スエズ運河で座礁(訳注=3月23日発生)した大型コンテナ船は運河を塞ぎ、多くの船を足止めした。だが、運河の渋滞は解消されても、事故を起こしたような大型コンテナ船が(海運業界から)なくなるようなことはない。
海運会社はここ何十年間にもわたり、電子機器や衣類、オモチャ、その他の商品に対する世界的な需要拡大に牽引(けんいん)され、船舶の大型化を推し進めてきた。船の規模が大型化する勢いが近年加速しているが、それはしばしば経済的に理にかなっている。より大きな船は概して、建造費やコンテナ単位の運用費が安上がりだからだ。しかし、最大級の船舶は、そうした船に対応する運河や港湾だけでなく、特有の問題を抱え込む可能性がある。
「彼らは、自分たちにとって一番効率がいいと考えたこと、つまり船の大型化を実行したのだが、他のことにあまり注意を払わなかった」とマーク・レビンソンは話す。エコノミストで、グローバル化の歴史についての著書「Outside the Box」がある。「そうした大型船舶は海運会社が思っていたほど効率的ではないことがわかった」と言うのだ。
リスクがあるにもかかわらず、依然として巨大船舶がグローバルな海運を支配している。海運データ会社のAlphalinerによると、コンテナ船の世界的船団には1万8千から2万4千個のコンテナを運べる最大船種133隻が含まれている。さらに、53隻の受注がある。
世界で最初に商業的に成功したコンテナの運搬は1956年に行われ、改造された蒸気船が使われ、コンテナ数十個が米ニュージャージーからテキサスに運ばれた。以来、産業は数十年間にわたり着実に成長を遂げ、80年代にはグローバルな貿易が加速するにつれ、海運業界は伸び、船舶の規模も大型化した。
OECD(経済協力開発機構)傘下の組織「国際交通フォーラム(ITF)」によると、その10年間でコンテナ船の平均容量は28%増えた。90年代はさらに36%増加した。その後、海運大手A.P.Moller-Maersk(マースク、訳注=コペンハーゲンに本拠を置く世界最大級の海運会社)は2006年に巨大船Emma Maersk(エマ・マースク)を就航させた。この船は約1万5千個のコンテナを積載できる。これは、他のどの船よりも積載量が約70%多かった。
「時の経過とともに容量がわずかずつ増えていくという傾向が変化し、突然、飛躍的に増加するようになり、激しい競争を引き起こした」とレビンソンは言う。
現在、最大の船は2万4千個ものコンテナを積める。標準の20フィートコンテナ(訳注=容積32.1立方メートル)は、中型のSUV(スポーツ用多目的車)2台か、グローサリーストア(食品雑貨店)の商品棚の1列分ないし2列分をゆうに埋められる商品を収容できる。
海運業界と船舶規模の成長は現代経済において中心的な役割を果たし、中国を製造業大国に押し上げ、eコマースの伸長やイケアやアマゾンといった小売業者の台頭を後押しした。海運業者にとって、より大きな船舶の建造は理にかなっている。大型船は、建造、燃料、人員の切り詰めを可能にするからである。
「超大型コンテナ船(ULCV)は大量の商品を世界中に運搬する際、きわめて効率的だ」と大手海運会社Hapag-Lloydのスポークスマン、ティム・セイファートは声明で述べている。ただ、「より効率的な船や、そうでない船が海洋や運河を航行するなら、海上輸送がより安全に、より環境に優しくなるのか疑わしい」と言う。
Maerskは、スエズ運河で座礁したコンテナ船「エバーギブン」のサイズを非難するにはまだ早過ぎると言っている。超大型船は「何年も前からあったし、スエズ運河を問題なく航行してきた」。同社の最高技術責任者Palle Brodsgaard Laursenは3月30日の声明で、そう述べている。
しかし、船舶の規模拡大は代償を伴い、港や運河の競合を招く。たとえば、パナマ運河は2016年、50億ドル以上を投入してより大きな船が航行できるよう拡張した。
さらにそれは、パナマ運河を通過してくる船を呼び込むために、米東海岸沿いの港の間で競争を引き起こした。ボルティモア、マイアミ、バージニア州ノーフォークを含むいくつかの港は、水深を深くするための浚渫(しゅんせつ)事業に着手した。ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社は、アジアやその他の地域からの貨物を積載する巨大船舶に対応するためにベイヨン橋を押し上げる17億ドルのプロジェクトを主導した。
ますます大型化する船舶に対応するための競争は、港やターミナルの運営当局に新しい機器の購入を促した。この3月には、たとえば、カリフォルニア州のオークランド港が1600トンのクレーン3基を設置。ある港湾管理者は「最大の船の受け入れ」を可能にするためだと言っていた。
しかし、海運データ会社Alphalinerの上級アナリスト、ヤン・ティードマンによると、港は大型船の受け入れにコストをかけたが、それに見合う収益を得られていない。
「メリットはほとんど一方的に海運業者側にあるので、海運業者は操縦席にいて船の大型化を推し進めるだけで、その費用はターミナル・オペレーターや港湾(管理者)、場合によっては納税者が負担をしていることが議論になっている」。そう彼は話していた。
船が大型化すれば、使える港や水路はそれだけ少なくなる。超大型コンテナ船「エバーギブン」がスエズ運河で座礁したような問題が起きた場合、埋め合わせが難しく、より多くの保険費用がかかり、サプライチェーンに大きな脅威をもたらす。巨大な船舶は、貿易が急速に拡大している世界向けに設計されている。だが、それは米国と中国、英国と欧州連合(EU)、そしてその他の大規模な貿易相手国間で高度な地政学的かつ経済的な緊張が生じている今日の状況からはほど遠い想定のもとでデザインされたものなのだ。(抄訳)
(Niraj Chokshi)©2021 The New York Times
ニューヨーク・タイムズ紙が編集する週末版英字新聞の購読はこちらから