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イヌと人間の深い関係、始まりは氷河期のシベリアだったかもしれない 

ニューヨークタイムズ 世界の話題
In an image provided by Ettore Mazza, an artistic rendering of the relationships between humans and canines in Siberia. Researchers propose that some remote ancestors of Native Americans may have been the first humans to forge the bond with wolves that led to domestication.(Ettore Mazza via The New York Times) -- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY SIBERIA ANCIENT WOLVES BY JAMES GORMAN FOR JAN. 25, 2021. ALL OTHER USE PROHIBITED. --
シベリアにおける人間とイヌ科動物との関係を描いたイラスト=Ettore Mazza via The New York Times/©2021 The New York Times

2万3千年前、最後の氷河期の寒さの中で、わずかながら気候の良い場所があることを見つけた人たちがいた。そこはシベリアだった。

現在はロシアに属すこの地域に、多くの人は近づき難い寒さを連想するだろうが、気候データや考古学およびDNAの科学的な証拠は、そこがウマやマンモスなど獲物になる動物が十分にエサを食べられる場所であり、それが人間や他の肉食動物を引き寄せたことを示している。過酷な環境に囲まれ、人間――その一部はアメリカの先住民――は何千年もの間孤立していた。オオカミもそうだった。

人間とイヌ科動物との深い関係の歴史を専門とする考古学者と古代DNAの専門家たちが提示した新しい仮説によると、イヌが最初に飼いならされたのが、その地であり、その時だった。専門家たちは1月25日、その研究を学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences(米国科学アカデミー紀要)」で発表した。イヌの家畜化を研究している英ダラム大学の考古学者アンジェラ・R・ペリーによると、新しい仮説は論文執筆者たちの肩ひじ張らない論議の中から生まれた。アメリカ大陸への人の移住とイヌの起源について考古学やDNAのデータを集めていたとき、データ自体に潜んでいたあるアイデアに気づいたのだが、彼女は「なぜもっと早く、そのことに思いが至らなかったのか、まったくうかつだった」と振り返る。

人のアメリカ大陸への移住を専門とする米ダラスのサザンメソジスト大学の考古学者で、もう一人の論文執筆者デビッド・メルツァーは、英オックスフォードでホワイトボードを囲んで討論したときのことを思い出した。そこで、彼やペリーら他の執筆者たちは、古代人類の、そしてさらに時代を下ったイヌの、集団移動できるDNAのエビデンス(科学的な証拠)に基づき、複雑に入り組んだ背景について自由な論議を交わしたのだ。

メルツァーは、イヌの家畜化について多くの研究を取りまとめてきたオックスフォード大学の科学者グレガー・ラーソンに話しかけた。「私は、あなたの言うイヌの(移動の)時期についてみてきた。どうも、私の言う人間の(移動の)時期と同じみたいだ」。ホワイトボードが書き込みで一杯になるころには、新しい論文の骨格が出来上がっていたと彼は言う。

古代のイヌ科動物の来歴ははっきりしておらず、過去10年間だけでも、研究者たちは少なくとも1万5千年前を起点に、イヌが初めて定住先にした場所として、ヨーロッパ、ユーラシア、東アジア、アフリカを挙げている。一部の研究者は、起源はもっと古いとみているが、最初期の化石がイヌなのかオオカミなのかが議論されている。

新しい提案の出発点は人間が初めてアメリカ大陸にやって来た時期であり、それはおそらく約1万5千年前のことだ。もう一つは、古代のDNAはイヌと人間の集団に似たような移動と拡散の歴史が見られる点である。

今はもういない古代アメリカのイヌ――いくつかの現代種にわずかに遺伝子の痕跡が残っている――の中に、「約2万3千年前の共通の祖先を持つ二つの主要集団がある」とペリーは指摘する。

人間の側にも、類似した分離がある。

詳細の追跡は少し難しいが、古代北シベリア人と呼ばれる集団は2万1千年前に古代アメリカ先住民が枝分かれした別の集団と混ざり合った。仮説が示唆するのは、古代北シベリア人はいくつかの遺伝子を提供したのに加え、イヌを人びとに与え、その一部がイヌを連れて北アメリカ大陸に移り住んだということだ。「イヌは、人びとと一緒でなければ新世界には行かない」とメルツァーは言っている。

しかしシベリアのいくつかの異なる集団は、約3万年前から1万5千年前まで、外部との接触から隔離されていたようだ。そこで、ペリーはこう問うのだ。仮に「3万年前以降、シベリア外部の誰とも交流がなかったこの孤立した人間集団が存在するとしたら、アメリカ先住民の祖先に誰がイヌを与えたのか」と。

データは、何千年間にもわたって孤立していた古代北シベリア人がオオカミを最初に飼いならしたか、彼らと一緒にいたオオカミが、食べ残しや捨てられた狩りの獲物をエサにしながら自らを家畜化したことを示唆している。

メルツァーは、このシベリア人たちは広大な開けた領域に25人程度の小集団に分かれて暮らしていたと言う。古代のDNAを見る限り、彼らは小集団外の相手と結婚していて、そのためお互いが外の小集団に結婚相手を探し出さなければならなかった。「人びとは(小集団間で)情報を交換し、仲間を交換し、オオカミの子を交換し合っていたのかもしれない」と彼はみている。

ロンドンのクリック研究所でイヌの起源を研究している古代DNAの専門家ポントス・スコグランド――今回の研究には関わっていない――は、「シベリアがイヌの起源である可能性は極めて高い。まさしく」と言っている。しかしながら、彼は一つの可能性にすぎないと指摘する。今回の研究論文での分析は、ミトコンドリアDNAに大きく依存しており、それは母系だけを追跡するものなので、不完全だと言うのだ。

「私にとって、それは未解決の問題だ」とスコグランドは言う。「ユーラシア大陸の、他の多くの場所も可能性としてある」

ペリーが言うには、1万8千年以上前のシベリアのイヌの化石から採取された古代DNAについて新しい情報が出てくれば、仮説の立証、もしくは反証に役立つ可能性があり、彼女とその同僚はいまも研究に取り組んでいる。(抄訳)

(James Gorman)©2021 The New York Times

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