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環境に優しい暮らしを実践してもらうには?―SDGs達成とJICA海外協力隊―

Sponsored by 独立行政法人国際協力機構(JICA) 公開日:

持続可能なよりよい世界を2030年までに実現することを目指して、2015年に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)。その達成のためには、一人ひとりが「自分事」として行動することが必要です。JICA海外協力隊は、開発途上国が抱えるさまざまな課題解決に向けて現地の人たちと協力して活動を行っています。今回はSDGs達成の大きな核となっている環境問題に対して、JICA海外協力隊の「環境教育」の職種で取り組んだ2人が、協力隊に応募した思いや、現地での活動について語り合いました。(以下、敬称略)

環境教育に関する活動をしたいという思いから選んだJICA海外協力隊

加藤超大(以下、加藤):私は、元々環境教育に関心があり、大学3年生のときに日本環境教育フォーラム(JEEF)が主催している、環境教育の実践者や研究者が年に一度集まる「清里ミーティング」にボランティアとして参加しました。環境問題解決のために熱く議論を交わす参加者に感銘を受け、将来は環境教育の職に就きたいと思うようになりました。そのため、まずは自分の武器を作ろうと、また海外で働きたい希望もあったので、大学卒業のタイミングに合わせてJICA海外協力隊へ応募しました。 2012年から2年間、ヨルダンのアジュルン県で活動しました。山口さんは?

山口麗子(以下、山口):私は幼少期、水俣市にある「熊本県環境センター」によく家族で訪れていたのですが、そこでの環境学習がきっかけで幼いながらに環境問題に興味を持ち、将来的にも何かをやっていきたいと考えていました。大学でも環境サークルに所属し、地域の方々と協力してごみ拾いをしたり、大学にかけあって、構内にゴーヤを使った緑のカーテン作りを企画したりしました。

JICA海外協力隊に応募したのは、会社から勧められたのがきっかけでした。私は2016年からインドネシアのロンボク島で活動しました。

現地の小学校で、環境問題について授業を行う山口さん

「ごみはポイ捨てしちゃだめ」からスタート

加藤:ヨルダンというと砂漠のイメージがあるかもしれませんが、派遣されたアジュルン県は緑が豊かな素敵な場所でした。現地の小中学校で環境教育の授業を行い、教員に向けた研修にも取り組みました。

子どもたちは、世界で気候変動が起きていることや、森林伐採が行われていることなど環境問題についての知識は豊富でした。けれども、いざ授業後の休憩時間になると、食べ終わったお菓子の袋をその場でポイ捨てするなど、自分のとった行動がその後どのように環境に影響を与えるかイメージできておらず、なんとなく頭で「よくない」とわかっていても行動につながっていない。それが問題だと感じました。

障害者入所施設で授業を行う加藤さん

山口:私が赴任したインドネシアのロンボク島では、赴任先の環境局からの要請は3R(リデュース・リユース・リサイクル)を地域住民に広めることでした。しかし、ごみの分別以前に道路や川にごみが散乱している状況で、「ごみはその辺に捨てちゃいけない」ということを伝えていくことから始まりました。島にある複数の小中学校を回りながら、ごみ問題や地球温暖化、リサイクル工作など、11のテーマを基本に授業を行っていました。

現地の人に伝えるためのアプローチ

加藤:授業では、環境問題の知識を与えるだけではなく、子どもたちが楽しく学び、子ども自身が日々の行動に移してもらえるように、ごみの分解にかかる年数をクイズ形式で問う授業をしたり、学校の校庭や自然保護区での体験参加型の活動なども行って、自然の素晴らしさを肌で感じてもらおうとしたりしました。また、他職種の協力隊仲間やスタッフを巻き込んで、音楽の授業と連携した「環境音楽フェスティバル」を企画するなど、いろんな切り口で環境教育を行いました。

リユース教育の一環として、新聞紙を使って折り紙の折り方を教えていた

山口:私は、現地で環境活動をしている「Bank Sampah(ごみ銀行)」という団体と協力して活動を行うこともありました。ごみ銀行とは、空き缶や段ボールなどの廃棄物を収集して換金する取り組みをしている団体で、活動はインドネシア全体に広がっています。ごみ銀行のメンバーの方は、「何か困ったことがあったら相談してね」と言ってくれました。私は言語の違いから、授業で伝えたいことがうまく伝えられない悩みがありましたが、彼らが授業の補足説明などをしてくれたことでうまく進むようになりました。

いくつかの学校では、環境局、地域住民、ごみ銀行の関係性が強まり、私が退任したあとも3者が協力しあって活動を一部継続してくれています。

JICA海外協力隊の活動がSDGs達成につながっていく

加藤:環境教育の活動は、SDGsのいくつかのゴールにもつながっていると思います。

ゴール4「質の高い教育をみんなに」、中でも4.7の「教育を通じて、学習者が持続可能な開発のための知識とスキルを獲得する」をベースとして、ゴール13~15(※)に関する環境問題を授業で取り上げ、現地の子どもたちに伝えていました。

※ゴール13「気候変動に具体的な対策を」、14「海の豊かさを守ろう」、15「陸の豊かさも守ろう」

山口:私もゴール13~15を授業のテーマとしていました。とりわけ、温暖化が進むと海面上昇により沈む島があるという話を授業ですると、周囲を海で囲まれたロンボク島では、「自分たちの未来に関わってくるんだ」と関心を持ってくれる子どもたちが多かったです。

加藤:子どもたちが環境問題を“自分たちの問題”としてとらえてくれるとやりがいを感じますよね。

授業でなぜ校内にごみがポイ捨てされてしまうのかみんなで考えたときに、「そもそもごみ箱が少ないからだ」と生徒たちが気づき、空の段ボールを使ってごみ箱をつくり、校内のあちこちに設置しました。さらに、目立つよう段ボールに装飾をしたりポスターをつくったり、ごみ拾いイベントを開催したりするなど活動が広がっていき、アジュルン県の環境優秀校に選ばれるまでになりました。

授業後の休憩時間に現地の子どもたちと

心が強くなった2年間の海外経験

山口:派遣期間を終えたあと、私は勤めていた会社に復職しましたが、加藤さんの進路は?

加藤:はじめにお話しした「清里ミーティング」を主催する日本環境教育フォーラムが、新規職員を探していると聞いて就職しました。バングラデシュ、インドネシア、カンボジア、ベトナムなどでJICAの草の根技術協力や外務省のNGO連携無償資金協力を活用した国際協力に携わっています。

山口:いまも国際協力に関わっていらっしゃるんですね。

加藤:国際協力を仕事にしようと心に決めていたので希望がかなってうれしいです。現在はバングラデシュの農村部で自然学校の設立を進めています。貧困を抱えている地域住民の生計向上と自然環境保全の両立が目的です。自然学校では、自然とふれあう機会が減ったバングラデシュの都会の子どもたちに、マングローブの植林や自然観察会などを実施していこうと考えています。また、農村部の住民が森林の違法伐採などに手を出さなくても、自然学校の運営を手伝うことで収入を得られる仕組みを目指しています。豊かな自然環境が収入を得られる貴重な観光資源と理解してもらうことで、環境問題の意識向上につながると考えています。

バングラデシュで植林活動に取り組む加藤さん

山口:私は、復職してから、会社から新しいことに取り組む人材として注目していただいて、これまで社内改善を始めとする複数のプロジェクトチームに所属してきました。帰国後には「どんな活動をしていたの?」と声をかけてもらうことがあり、会社で報告会を開くこともありました。

最初は「ホームステイ先のホストファミリーと仲良くなれるかな」「語学が苦手……」など不安がいろいろありましたが、海外生活を2年間経験したいまとなっては“なんでもできそう”な気がしています。

加藤:さきほど山口さんが協力隊の活動経験があれば“なんでもできそう”とおっしゃいましたが、その通りだと思います。学んだのは我慢強く取り組みを続ける“持続力”で、多少のことなら驚きもせず、失敗も楽しめるようになりました。

加藤:JICA海外協力隊での2年間は、環境教育や国際協力の基礎を身につけるうえでとても濃い時間となりました。

JICA海外協力隊は、日本の国際協力における“草の根の外交官”であり、国際的にも高い評価を受けています。少しでも興味を持っている方には、ぜひ日本と世界をつなぐ架け橋となってもらいたいと思います。

山口:私の身の回りにも協力隊に興味のある人がいて、「迷っているなら行ったほうがいい」といつも話しています。コロナ禍のように、世界の状況が急に変わってしまうことがあるかもしれません。「私に何ができるか?」は派遣中でも考えることができるので、まずは行動に移してみてほしいと思います。

※JICA海外協力隊の活動は、公式サイトでも詳しく紹介しています。こちらからご覧ください。