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「女性のきめ細かさを…」に抜けている視点 職場のジェンダー格差解消、進めるヒント

LifeStyle 更新日: 公開日:
法政大学の武石恵美子教授=本人提供

3月31日に世界経済フォーラムが発表した「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2021」で、日本は156カ国中120位となった。指標となる4分野のうち「政治」に次いで順位が低いのが「経済」で117位。中でも管理職に占める女性の割合は14.7%で、139位と落ち込んだ。同質的な組織では見過ごされがちな課題に気づき、市場への対応力を高めるうえで、職場のダイバーシティーがいま注目されている。その中でもやはり重要なのが女性の登用だ。増やす上で大事にしたい視点を、法政大学の武石恵美子教授に聞いた。(澤木香織)

■数値目標を掲げる意味

――経団連は、企業の役員に占める女性の割合を「2030年までに30%以上」とする目標に賛同するよう会員企業に呼びかけています。こうした数値目標をどう見ていますか。

よく「クリティカル・マス」と呼ばれますが、3割という数字は、集団の中で少数派の意見がそのグループの代表意見ではなく個々の意見としてとらえられる水準になります。

女性が1、2割しかいない場合には、個人の意見としてではなく、女性の代表意見のようにとらえられてしまうことがある。東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)の発言にもあったように、「女性はこうだ」とひとくくりにされてしまうと、少数派の女性たちは組織の中で居心地が悪くなり、男性社会に同化してしまうことがあります。しかし、3割を超えると個人の意見としてとらえられ、マジョリティーの圧力も減っていきます。

経団連の数値目標はそういった点を踏まえた考え方であると評価できます。ただ、そもそも女性社員が全体の1割しかいないのに、管理職や役員の比率を3割にしようとしたら、そこには無理が生じるので、個別企業の目標設定においては、注意も必要です。

「2030年までに女性役員30%以上」を呼びかけた経団連ダイバーシティー推進委員会の委員長を務める柄沢康喜・三井住友海上火災保険会長(右)と魚谷雅彦・資生堂社長=2021年3月、朝日新聞社撮影

――インタビューの前編で、「多様性には2つの側面がある」という点を教えていただきました。女性を登用するのは、表層的な多様性を高めるということになると思います。日本社会としてはまず、表層的な多様性から取り組んでいるということになるでしょうか。

いま、日本企業がダイバーシティーを推進する上で一番のターゲットとしているのが女性ですね。国際的に見て、日本がそれだけ女性の活躍が遅れていることが背景にあります。能力を十分に生かし切れていないことを反省し、女性に注目する企業が増えるのは自然な流れだと思います。

■数だけ増やしてもうまくいかない

――数を増やすことが先行することで弊害はないでしょうか。

いままでと同じようにやっていても数は増えないので、何かを変えなければいけない。評価などの人事制度や組織文化を変えないまま数だけを増やそうとしてもうまくいきません。

例えば、リーダーシップも多様であることに目を向けることは、女性を含む様々な人がリーダーになれる可能性を広げます。これまでは、背中で見せて部下を引っ張っていくリーダーシップが評価されてきたかもしれません。「サーバントリーダーシップ」と呼ばれるような、部下を支援して困ったときに手をさしのべるリーダーシップもあります。

これまで女性が少なかったのはなぜなのか、増やすためには何が足りないのか、会社ごとの課題を明らかにし、踏み込んだ対応をしなければならないと思います。

――前内閣広報官の辞職に関連して、菅義偉首相がそもそもの任命理由を問われた際、「女性のきめ細かさ」をあげました。「女性のきめ細かさ」「女性ならではの視点」といった表現は一般的にもよく言われます。ただ、女性の中でも様々な視点があり、違和感もあります。どうお考えになりますか。

ダイバーシティには3つのモデルがあると言われています。最も重要なのが、違いを理解して「多様性から学習すること」です。注意が必要なのは、公正な取り扱いを強調するあまりに違いを軽視してマジョリティーへの「同化圧力」が高まること、もしくは、違いを強調して間仕切りされた特定の分野での活躍を期待すること、です。

「女性ならでは」「外国人ならでは」といった言葉の使い方は、それぞれの突出した特性だけを見ていることになります。「女性はきめ細かいコミュニケーションが得意なので、顧客対応に向いている」といった言い方も時々聞きますよね。

これは女性の特性を矮小化し、特定の役割に押し込めてしまうことになりかねません。一方で男性が引き続き意思決定の役割を担い続けてしまえば、いつまでたっても女性が主流の仕事で活躍できないことになる。あらゆる分野に多様な人材が存在して相互に違いを受け入れ、みんなで「がやがや」と意見交換することにより新しい価値を生むことが、多様性から学習するということになりますね。

山田真貴子・内閣広報官(左、当時)。右は記者会見に臨む菅義偉首相=2021年1月13日、首相官邸、惠原弘太郎撮影

■「自信の持ちにくさ」認識を

――実際に女性の登用を進めようとしても「女性が積極的に手をあげない」という声を聞くこともしばしばあります。どういうアプローチが必要でしょうか。

経済学の研究において、男性よりも女性が自信を持ちにくいことは明らかになっています。社会のジェンダー構造と関わっているとされています。現実に、管理職に女性が少ない中で、モデルもいない、何か失敗すると目立ってしまう、そうなると女性全体が非難されてしまうのではないか。そういった不安を背負ってまで挑戦するのは大変だ、という気持ちになるのは当然ではないでしょうか。

日本だけでなく、他の国でも同じ傾向があります。以前スイスの企業からこんな話を聞きました。その企業の人事制度は、ポストが空くと公募をかけるというもの。しかし、難しいマネジメントのポストには女性が手をあげてこないそうです。能力があり、任せられると期待していた女性からも手があがらないというのです。反対に、男性は「なぜ彼が?」というような人が応募してくる。

女性は声をかけないと応募しないし、声をかけても断ることが多いので、説得をするそうなんですね。女性が手をあげないから「やっぱり女性ってこうなんだ」と考えるのではなく、自信を持ちにくい社会状況があることを踏まえて組織が対応する必要があると思います。

そのスイスの企業では、女性の公募がないと次の選考段階に進めないというルールを作ったそうです。男性の応募しかないと次に進めないので、募集する側は女性に声をかけ、結果として女性がポストに就くケースが多いということです。

また、女性の登用を進める際に、一人だけを昇進させるのではなく、複数人を一緒に昇進させて、一人だけが注目されないようにする企業もあります。ロールモデルがなければ不安です。自信を持てるように丁寧に声をかけ、モデルを作る必要があります。