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日本と連携強化、意気込むオーストラリア 背景事情を元日本大使が読み解く

揺れる世界 日本の針路
2020年11月来日したオーストラリアのスコット・モリソン首相(左)と高橋礼一郎駐オーストラリア大使(当時)=高橋氏提供

――中国系実業家が2017年、労働党議員に献金した事件が起きたころから、オーストラリアと中国との関係が悪化していきました。

大使として着任した後、ターンブル元首相にお会いする機会があった。ASIO(オーストラリアの防諜機関)は既に、中国がオーストラリアの内政に干渉しようとしているという警告を発していたそうだ。当初は、中国との経済関係を重視し、中国が将来、国際社会で占める地位の大きさを考えた場合、ASIOの報告はやや大げさで誇張されているという意見が、与党内でも語られていた時期もあったようだ。

2016年の世論調査では、「アジアで最も重要な国は中国だ」という回答が大きく他を引き離していた。だが、その後も総選挙の時期に、オーストラリア議会を直接標的にしたハッキング事件が起こり、その背後に中国の関与があることに確実な証拠があるとされた。こうした事が積み重なり、オーストラリアの世論が急速に厳しくなっていった。

――中国はどのように対応していたのですか。

最初は、過剰反応すると逆効果だと判断し、「ローキー(目立たない態度)で対応したい」と考えていたようだ。中国がオーストラリアに発信する反応は常に三点しかなかった。「オーストラリアの指摘は事実ではない」「中国脅威論は妄想でしかない」「オーストラリアが中国を非難するのは、米国に無差別に追従しているにすぎない」というものだった。

これでは対話の糸口にならない。こうしたなかで、新型コロナウイルスのパンデミックが起きた。20年春に、モリソン首相はコロナの発生原因と経緯について独立した調査を行うべきだと公に主張した。中国を名指しで非難したわけではないが、中国の成競業駐オーストラリア大使は、非友好的なオーストラリアのワインや牛肉のボイコット、さらには中国人留学生がオーストラリアから引き揚げる選択肢に言及するなど、露骨な制裁の可能性に言及した。

これを契機に、豪中関係は更に悪化の一途をたどることになった。中国の反応はその後もエスカレートし、大麦や石炭、ワインなどの品目のオーストラリアからの輸入を事実上妨害する措置を次々に採っている。

――そもそもなぜ、中国はオーストラリアへの内政干渉だと疑われるような行為をしたのでしょうか。

オーストラリアは元々、白豪主義で知られた国だったが、1970年代には、はっきりとその軸足を多文化主義に置いた。積極的に移民を受け入れると共に、アジア太平洋の一員としてのオーストラリアという姿勢を、年を追うごとに明らかにしていった。その過程で人口構成も明確に変わり、1983年にはアジア系移民の数が英国系移民を上回るようになってきた。

中国にとって外交政策、特に人権問題関連のイシューでは、先進民主主義国家、特にアングロサクソングループとの関係は常に問題をはらんでいる。オーストラリアは貿易のうえで中国が決定的に重要で、米欧と地理的に距離もある。中国系の人口が急速に増えてもいる。中国はオーストラリアに目をつけ、アングロサクソングループのなかの親中国家としたいと考えたのではないか、という分析も出ている。

オンラインで会談に臨む菅義偉首相(手前右から2人目)、茂木敏充外相(同3人目)ら。画面内は(右下から時計回りに)モディ印首相、モリソン豪首相、バイデン米大統領=2021年3月12日、首相官邸、恵原弘太郎撮影

――太平洋戦争時の日本軍のように、中国が中部や南部太平洋への進出を考えていると指摘する人もいます。

旧帝国海軍の戦略は、太平洋の島嶼国を抑えることで、米豪の安全保障協力を地理的に遮断するというものだった。今、中国が同じ地域で影響力を拡大しているのは、同じような考えに基づいているのではないか、という主張だろう。

確かに、島嶼国へのここ10年ほどの中国の進出は目を見張るものがある。オーストラリアの対中警戒感が増してきた大きな理由のひとつにもなっている。

ただ、少なくとも現状で、こうしたアナロジーがそのまま当てはまるかどうかは明確ではない。中国がインド太平洋地域で行おうとしている一方的な現状変更の試みは、やはり、南シナ海と東南アジアであり、「主戦場」はそこではないかと思う。

――オーストラリア内に対中関係を改善しようという動きはないのですか。

日本の大使として、モリソン政権の外交政策に関わる様々な人と話す機会があった。特に非公式の席では「この状況をずっと続けるわけにはいかない。現状を打開するために、まず公式と非公式の双方で、中国のトップにメッセージを伝えられるコミュニケーションのチャンネルを作らなければならない」という話が出ていた。

しかし、今のところ、なかなかうまく進んでいないのが現状ではないか。中国はオーストラリアとのハイレベル接触に応じず、対話の条件として「反中報道をやめること」といった紋切り型の条件をつけてもいる。

オーストラリアの一部には、こうした中国の姿勢について「大国主義の現れであり、オーストラリアを南半球の小国と見くびっている。だから、対等の対話の土俵に乗ってこない」とい解釈する見方も出てきている。

私に対して「日本は伝統的に中国と意思疎通のための重層的なチャンネルを作るのがうまい。自民党の重鎮や国家安全保障局のトップなど、場合によって使い分けて成果を出している。こうした点は日本のやり方から学びたい」と語りかける関係者もいた。

――日豪防衛協力が進んでいます。オーストラリアは日本に対し、何を期待しているのでしょうか。

「同盟」という言葉を巡っては、「巻き込まれる」懸念と、「見捨てられる」懸念があり、世論はその間を巡って揺れるという構図がある。オーストラリアの場合は、圧倒的に「見捨てられる」懸念の方が強いと思う。

オーストラリアは第1次と第2次の両大戦、朝鮮、ベトナム、イラク、アフガニスタンと続く同盟国、最初は英国でその後米国からの派兵要請を一度も拒んだことがない。

そのようなオーストラリアにとって、「米国ファースト」を掲げた米トランプ政権の4年間が様々な不安をもたらした事実は否定できない。
こうした背景が、近年、オーストラリアが日本との防衛協力に極めて積極的になっている理由のひとつだろう。また、それ以前から、例えば2011年3月の東日本大震災の際、オーストラリア軍は発災の4日後にはC17輸送機と70人余の人員を派遣し、被災地の救援活動にあたってくれた。当時、軍を派遣したのは米国とオーストラリアだけだった。

日本も2019年秋から起きたオーストラリアの大規模な山火事の際、航空自衛隊がC130輸送機2機をオーストラリアに派遣した。私も現場を視察したが、自衛隊とオーストラリア軍の共同作業は本当に息が合い、一つのラグビーチームのようだった。

確かにオーストラリア軍の規模は6万人程度に過ぎない。有事にその存在が、直ちに大きな役割を果たすわけではないかもしれない。中国の台頭に対抗する抑止力をインド太平洋で維持するための唯一の方法は、米国の強力なプレゼンスの確保だ。

しかし、これを日米2国間の関係だけで、今後数十年の困難な時期に本当に維持できるだろうか。日本に意思や能力のうえで本当に信頼できるパートナーがいて、一緒に米国に働きかけ続けることが死活的に重要だ。

そのパートナーをどの国に求めるのか。個人的な意見として、あえて大胆に言えば、韓国に期待することはもはや現実的ではないように思える。ASEAN(東南アジア諸国連合)の存在は重要だが、中国に対して一つの声としてまとまっていけるのか、明確ではない。インドはカギとなる役割を果たしうる潜在力があるが、その外交姿勢には未知数な点も多い。

オーストラリアは日本にとっても、最も自然で頼りになるパートナーだと思う。

――オーストラリアは、日米が主導している「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想や、日米豪印の安全保障対話(QUAD)について、どのように考えているのでしょうか。

オーストラリアの立場は、FOIPについて日本と極めて近い。この構想が公になった当初、一部で中国を封じ込める手段ではないかという解釈があった。このため、インドネシアなどのASEAN諸国の立場に十分配慮しながら、より多くの国々に受け入れられる構想として推進されている。

オーストラリアはQUADについて積極的だが、インドとの関係がうまくいかなかった歴史もあり、日本の役割に期待しているようだ。

――日本政府のなかには、米、英、豪、カナダ、ニュージーランドの英語圏5カ国で構成する情報ネットワーク「ファイブアイズ」への加入を期待する声もあります。

ファイブアイズ諸国との協力はすでに大きく進んでいる。そのなかでも、オーストラリアは間違いなく、日本との協力に好意的な国だ。最近、オーストラリアの情報機関ONIのトップに指名されたアンドリュー・シアラー氏は前首相秘書官で、日本大使である私とも密接に連絡を取っていた親日家だ。今後もインテリジェンスの分野での協力に大いに期待が持てるだろう。

同時に、ファイブアイズの協力は歴史上、様々な積み重ねがある。オーストラリア北部の観光名所、エアーズロックから遠くない場所にパインギャップと呼ばれる立ち入り禁止区域がある。ここは米豪両国が共同で運用している情報衛星追跡基地だ。同基地の運用は、スノーデン・ペーパーによってマスコミでも大きな話題を呼んだ。

このような積み重ねの歴史を知ったうえで、日本がどのような貢献ができるのか、どのような組織が必要なのかを、しっかり考える必要がある。大切なのは実質的な協力を充実させる議論であり、加入するか否かという議論ではないだろう。