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コロナ禍のマンハッタン、アパートの非常階段がつむいだ鳥と人との物語

ニューヨークタイムズ 世界の話題
A female red-tailed hawk watches over her two-week-old chick in a nest outside a West Harlem apartment on May 3, 2021, in New York. When first discovered, the hawk returned, again and again, turning Michael Palma Mir's fire escape — six stories above a nonbucolic corner of upper Broadway — into a nest and a soap opera for social media. (Dave Sanders/The New York Times)
ニューヨーク・マンハッタン北部のウェストハーレムにあるアパート6階で、非常階段の巣(右下)を見張るアカオノスリのメス、リリー=2021年5月3日、Dave Sanders/©2021 The New York Times。巣には、孵化(ふか)して2週間のアルバがいる

何かよいことがありそうとは、とても思えない出会いだった。

ニューヨーク・マンハッタン北部のウェストハーレムのアパート。6階に住むマイケル・パルマミール(57)が最初にその鳥に気づいたのは、2021年3月初めごろのことだった。

見たこともない美しい猛禽(もうきん)類が、すぐ外にいた。カメラをつかんで、できるだけ近くから撮ろうと、窓から頭を出した。

「3フィート(90センチ余)先にいた。すぐに飛びかかってきて、頭を爪でやられそうになったことしか覚えていない」

とっさに身を引き、窓をあわてて閉めた。もう、この鳥を見るチャンスはないだろうと思った。

ところが、違った。繰り返しやってきた。

マンハッタンを斜めに貫くブロードウェー。その北の一角にあるパルマミールの住まいのすぐ外の非常階段で、巣作りを始めたのだった。田園とはおよそ縁のない大都会のど真ん中だけに、ソーシャルメディアの格好の話題になった。

メロドラマ風にいえば、「ビリーとリリーの物語」となろうか。最初に現れたのが、オスのアカオノスリ(訳注=北米に分布するタカ科ノスリ属の鳥。尾羽が赤っぽい)のビリー。後から来たのが、メスのリリーだった。パルマミールが、両親にちなんでこう名付けた。

このつがいによる世代をつなぐ「再生と喜び」のドラマ。そこには、淡い悲しみも混じり、エサとなったネズミの死骸という小道具も登場する。

ニューヨークっ子は、高い家賃などでお金がかかる上に、自然との接点に乏しい暮らしをしている。そのせいか、見ることが珍しい猛禽類には目がないようだ。

2004年には、マンハッタンの目抜き通りの5番街にある豪華マンションの管理組合が、アカオノスリの巣を取り除こうとしたことがある。「ペールメールとローラ」と名付けられたこの巣のつがいは、街中で知らぬ人のいないほどのセレブになった。その人気ぶりは、巣を守ろうとした一人、米女優でコメディアンのメアリー・タイラー・ムーアをしのぎもした。

今回は、コロナ禍も人気の追い風になっているようだ。

ニューヨーク市の公園管理当局で「都会の野生動物の専門家」を自負するサニー・コラオによると、アカオノスリの巣は、市内では20年に35カ所で確認されている(実際には、もっとあるのかもしれない)。

Michael Palma Mir, 57, stands for a portrait on the roof of his building in West Harlem on May 3, 2021, in New York. He discovered a red-tailed hawk returning, again and again, turning his fire escape — six stories above a nonbucolic corner of upper Broadway — into a nest and a soap opera for social media. (Dave Sanders/The New York Times)
非常階段をアカオノスリの巣に取られたマイケル・パルマミール=2021年5月3日、ウェストハーレム、Dave Sanders/©2021 The New York Times。コロナ禍のもとで営巣とひなの生育をつぶさに観察し、「生命の証し」に感動したという

パルマミールは、鳥にはとくに関心はなかった。しかし、パンデミックの最中にビリーが現れ、「生命の証し」を見る思いがしたという。住んでいるところは、市内で最も感染率が高い地区の一つで、死者も多く出ていたからだ。

アカオノスリとの出会いから数日後。窓の外でコツコツと音がするのが聞こえた。建物の修理でもしているのだろうとカーテンを開けてみると、網戸の一部が引きちぎられ、非常階段に散乱していた。さらに、小枝が山のようにあった。やがて、小枝をくわえて戻ってくる姿を目撃した。

パルマミールは、新しいもの好きなニューヨークっ子なら、だれもがする行動に出た。ビリーと名付け、その写真をインスタグラムとフェイスブックに投稿した。

関連情報を得ようと、市の公園当局にも電話を入れた。すると、先のコラオにつながった。オスのアカオノスリは、巣をいくつか作る。メスが気に入った巣があると、そこにつがいですみ着くようになるとのことだった。

それを聞いて、パルマミールはいささか気落ちした。ブロードウェーは、独身男性のすまいとしては申し分ない。でも、家族を養うには、騒音がひどいし、ごみごみしすぎている。近くの公園の方が、ましではないかと思ったのだ。

しかし、ビリーは巣作りをせっせと続けた。小枝や引きちぎった網戸の網、古新聞をボウル状に組み上げた。

すぐに、もっと体の大きなメスがやってきた。3年前に亡くなった母にちなんで、リリーと名付けた。

数日後、リリーが巣の中の定位置を離れると、卵が一つ見えた。

そこで、パルマミールは、巣を見下ろす位置に防犯カメラを取り付けた。これで、邪魔をせずにビリーとリリーをスマホで観察できるようになった。毎朝起きると観察を始め、ベッドにクギ付けになった。

この2羽には、それぞれに個性があった。ビリーは、より攻撃的だった。すぐに、食べられるかどうかカメラをチェックした。リリーは、ほとんどずっと卵を抱いていた。とくに、夜は抱き続けた。

夜が明けると、朝食を運んでくるのがビリーの日課だった。ネズミが多かった。ときには、地上で捕まえたはずのハトも持ってきた(習性として、空中で捕食することはめったにない)。

6日後には、二つ目の卵が見えた。

ソーシャルメディアで一緒に巣の観察をする仲間も近所にできた。

「自分のガールフレンドは、いつも同性の肩を持つ」とパルマミール。「ビリーは帰ってくるべき時間にちゃんと帰ってきているの?

外でブラブラしてばかりで、するべきことをしていないのでは?……」

いつもは、日が昇ると朝食を運んできたビリーが、午前9時ごろまで戻ってこなかったことがあった。そのときは、リリーはビリーに見向きもせずに、すぐに飛び立った。「やつめ、ピンチに陥ったな」とパルマミールは思った。

一日一日が過ぎ、何週間もが過ぎた。

「50日以内にひながかえらなかったら、もう卵は孵化(ふか)しないだろう」と市公園当局のコラオは注意してくれた。

49日目のことだった。卵の一つに小さな穴が開いた。「孵化への過程で、最もワクワクさせられる劇的な瞬間が来そうだ」とパルマミールは投稿した。

A two-week-old red-tailed hawk waits for its mother to return to it
非常階段に作られた巣で元気に育つアカオノスリのひな、アルバ=2021年5月3日、ウェストハーレム、Dave Sanders/©2021 The New York Times。孵化して6、7週間で巣立ちを迎える

最初から、先にかえったひなの方が、後のひなより体が大きく、たくましかった。大きい方をアルバ、小さい方をエリとパルマミールは名付けた。リリーは、せがむアルバにせっせとエサを与えたが、エリは残り物に甘んじるしかなかった。

弱い方のひなは、大丈夫なのかと友人たちは心配してくれた。

自然は、冷徹な掟(おきて)に貫かれている。その週のうちに、エリは死んだ。リリーは、小さな亡きがらにぼろ切れと新しい小枝をかぶせ、巣の底の方に隠した。

「懸命に生きようとした、小さくも大きな命が消えた」とパルマミールはフェイスブックに投稿した。見てくれた人からは、言葉や絵文字で哀悼の意が返ってきた。「長いこと地下鉄で泣いたことなんかなかったのに、こらえ切れなかった」という返信もあった。

一家はアルバが巣立ちするまで、一緒に過ごすことになるだろう、と市公園当局のコラオは見ている。通常なら、孵化してから6、7週間後にその時期が来る。それから先は、一緒なのかもしれないし、バラバラになるのかもしれない。

最近、2度目のワクチン接種を済ませたパルマミールにとってこの一家は、暗い時節に届いたありがたい贈り物のような存在になった。そのありがたさを多くの人々と共有し、それだけ巣ごもりの孤独感も薄らいだ。

「自分にとってとても励みになるし、それが自然の尊さというものなのだろう」とパルマミールはつくづくと思う。

彼らは、人間に奪われた生きる場所を、(訳注=非常階段のようなところですら生き抜いて)なんとか取り戻そうとしているのではないか。自分たち人間が彼らを押しのけたのだから、すまわせてあげてしかるべきだ――そんなことを考えるようになった。

だから、「来年も戻ってきてくれれば、こんなにうれしいことはない」。

「エリが死んだときに、その現実がわが身にしみた。そう。われわれはみんな、なんとかやっていこうとしているんだ。なんとかして、生き続けようとしているんだ」(抄訳)

(John Leland)©2021 The New York Times

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