Cate Cadell
[チラ(中国) 13日 ロイター] - 中国最西端、新疆ウイグル自治区。チラ(策勒)の街中にあるジアマン・モスクは、高い壁と中国共産党の宣伝看板に隠されていた。近くを通りかかっても、そこが宗教上の聖地であるとは分からない。
ムスリムにとって聖なる月であるラマダンに当たる4月末。長年にわたり市内最大の信仰の場であった同モスクの中では、監視カメラの下、小さな網格子の背後で、ウイグル族の女性2人が座っていた。
この場所が今もモスクとして機能しているのかどうか、ロイターでは確認できなかった。
記者が到着して数分もしないうちに、私服を着た4人の男性が現われ、モスクの周囲に陣取り、近隣の住居用建物の門を閉ざした。
男性らは記者団に、写真撮影は禁じられている、退去するようにと告げた。
ロイター記者がここはモスクだったのかと質問すると、男性の1人が、「ここにはモスクはない。ここがモスクだったことはない」と答えた。男性は名乗ることを拒んだ。
公開されている2019年の衛星画像では建物の4隅に尖塔の存在が確認できるが、今は姿を消している。かつてモスク中央の円屋根があったところには、大きな青い金属製の箱が据えられている。衛星画像が撮影された時点で礼拝の場として使われていたかどうかは明らかではない。
研究者や人権擁護団体、元住民らは「大半がムスリムのウイグル族が暮らす新疆ウイグル自治区において数千カ所のモスクが弾圧の対象になっている」と批判するが、中国はここ数カ月、国営メディアや政府主催の取材ツアーを通じた反論キャンペーンを強化している。
同自治区や中央政府の当局者は、北京において、宗教施設の強制的な取り壊しや立入制限措置の例はないと記者団に説明し、現地訪問・取材を呼びかけた。
新疆ウイグル自治政府のエリジャン・アナヤト報道官は昨年末、モスクについて「むしろ私たちは宗教施設を保護する一連の措置を講じてきた」と語った。
中国外務省の華春瑩報道官は12日、一部に取り壊されたモスクはあるものの、他のモスクは地域活性化の一環として改修・拡張されており、ムスリムは自宅・モスクのいずれにおいても公然と宗教的な行為を行うことができると語った。
ジャーナリストによる新疆ウイグル自治区の訪問が制限されている点を問われた華報道官は、記者たちは「中国人民の信頼を勝ち取り」客観的に報道するよう、さらに努力しなければならないと述べた。
ロイターはラマダン期間中の12日間にわたる取材ツアーの中で、新疆ウイグル自治区の南西部・中央部の7つの郡にある20カ所以上のモスクを訪れた。
中央政府のモスク保護・宗教の自由擁護のキャンペーンと、直接目にする現実との間には、顕著な違いが見られた。
■「素晴らしい生活」
中国は繰り返し、新疆は「分離主義者、テロリスト、宗教過激派」による深刻な脅威に晒されていると主張し、彼らは攻撃を画策し、この地域を故郷とするウイグル族と中国の多数派を占める漢族との対立をあおっているとしてきた。
宗教的行為を制限するキャンペーンや、人権擁護団体が「政治的洗脳の強要」と表現するウイグル族その他のムスリム100万人以上に対する大規模な弾圧は、2017年に本格的に始まった。
中国政府は、強制収容所へのムスリム系住民の収容を否定し、「職業訓練センター」であると称している。
政府によれば、新疆ウイグル自治区には2万カ所以上のモスクがあるが、その状態に関する詳しいデータはないとしている。
活動を続けている一部のモスクには、信徒は登録必須であり、域外の市民や外国人、18歳以下の者は立入不可であるとの表示が掲げられている。
活動中のモスクには監視カメラが設置され、中国の国旗や中国共産党への忠誠を謳うプロパガンダが掲げられている。
現地を訪問した記者団には、ほぼ常に私服の担当者が同行し、写真を撮らないよう警告してきた。
6年前に国内中部からホタン市に移ってきたという漢族の女性は、礼拝を望むムスリム住民は自宅でやればいい、と話す。
「ここにはもう、そういうムスリムはいない」とこの女性は言う。「そういう」とは、モスクで礼拝していたような、という意味だ。彼女はさらに「新疆での生活は素晴らしい」と語った。
■「民族の団結」
現地を訪れるジャーナリストや外交官が見せられるのは、ホータン市のジアマン・モスクのように、国家による承認を受けた一部のモスクだ。
ホータン市の当局者は、同市の宣伝局の手配によりロイターが訪問したモスクで、「すべての費用を党が負担している」と語った。
「エイド」というニックネーム以外は名乗ろうとしなかったこの当局者によれば、男性はイスラム教の慣例に従い1日5回モスクで自由に礼拝を行うことができるという。
記者団の訪問中、日暮れと共に、ほとんどが高齢者の男性数十人が礼拝に訪れた。その後彼らは断食を解き、地方政府が提供する食事を摂った。
170年以上前に建立されたジアマン・モスクは、この地域で文化財に指定されている4カ所のモスクの1つである。新疆ウイグル自治政府によれば、改修資金は中央政府から提供されているという。
モスクの指導者であるイマームが靴を脱ぐと、「エイド」は、政府が提供した、靴をポリエステルフィルムで包む機械を披露した。
「もうモスクで靴を脱ぐ必要さえない。とても便利になった」と彼は言う。
新疆ウイグル自治区の首都ウルムチから約40キロ西に位置するサンジ(昌吉)。市内のシンク・モスクでは、緑と赤の尖塔が崩れ落ち、荒れ果てた建物の中庭では中国国旗が翻っている。
ロイターではサンジの街中のモスク10カ所の衛星画像を分析し、そのうち6カ所を訪れた。
日時と共に記録されている画像によれば、合計31カ所の尖塔と、緑や金で彩色された円屋根12カ所が、2018年4月以降の2カ月間で撤去されている。
複数のモスクでは、イスラム様式の建築の代わりに、中国風の屋根が設けられていた。サンジのティアンチロード・モスクもその1つで、公開されている衛星画像によれば、金色の円屋根と尖塔は2018年に撤去された。
オーストラリア戦略政策研究所の研究者らは、2020年、新疆ウイグル自治区内の900カ所を調査した結果、過去3年以内に1万6000カ所のモスクが部分的に、あるいは完全に破壊されたと推測している。
シンク・モスクの外側に設置された看板は、この場所に住宅団地が建設されると告げていた。
「民族の団結に向けて、美しい新疆を建設しよう」と看板には書かれていた。
(翻訳:エァクレーレン)