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バイデン政権でも続くアメリカの対中強硬姿勢、でもその中身は大きく変わる

ミリタリーリポート@アメリカ 更新日: 公開日:
次期米大統領のジョー・バイデン氏=ランハム裕子撮影

米軍関係者の中でも対中強硬派の人々は、民主党のバイデン政権が発足することによって、共和党のトランプ政権の4年間で道筋がつけられた米軍強化策(主として増強著しい中国海洋戦力に対抗するためのもの)が、政権発足直後に減速あるいは停止しかねないとの危惧を強くしている。

対中強硬派の米軍関係者からは、「もしそうなれば、中国による軍事的優勢が顕著になってきた南シナ海での軍事的覇権は中国の手に移り、トランプ政権が軍事的支援を強化したことへの揺り戻しとして台湾に対する中国の軍事的恫喝(どうかつ)はより一層強化されるばかりか、自国の領土である尖閣諸島の防衛に関してアメリカに頼るだけで自らは何もしていない日本もいよいよ領土を失陥することになるかもしれない」との悲観的な声も漏れる。

■軍事力に頼らない対中戦略

1月20日に発足するバイデン政権は、少なくとも当面の間は、中国に対する強硬な姿勢をトランプ政権から引き継ぐであろうと言われている。ただし、対中強硬姿勢といっても、トランプ政権とバイデン政権とでは、その基本的性質は大いに異なる。

トランプ政権の対中強硬姿勢は、中国との軍事的対立を深化させてでも(たとえば軍拡競争によって中国を抑え込んででも)、アメリカの国益とりわけ通商上の利益を確保することを主目的としていた。

一方、バイデン政権の対中強硬姿勢は、人権保護や政治的自由、環境保護などの論点に関してアメリカの主張をできうる限り中国政府に受け入れさせることを目的とする。そのような諸問題は軍事とは独立しているため、バイデン政権にとって中国は、トランプ氏の外交・安全保障政策と異なり、軍事力を振りかざして屈服させるという意味での敵対者ではないのだ。(第2次世界大戦後の日本に対して米国が行ったように、アメリカが中国を軍事的に征服し、アメリカの価値観を押しつけ浸透させる方策は、現在の国際環境では不可能である)

もちろん中国との通商分野における対立において、アメリカの国益を守るために対中強硬姿勢をとるという考え方は、連邦議会では民主党も共和党も基本的に一致しているため、バイデン政権もこの意味での対中強硬姿勢を維持するのは当然といえよう。

ただし、バイデン陣営は、トランプ政権による通商面での対中強硬政策はアメリカの労働者や農民に大いなる不利益をもたらしたにもかかわらず、中国側の貿易姿勢を変えさせることができなかった、と批判している。そのため、通商分野における対中強硬姿勢に関しても、トランプ政権の対決政策とは一線を画すことになるであろう。

ようするに、同じ対中強硬姿勢と言っても、トランプ政権による軍事的対決とは違って、バイデン政権の場合は非軍事的対峙(たいじ)という性格に移行することになる。そのため、バイデン政権が同盟国や友好国と協働して対中牽制(けんせい)を進めるという場合、それは軍事的意味合いでの「封じ込め」を念頭に置いた対中包囲網ではなく、国際世論を盛り上げて中国に圧力を加えるという意味合いでの対中包囲網ということになる。

すなわち、バイデン政権の対中強硬策は軍事的にはソフトな姿勢となるのだ。

■日本への要求もソフトに

オスプレイが並ぶ米軍普天間飛行場=2020年10月14日、沖縄県宜野湾市、長沢幹城撮影

トランプ政権は、アメリカ自身だけでなく同盟国に対しても対中強硬策への同調を求めて、軍備増強や(とりわけ日本、韓国、ドイツにおける)駐留米軍への支出増額などを強く要求した。もしトランプ大統領が続投していたならば、日本に対する在日米軍関係費ならびに日本自身の防衛予算の大幅増額を強硬に突きつけることになったであろう。

そのようなトランプ政権に変わってバイデン政権が誕生するのは、新型コロナ対策に莫大(ばくだい)な国費を投入せねばならない菅政権にとっては朗報といえる。なぜならば、軍事的にはソフトな対中姿勢となるバイデン政権は、日本政府に対しても安全保障面ではソフトになるからだ。

アメリカは、自身が中国と対決するための軍備大増強から距離を置くだけでなく、同盟国や友好国が中国と軍事的に対立してアメリカが巻き込まれるのを忌み嫌うようになる。そのためバイデン政権は、トランプ政権のように日本をある意味ではけしかけて、日米共同での対中対決態勢を推し進めるために日本に軍事費増強を押しつけるような政策は避けることになる。

その結果、アメリカ政府からの防衛費増額要求や「思いやり予算」倍増要請、超高額兵器の爆買いといった圧力が日本政府に降りかかることはなくなり、菅政権にとってはアメリカからの圧力が少なくとも一つは減ることになる。

離陸する航空自衛隊の最新鋭ステルス機、F35A戦闘機=2021年1月5日、青森県三沢市、横山蔵利撮影

しかしながら、国防努力に関する“ガイアツ”が消えることは、菅政権にとっては喜ばしいかもしれないが、日本の国防にとっては大いなるマイナスとなりかねない。

なぜならば、この種のガイアツなくして、日本政府が真剣に防衛費増額をはじめとする国防努力を推し進める可能性は極めて低いからである。このことは、冒頭で紹介した「日本政府は何もしない」という米軍関係者の言葉にもあらわれているが、その具体的な理由に関しては稿を改めたい。