米国の2020年の出生率は、6年連続で低下した。米連邦政府は5月5日、そう報告し、新型コロナウイルスのパンデミックが米国人女性の妊娠を遅らせる傾向を加速させたとする初期のエビデンスを指摘した。
パンデミックが始まった当初、米国人の家庭生活に大きな変化が起きてカップルが一緒に巣ごもりするようになり、出生率の回復につながるとの見方が出ていた。実際には、その反対の現象が起きたようだ。パンデミックが始まった時期に妊娠した子が生まれる20年末時点で、出生率は最も著しく低下した。
米政府の月次データによると、昨年12月の出生数は前年同期比で約8%減少した。この12月は、どの月と比べても減少幅が最も大きかった。年間の減少は4%だったことをデータが示している。米国における昨年の出生は360万5201人で、1979年以降最も少なかった。出生率――15~44歳の女性1千人当たりの乳幼児数として計算する――は、直近のピーク時である2007年から約19%低下している。
出生率の低下は米国の人口動態の変化の一部にすぎない。移民数の実質的な横ばい状態と死亡数の増加が相まって、米国の過去10年間の人口は、政府が18世紀に人口統計をとり始めて以来、2番目に遅いペースで増加している。死亡率を押し上げ、出生率を低くさせたパンデミックは、この傾向を深刻化させたようである。
ニューハンプシャー大学の人口統計学者ケネス・ジョンソンは、死亡者数の増加――2019年から約18%増――と出生数の減少が米国人口の高齢化につながったとみている。ジョンソンによると、死亡数が出生数を上回った州は昨年が計25州で、19年末の5州から増加している。
「出生率はこれまでで最も低い」と彼は言い、「ある時点で、論点はこうなるだろう。つまり、出産を遅らせている女性は、赤ちゃんを産むことになるのか? もし出産しないとなると、米国の出生構造は恒久的な減少になる」と指摘した。
女性は仕事や収入が不確実な場合、出産を先延ばしにするので、経済危機の後、出生率は低下する傾向にある。株式市場の暴落が大恐慌を引き起こした後の1930年代初期に出生率は急落した。しかし、ひとたび経済が回復し始めると、数年後に出生率は上向いた。ところが、最近の出生率の落ち込み状態は、2008年の大不況後に始まったが、経済が改善しても続いている。この異常なパターンは、何か別のことが起きているのではないかと人口学者たちの問題意識をかき立てている。
「これは米国の大きな社会変化だ」。出産問題を研究しているジョンズホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院の人口統計学者アリソン・ジェミルはそう指摘し、「家族を形成する年齢が徐々に高くなっていく」とみている。
20年の出生数は、すべての年齢層で減少した。40代後半の女性と10代前半の少女は例外だったが、それは総出生数のごく一部でしかない。ティーンエージャーの出生率は19年と比べて8%低下し、20歳から24歳の出生率は6%下がった。政府によると、20代前半の出生率は07年以来40%低下した。ティーンエージャーが最も顕著に低下しており、07年以来63%下がったことをデータが示している。
これは数十年前と比べて劇的な変化である。当時は、特にティーンエージャーの間で意図しない妊娠の割合が高く、欧州の女性と比べて米国人女性は出産時の年齢が低く出産の頻度も高い傾向があった。今日では初産の平均年齢は27歳で、10年の23歳から大幅に年齢が上がっている。
「私は子どもを持つ責任を負うにはまだあまりにも若すぎる」と25歳のモリー・シャープは言う。テネシー州ジョンソンシティにあるイーストテネシー州立大学の女性の健康研究グループで働いており、「自分自身や大人であることについて、まだ学んでいるところだ。いま、自分が子どもを産む責任を引き受けるなんて考えられない」と言うのだ。
シャープは昨年12月に婚約したが、相手はいま医学生で、すでに約7年間一緒に暮らしている。彼女が言うには、デイケア(託児所)から大学まで、子どもの養育コストの上昇とともに、彼女と婚約者が彼の医学部の学費で多額のローンを抱えることが出産にブレーキをかけてきた。彼女にとって理想的な出産年齢は30代前半で、30歳前に子どもを産むことは思い描けないと言っている。
「親しい友人で子どもを産んだ人は誰もいない」とシャープ。彼女は大学院に入ったばかりだ。
親になることが選択肢の一つとみなされるようになったのはつい最近のことである。サウスカロライナ大学の社会学者キャロライン・ステン・ハートネットによると、1960年代後半に全米レベルで経口避妊薬が登場するまでは、女性が自身の出産を制御できるケースはきわめて少なかった。50年代は、子どもの数は平均3人だった。今日では、人口統計学者が「人口置換水準以下」と呼ぶ約1.6人だ。これは、人口の減少を意味する。
出生率の低下は必ずしも悪いことではないとハートネットは言う。低下を招いている要因の一つは、意図しない妊娠の減少であり、一部の人は単に出産を先延ばしにしているだけなのかもしれない。つまり、米国人女性の一部は最終的に自分たちが望む数の子を産む可能性があり、それが先送りされるというだけのことかもしれないのだ。
「女性が自分の出産を以前よりコントロールできると感じているなら、それは朗報かもしれない」とハートネット。「だが、仕事が不安定になり、家族が最低限の機能を果たせなくなったために子を持つのが困難になったのだとすれば、良いニュースではない」と彼女は言う。
ウェストバージニア州ハリケーン出身の英語教師テス・ジャクソン(28)は、その両方を経験した。高校時代に意図しない妊娠で生まれた10歳の子どもがいる。しかし、彼女の話だと、避妊がうまくいくようになり、その後は何年間も子どもを産んでいない。最近、彼女とパートナーは他に子どもを持たないことを決意し、彼女は不妊手術を受けた。
「母も祖母も子どもを持たない人生なんて想像できなかった」と彼女は言い、「いまは、子どもを持つことの社会的要請は少なくなっている。他に選択肢はある」と話していた。(抄訳)
(Sabrina Tavernise)©2021 The New York Times
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