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北朝鮮の核開発情報、アメリカから立て続けに流れる背景事情 国務長官来日も関係か

北朝鮮インテリジェンス
米国務長官のトニー・ブリンケン氏=2017年、ランハム裕子撮影

CNNは衛星写真専門会社のマクサー・テクノロジーズが2月11日に撮影した衛星写真について米ミドルベリー国際研究所東アジア非拡散センターのジェフリー・ルイス所長に分析を依頼。ルイス氏は「マクサーの画像には、2019年12月の時点で2つのトンネルの入り口が写っていた。21年2月までに、新しい建物のような構造物が見えるようになった」とコメントした。

朝日新聞も同氏に取材した。同氏は「北朝鮮は、引き続き核兵器計画を維持している」と指摘。構造物の意味について「日米などが計画を監視しづらくするための措置だ」と説明した。

ルイス氏によれば、2018年6月にシンガポールで行われた第1回米朝首脳会議後、同年後半の時期に米国情報コミュニティーの間で、「北朝鮮が核兵器を保管している場所への入り口を隠すために構造物を建設している」という指摘が出ていたという。ルイス氏は「当時、商業衛星の画像ではそのような構造を確認できなかったが、今はそれが見える。北朝鮮は外交の期間中も核開発を続けてきたことになる」と語った。

ジェフリー・ルイス博士=本人提供

ただ、日韓の政府関係者や専門家によれば、竜徳洞の施設を巡る情報は10年以上前からあった。関係者の1人は「suppose(と思われる)という前提付きで、核貯蔵施設だという分析が出ていた」と証言する。亀城市付近では、衛星写真でクレーターの跡が何度も確認され、核爆弾の起爆実験を繰り返しているという分析も定着していた。

北朝鮮が米朝首脳会談を続けていた18年から19年にかけ、核開発活動を続けていたことも不思議ではない。金正恩朝鮮労働党総書記は、豊渓里の核実験場の閉鎖は宣言したが、核の廃棄はおろか、凍結も約束していなかった。自衛隊関係者は「戦略軍を編成している以上、弾道ミサイルや核兵器を常に整備しておくのは当たり前だ。原子炉などの核施設も、保守管理を考えれば、運転していても不思議ではない」と語る。

この関係者は「北朝鮮にとって、軍事的な挑発とは核実験や弾道ミサイルの発射を意味する」と指摘。こうした核開発活動が、バイデン米政権の発足を受けた挑発行為だとの見方を否定した。北朝鮮と欧米を往来する専門家も「米朝は既に首脳間で親書をやり取りする関係になった。北朝鮮が米朝対話を望むなら、直接打診するはずで、核開発活動で関心を引くような面倒なやり方は取らない」と語る。

平壌の金日成広場で1月14日、軍事パレードに登場した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)とみられる兵器。「北極星5」と記されている。朝鮮中央通信が配信した=朝鮮通信

では、米国発の一連の報道や公開情報は、何を意味するのだろうか。日本政府で長く北朝鮮情報を扱った元当局者は「米国は偽情報は流さないが、意図を持って情報量を増減させることがあった」と語る。日本政府に監視活動の強化を促したり、北朝鮮との慎重な対話を求めたりしたいとき、情報量が増えたことがあったという。

2018年7月、ポンペオ米国務長官(当時)が訪朝した。この直前、米国メディアが相次ぎ、様々な北朝鮮の核開発情報を報じた。NBCニュースが6月29日に「北朝鮮がウラン生産活動を強化」、ワシントンポスト氏が同月30日付で「カンソンで寧辺の2倍のウランを生産」、CNNが7月2日、「咸興で弾道ミサイル工場を拡張」などと流した。

米朝関係筋によれば、ポンペオ氏はこうした報道を引用する形で、金英哲党副委員長(当時)に事実確認を迫った。同筋は報道を引用する形を取った理由について「対話を維持するために米政府が疑っているという形を取らず、同時に米政府の情報能力を明らかにすることを避ける狙いがあった」と語る。今回、竜徳洞の施設を巡るCNN報道と寧辺核関連施設についての38ノースの分析は、いずれも民間商業衛星の写真を根拠にしていた。

日本政府の元当局者は「軍事衛星の解像度は商業衛星よりもはるかに高い。米政府は報道よりもはるかに詳しい情報を持っているはずだ」と語る。軍事衛星は地上の人間の表情まではわからないものの、性別やおおよその服装もわかる。北朝鮮の核やミサイル実験に中東諸国の関係者が参加したなどという分析は、衛星画像も根拠の一つになっているという。

米国のバイデン政権は3月末にも、新しい北朝鮮政策をまとめる見通しだ。日米韓3か国は2月19日、テレビ会議形式で北朝鮮問題についての高官協議を行った。関係筋によれば、北朝鮮核・ミサイル協議のあり方について、日韓両国がそれぞれの戦略を説明。米国は意見を述べず、聞き役に徹していたという。

日本政府関係者の1人は「米国は中国の発言力が強い6者協議には戻りたくないが、トランプ政権のような米朝直接対話にも負担を感じている」と指摘。主に1990年代に実施していた日米韓の政策調整グループ「TCOG」(Trilateral Coordination and Oversight Group)の復活の可能性があるとの見方を示した。

そして、米ホワイトハウスは3月3日に公開した「国家安保戦略(NSS)中間指針」で、「北朝鮮の増大する核とミサイル計画による脅威を減らす努力のため、日韓と協力し、我々の外交官に権限を与える」とした。日米韓協力を軸に北朝鮮の核の脅威を、外交で段階的に削減していく方針だとみられるが、韓国が求めている制裁緩和への言及はなかった。

米政府の元当局者は「トランプ政権が19年2月のハノイ米朝首脳会談で求めた寧辺+αの廃棄だけでは足りない。寧辺核施設の凍結が始まりになるのかもしれないが、将来的には全ての核施設に範囲を広げる必要がある」と語る。竜徳洞の施設を巡る報道は、結果的に、北朝鮮が公開していない核関連施設の廃棄も目指す米政府の戦略を助ける形になった。

ブリンケン国務長官とオースティン国防長官は今月15日から日韓両国を歴訪する見通しだ。別の関係者はこのタイミングで、北朝鮮の核の脅威が報じられていることについて「日韓がどういう反応をするのか探った可能性もある」と語る。両長官はソウル訪問中、南北協力を担当する韓国統一省には訪れない見通しだ。この関係者は「一連の報道は、南北協力に前のめりな韓国の文在寅政権の北朝鮮政策に批判的な世論を作る狙いもあるかもしれない」と語った。