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子どもを待ってあげる。注ぐ視線の優しさが伝わる、韓国ベストセラー

Bestsellers 世界の書店から
相場郁朗撮影

子育てを卒業して久しい私は、本書『子どもという世界』というタイトルに、正直、食指が動かなかった。ところが本書は、昨秋の刊行以来、売れ続けていることが気になった。

著者のキム・ソヨンは、編集者として10年余り、子ども向けの本を作っていた。子どもの養育者でもなく、児童心理学の専門家でもない。8歳以上の小学生を対象に、読書教室を運営している。読書教室とは放課後に通う塾の一つだが、学習塾とは異なり、本を読んで考えることや、文章を書くことなどを学ぶところだ。
日々の体験や思いをブログにつづり、それをまとめたのが本書だ。キムは子どもの言動を見て、わが身をふり返る大人だ。

運動靴のひもがうまく結べない子が、「左足は自分で結んだ」と胸を張った。「自分が子どもだったころ、待ってくれる大人はそれほど多くはなかった。今、子どもを待ってあげれば、子どもは別の大人に成長するのかもしれない」

雨に打たれて歩く子を見かけた。しかし平素からキムは、「道で誰かから車に乗せてあげると言われても、絶対に乗ってはダメよ。たとえ先生の車だとしても」と教えている。傘をさしかけたら、警戒されるのではないか。あるいは見知らぬ大人に気を許す経験をさせて、後難を招きはしないだろうか。

キムの葛藤から、子どもが巻き込まれる犯罪の多さが垣間見える。迷った揚げ句に傘をさしかけるが、家までは送らずに別れる。「知らない人に家を教えないでね」と諭しながら。

小6の子が、南北首脳会談をテレビで見て興奮したと言う。「だけど学校ではなぜ、統一の良い点だけしか教えてくれないのか」とキムに質問した。「もしも統一して問題が生じたら、僕たちが大人になって解決しなきゃいけないのに」と案じている。子どもだって、世の中の動きに関心を寄せている。

誰もが自分の意志で生まれてきたのではないのだから、誰もがこの世の構成員として同じ資格を持っている。子どもの存在に注意を払い、子どもに寛大な大人になることは、この社会を良くすることなのかもしれないとキムは言う。読了後、なんだか優しい視線で周囲の子どもたちを見つめたくなった自分がいた。

■内科医がつづった、死と対峙する生き様

『とある死が生に語った』は、腫瘍(しゅよう)内科医のエッセー。抗がん剤治療を担当する著者は、「約束の瞬間が患者にやってくるのを少しだけ遅らせるのが、自分の仕事」と言う。

死と対峙(たいじ)する患者の生き様を記録し、反芻(はんすう)している。「誰かの生と死の記憶が、別の人の生に小さな変化を及ぼすことができるなら、私は彼らから負った借りを、ようやく返せるような気がする」

著者も、高校生のときに父を肺がんで亡くした。大黒柱の突然の死。父の友だと言っていた人々が、借金取りとなって襲いかかってきた。苦学して医学部で学び、ソウル大学病院に勤務して20年余りになる。

大学病院の診療は「時速10人」。1人の医者が600人の患者を抱える「工場式の薄利多売診療」だ。天文学者だった患者から言われた言葉が、胸に突き刺さる。「先生にとって私は、600人のうちの1人かもしれないが、私にとっては先生がたった1人です」

余命6カ月と宣告されても、信じない人が圧倒的に多い。悪い知らせを告げる役目には、精神的なダメージも大きい。患者や保護者に「この医者はダメだ」と面罵されることもある。それでも著者は、できるだけ早い時期に、事実をそのまま伝えようと努めている。

治る見込みがないと告げても、「最後まで最善を尽くしてほしい」と哀願する家族たち。意識のないままチューブにつながれ、体中が膨れ上がり、手足の指が壊死(えし)していく患者にとって、それは最善の治療なのか。ソウル大学病院での抗がん剤治療の終了から死亡までの期間は、平均30日。それが「最善を尽くす」医療の実態だ。

数多くの死を目撃したが、最後の時を悟り、自ら身辺整理のできる患者はほとんどいないという。しかし人間の誕生と死は、他人の記憶としてのみ残る瞬間だ。

他人の記憶に残る自分の最後は、どんなふうでありたいか。それを考えておくことは、生きる態度にも違いとなって現れてくることを示唆している。

■韓国教科書の定番作家

没後10年を記念して編まれたエッセー集『砂粒ほどの真実でも』。韓国の若い世代にとって朴婉緒(パク・ワンソ)は、国語の教科書で必ず出会う作家だ。

植民地の時代にソウルで小学校に通い、朝鮮戦争で学業を中断。結婚後は子育てに追われ、1970年に39歳で文壇にデビューした。40年間に80余編の短編、15編の長編小説などを書いた。

祖母におぶわれて見た真っ赤な夕日に大泣きした幼い日。8歳のパクに「おまえは新女性になれ」と強い口調で言った母。息子に先立たれた失意の底で、生まれたばかりの孫がどれほど心の支えとなったか。日々の営みの中にある痛みや切なさから、心の奥底まで掘り下げて見せる、胸に染み入るエッセーだ。

復刻した小説の数々も、同時に売れている。

韓国のベストセラー(文学)

2月第4週 インターネット書店「図書11番街」より 

『 』内の書名は邦題(出版社)

1 좋은 사람에게만 좋은 사람이면 돼  良い人にだけ良い人であればいい

김재식    キム・ジェシク

人間関係に悩む人々へのメッセージ。著者はSNSで200万のフォロワーを持つ。

2 달러구트 꿈 백화점  タロクート夢百貨店

이미예   イ・ミイェ

夢の世界に誘われ、夜になるのが待ち遠しくなるファンタジー小説。

3 어린이라는 세계   子どもという世界

김소영   キム・ソヨン

子どもだって、この社会の立派な構成員だ。大人の意識を変えるエッセー。

4 모래알만 한 진실이라도   砂粒ほどの真実でも

박완서   パク・ワンソ

没後10年を記念して複数の復刻版が出た。愛され続ける珠玉のエッセー。

5 꼭두각시 살인사건  操り人形殺人事件

ダニエル・コール

『人形は指をさす』シリーズ続編。ニューヨークを舞台にしたミステリー。

6 마음챙김의 시   瞑想の詩

류시화   リュ・シファ

吟遊詩人が、世界中の古代から現代までの珠玉の詩を集めて編んだ。

7 하고 싶은 대로 살아도 괜찮아 好きなように生きても大丈夫

윤정은  ユン・ジョンウン

他人に振り回されず、自分らしく生きたい。私を大切にするためのエッセー。

8 아몬드  

『アーモンド』(祥伝社)

손원평    ソン・ウォンピョン

喜怒哀楽を感じない主人公の喪失と成長の物語が、多くの読者を泣かせた。

9 요리코를 위해  

『頼子のために』(講談社文庫)

法月綸太郎

韓国でも大人気のミステリー作家。翻訳が出たとたんにベストセラー入り。

10 어떤 죽음이 삶에게 말했다  とある死が生に語った

김범석  キム・ボムソク

大学病院がん病棟で、余命短い患者や家族と向き合い続ける医者のエッセー。