかし、2020年の統計で発表された出生率は長期にわたる下落トレンドが続いた結果であって、コロナだけが原因ではないだろうというのが多くの専門家の意見である。

社会的な観点から考えると、出生率の低下には良いと考えられる面も、良くないと考えられる面もある。良い面としては、昔よりも女性がバースコントロールをして子どもを産むか否かを選択できるようになったということだ。家族の規模をintentionally(意識的に)調整しているとも言えるかもしれない。一方、出生率の低下は解決すべき大きな問題で、従来のfamily values(家族中心の価値観)が失われていることを意味していると懸念する声も多い。

経済面でも、メリットとデメリットがある。人口増加が鈍化すれば、経済格差は広がり、inherited wealth(相続財産)が果たす役割や既存企業の独占も拡大するだろう。また、イノベーションと起業家精神の低下や新築住宅への需要の低迷、さらには社会保障制度が財政難に直面すると予測する人口統計学者もいる。一方、子どもの数が減ることで、子ども一人ひとりに、教育を始めとしたより多くの投資ができるので、大人になったときにclimb the ladder(出世し)て、社会に貢献できる生産性のある市民が生まれやすいと指摘する学者もいる。

アメリカの政府は既に様々な方法で子どもを持つ家庭を優遇する政策を複数実施している。さらに次の施策として考えられるのは、新しいサービスやfinancial inducements(金銭的な誘因)によって、より多くの子どもを生むという選択をしてもらうことである。この施策の実現性をめぐる議論は増えているが、いまだに合意は取れていない。

そもそも政府が出生率をsteer(操作する)ことは本当に可能なのかという疑問も大きい。Pronatalist(出産奨励)の政策を実施した国の事例を見てみると、それほど大きな影響を与えられなかったように思われる。

このような施策を考える前に、まずは出生率の低下の原因を考える必要があるだろう。最近の統計から見られる特徴として、30歳以下の女性の出産がplummeting(急落している)ことが挙げられる。出産する前に、キャリアの基盤を作りたいと思っている人が多いという。また、未婚女性の出産も低下している。

アメリカの政策と習慣は母親にとって「地獄のようなもの」と思う人もいる。まずは、金銭面の理由である。託児所費用と家賃を合わせると、賃金を上回ることは少なくない。他の多くの国は託児所の利用にかかる費用をサポートし、無料あるいは低価格にしているが、アメリカにはそのような政策がないのである。

出産直後のアメリカの女性には、政府からのcodified(法律として成文化された)サポートもない。フィンランドであれば赤ちゃんを育てるために必要なもの全てがつまっている箱が政府から無料で届く。イギリスであるような助産師による無料の産後訪問もない。ヨーロッパや韓国、イスラエル、メキシコ、チリなどの国々が市民に提供しているmandated(義務化された)有給出産休暇もアメリカにはない。

こうした理由で、多くのアメリカ人女性にとって、子どもを生むことは現実的ではなくなっている。

近年、parenting(育児)がよりストレスを伴う作業になったということも出産の低下につながっていると思われる。現在のアメリカの親たちは、前の世代よりも子どもに多くのお金と時間を費やしている。いつも子どもに目をかけ、たくさんのenrichment classes(習い事)に通わせるなど、絶えず何かを与えなければというプレッシャーが強い。この現象はintensive parenting(徹底的な育児を行うこと)と呼ばれ、当初は上層中産階級の現象だったが、現在はその他の社会的階級の間でも急増しているそうだ。

結果として、子どもに完全にフォーカスしていない母親はshaming(批判)を受けてしまう。このような現象も子供を持つ魅力を低下してしまう効果がある。

20世紀に行われた世論調査によると、アメリカの女性は望んでいる数よりたくさんの子どもを生んでいたそうだ。しかし、ここ数十年で状況は逆転した。このような状況に鑑みながら、公共政策の役割を考えるとするならば、「女性と家族が望むだけ自由に子どもを生めるようにすることだろう」と記事は指摘している。しかし、どのような支援をしてこの目標を実現するのか、難しい課題が残る。



アメリカにおける「母であること」への不合理な期待
The unreasonable expectations of American motherhood
6月15日付 ワシントン・ポスト紙

アメリカ人女性が出産を遅らせる理由
Why American Women Everywhere Are Delaying Motherhood
6月16日付 ニューヨーク・タイムズ紙

少子化に伴う新たな議論:子供を持つことを奨励するかどうか
Low Birthrates Beckon New Debate: Whether to Encourage Having Children
6月7日付 ウォール・ストリート・ジャーナル紙