調査はデンマーク、フィンランド、ノルウェー、アイスランド、スウェーデン、フェロー諸島、グリーンランド、オーランド諸島の計5000人(特に16~25歳)を対象としたもの。この記事内での「若者・若い世代」は16~25歳を意味する。
全世代における北欧全体の市民傾向
- 10人中8人が気候変動を心配している
- 10人中8人が気候対策において北欧は先駆者であるべきだと考えている
- 53%が北欧国内でのCO2排出量を減らすべきだと考え、41%が北欧圏外で排出量を減らすべきだと考えている
- 2017年度に比べて、たった2年間で気候・環境分野に対する関心は2倍高まっている
「国内か、それとも他国で排出量を減らすべきか」というのは北欧ではよくある議論だ。特に石油資源に頼るノルウェーでは、「石油の生産は輸出用なので、排出量を発生させているのは他国だ」と責任から逃げようとする傾向があり、現地では環境派から批判されている。
市民は気候対策として今何をしている?
- 90%がゴミ分別
- 65%が衣服などの買い物や消費量を減らす
- 約半数がヴィーガン・ベジタリアンの食生活に移り、環境に優しい交通手段を選ぶ
「健康や美容にいいから」「おしゃれだから、トレンドだから」という理由ではなく、「気候のために」という理由でエコ市民が増えているのが北欧の特徴だ。
「気候のために、今後はさらに何をしたい?」という質問には
- これまでのように買う服の量を減らし、古着を買う
- 67%が環境に優しい交通手段をして、
- 48%が住宅でのエネルギーを再生可能なものに変えたいと考えている
また2017年度の調査と比較して、たった2年間でさらに多くの人が環境団体に入会しており(13%上昇)、環境対策デモに参加したいと考えている(16%上昇)。
16~25歳はSNSを利用、肉を食べる日を減らしている
調査書ではスウェーデンが生んだ環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの影響もあって、メディアの「若者の環境意識」に対する注目自体もより熱くなっていると指摘。若い世代のほうが環境意識が高そうだが、北欧全体では「どの世代も」気候変動を同じくらいに心配しているという結果になった。
それでも若者について特筆すべきことは、「デモに参加する、環境団体に所属する」などの政治的解決に向けた「グレタ的行動」だ。
- 市民的不服従をしたことがあると答えたのは大人の世代で2%の一方、若い世代では11%に上る。
- 若い世代は19%がデモに参加したことがあると回答(45歳以上の世代は7%)
- 若い世代の17%は環境団体に入会している(その上の世代は10%)
- 若者世代のうち女性の72%は「この数年間で気候のためにベジタリアン食生活をした」と回答(男性よりもその割合は29%高い)
- SNSを積極的に利用
若者があまり消費をしない背景には経済的な影響もあるだろうと指摘されている。
地球のためなら規則も破る。デモが当たり前の世代
調査書では「若者にとって環境団体活動に熱心になったり、市民的不服従という選択は、行動に移しやすいからだろう」と分析しているが、「規則を破る抗議が若者にとって敷居が低い」というのは日本では驚く視点かもしれない。
この若い世代は、気候のためなら「市民的不服従」(良心にもとづいた行動で法律や規則などに非暴力的手段で違反する行為)にも抵抗がないことが数字として表れている。
そもそも「市民的不服従」という言葉は、日本よりも北欧では一般的にメディアでよく見る言葉であることもポイントだ。海水汚染に抗議するために若者が市民的不服従をして工事や開発作業を中断させるというのはノルウェーではたまに見かけるニュースだが、私はこの言葉を日本で聞くことはなかったと思う。ちなみに市民的不服従を主導するのは政党の青年部や環境青年団体が関わっていることが多い。彼らは数年後、政治家や議員になると「今だったらしないかなぁ」とコメントすることもある。違法なのでもちろん警察に連行され罰金を払うこともあるが、彼らが後悔している様子はなく、罰金を払うために募金を募ることさえもある。「若気の至り」的な空気で受け止めるのは、北欧社会の器の広さゆえか。
気候のために「さらにしたい」と若者が思っている暮らしの変化
大人と若者世代の大きな違いは、「気候のために、これからどういう行動をしたいか」だと調査書は指摘。
- 34%の若者は住宅でのエネルギーを再生可能なものに変えることを検討(66歳以上の世代は2%)
- 23%が環境団体に加入することを検討(66歳以上の世代は4%)
- 27%が環境破壊につながる生産を邪魔をする・学校ストライキをするなどの市民的不服従を今後することに意欲的(他の世代では平均は14%)
大人以上に政治システムに希望
全世代では政治システムに対する信頼は51%が「とても・ある程度信頼している」と回答、一方で「気候変動のための対策を政治家がやり遂げると信頼しているか」に対しては「とても・ある程度信頼している」と答えたのは30%と低い。
「気候のためにこれから何をしたらいいと考えているか」という質問に対しては、「政党に入る」と答えた全世代の平均は13%に対して、若い男性は22%、若い女性は24%。
「平等」や「信頼」は北欧モデルを理解するうえで欠かせない言葉だ。平等社会で市民と政治家の距離は近く、政治やメディアに対する信頼度も高い。政治システムは信頼していても、気候分野において政治家への期待が低いのは以前から知られた傾向。政治家は会見では高い理想を語り、政府の目標数値は高いが、「実際には実現されない」ことが繰り返されてきているために、がっかりしている市民が多い。
一方で66歳以上の世代に比べて「政治システムをほとんど信頼していない」と答えた若者は少なく、21歳未満の世代の86%は北欧は気候対策で先駆者であるべきだと考えており、野心的で希望を失っていない。
全体では地方在住者よりも大都市在住者が、男性よりも女性のほうが気候変動を憂慮。反対に気候変動を心配せずに政治システムもあまり信頼していないという人には、高等教育を受けていない男性が多いという傾向となった。
まとめ
北欧でエコ意識が高い理由について、同書では「福祉制度が広く整った社会では、気候対策に熱心な市民が多い傾向がある」と指摘されている。
北欧市民全体が気候変動を心配しているのは明白であり、市民レベルではゴミ分別などが浸透しているが、これからさらに「新品の服の買い物を減らし、古着を買う」「環境に優しい交通手段をする」「肉を食べる回数を減らす」傾向が読み取れる。また若いグレタ世代はSNSをうまく使いながら、デモに参加・環境団体に入会するなどのさらに一歩進んだ行動をとることが普通になっていくだろう。
コロナ禍ということもあり、北欧ではお馴染みの街頭や国会前の抗議活動はしにくい。だが、北欧の若者は英語が得意なので、ネットを活用しながら、言葉や国境の壁を越えた「デジタル抗議活動」「デジタル学校ストライキ」のカルチャーを育てていくと考えられる。
「北欧はなぜエコ先進国なのか」と疑問に思っている人はこの調査結果を参考にして考えてみると、北欧モデルがちょっと理解できるかもしれない。