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減りゆくコアラ、でも正確に分かっていない実際の頭数 ドローンも使い初の本格調査へ

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
豪州の首都キャンベラに近いティドビンビラ自然保護区の木の上で葉を食べるコアラ=2020年11月24日、AAP Image/Lukas Coch/ロイター

コアラを見つけて数えるのは、簡単と思うかもしれない。

それなりに大きく、フワフワしていて目にとまりやすい。しかも、1日20時間ほども寝ることが多く、あまり動かない。

ところが、それは大外れ!

「あまり動かないからこそ、目にとまりにくくなる」と豪ビクトリア州にあるディーキン大学の野生生物生態学者デズリー・ウィッソンは、正解を明かす。

この事実は、豪固有のこの有袋類を数えることが、いかに大変かを示している。

A baby koala and its parent are seen eating gum leaves at the Tidbinbilla Nature Reserve near Canberra, Tuesday, November 24, 2020. The federal government yesterday announced a national audit of koala populations as a key component of an $18 million package to help protect Australia's iconic species. (AAP Image/Lukas Coch) NO ARCHIVINGNo Use Australia. No Use New Zealand.
枝葉に隠れた形のコアラの親子=2020年11月24日、ティドビンビラ自然保護区、AAP Image/Lukas Coch/ロイター。高いところにじっとしていると、見つけるのは難しい

豪政府は2020年11月、コアラがどれだけ、どこに生息しているかを調査すると発表した。会計報告にも似た精査になり、計200万豪ドル(150万米ドル)が投入される。

調査方法は、新旧の組み合わせになる。体温を追跡する赤外線探査ドローンや録音装置が登場。探知犬を使い、ハイキングブーツをはいた人間がコアラのいそうな茂みに分け入って目測する。地面に落ちたフンも探し回る。

これまでのコアラの頭数計算には、かなりのバラツキがあった。2016年の専門家の推計では、30万匹以上が豪州にいるはずだった。しかし、非政府組織のオーストラリアコアラ基金(AKF)が19年半ばに出した推計では、8万匹を下回り、下限は4万3千匹あたりかもしれないという数字になった。

19年の大規模な森林火災の多発で、まだどれだけいるのかという危機感が強まり、混乱も起きた。実態としては絶滅状況にあるとも報じられ、研究者が反論する事態にもなった。

環境保全団体の世界自然保護基金(WWF)が依頼した調査は、19年夏の大規模森林火災で6万1千匹を超えるコアラが、死んだり、けがをしたり、生息地を奪われたりしたと推定している。

An injured koala sits at the Kangaroo Island Wildlife Park, at the Wildlife Emergency Response Centre in Parndana, Kangaroo Island, Australia January 19, 2020. REUTERS/Tracey Nearmy     TPX IMAGES OF THE DAY
大規模な森林火災が起きた豪カンガルー島でけがをし、手当てを受けたコアラ=2020年1月19日、ロイター。全豪では、森林火災で6万1千匹のコアラが死んだり、やけどなどのけがをしたり、生息地を失ったりしたとの推計もある

森林火災が大きな打撃を与える前でも、コアラの生息状況には問題が生じているとの懸念が深まっていた。専門家や自然保護団体によると、開発・開墾ですむ場を追われたコアラが、都市圏に出没する事例が増えていた。

クリスマスツリーに居つくコアラが現れた。それはまだよい方で、車にひかれたり、犬に襲われたりすることが相次ぐようになった。ストレスにさらされるようになり、深刻な病への抵抗力も減じていると専門家は指摘する。

全豪でコアラの生息数を調べたのは、2012年が最後だった。といっても、特定の地域にどれだけいるのか、専門家の推定を聴いただけだった。結果は、1州に3万3千匹という答えから15万3千匹までかなりの幅があった。

では、実際の分布はどうなのか。健康状態は。あの破滅的な森林火災から、生息数を回復させる最良の方法は何か。

「今ほど関心が高まったことはない。にもかかわらず、コアラについての基本的なデータが著しく乏しいと専門家は嘆いている」。スーザン・リー環境相は、今回の豪政府の発表にあわせて声明を出し、この調査の必要性をこう訴えた。

これまでのコアラの頭数調査は、目視に頼っていた。しかし、木の高いところにじっとしていて、生い茂った枝葉に隠れていると裸眼では見逃しやすい、と先のディーキン大学のウィッソンは語る。だから、人によって数えた結果もかなり異なってくる。加えて、観察した時間帯などにも左右される。こうした要因を抱えたままでは、1カ所あたりの頭数把握は実際の20~80%にとどまると見られている。

「私個人としては、午前中の方が午後よりコアラを多く見つけている」とウィッソン。「午後になると、体力的に少し疲れも出て、集中力が鈍りやすい。早く帰宅しようと、数え急ぐことだってあるかもしれない」

豪州という土地柄も、難しさに拍車をかける。数えるために茂みに入れば、ヘビなどにかまれないようにもせねばならず、集中力の維持にも響く。

「何を探しているのかを忘れてしまうほどの落とし穴がいくつもある」とウィッソンは苦笑する。

そこで、いくつかの手法が新たに採用されることになった。

まず、コアラのフン。茶色い小球が木の根元に落ちていれば、手がかりになる。探知犬の出番だ。コアラも、そのフンも、見つけ出すように訓練されている。

Smudge, a dog who is trained to follow the scent of koala droppings, stands during a population density survey conducted by not-for-profit conservation organisation Science for Wildlife, in a habitat that was burnt in a bushfire, in the Greater Blue Mountains World Heritage Area, near Jenolan, Australia, September 14, 2020.  REUTERS/Loren Elliott     SEARCH "KOALAS ELLIOTT" FOR THIS STORY. SEARCH "WIDER IMAGE" FOR ALL STORIES
コアラのフンを見つける訓練を受けた探知犬=2020年9月14日、ロイター。国立公園などがある豪グレーター・ブルー・マウンテンズ地域で行われたコアラの生息状況を調べる自然保護団体の活動に参加した

コアラのオスは、繁殖期にはかなり大きな鳴き声を上げる。録音装置を置いておけば、手助けになる。

遠く離れた場所や近寄るのが難しい地形なら、赤外線探査装置を付けたドローンを飛ばす。ただし、寒い日に限る。コアラの毛皮には結構強い断熱性があり、それほど多くの熱を放射しないからだ。

こうしたすべての手法をうまく使いこなせば、誤差の範囲を10%以内に抑えることができるとウィッソンは見ている。

リー環境相の広報担当によると、コアラの専門家を集めた全国会議が2021年に開かれ、調査方法について話し合う。「それを受けた頭数精査は、数カ月はかかりそうだ。何を、どこまで、どう実施するかという最善の方針が、この会議で決まる。調査にどれだけ時間を費やすかは、その結論しだいということになる」

ただし、調査結果が出るまで豪当局が手をこまぬいていることは許されない、とウィッソンは警告する。コアラの生息数がもう減り始めていることを示すデータが、すでに数多く存在するところがあるからだ。「最終結果が出るまで数年かかるとすれば、とくに手を打たない場合はその間に生息数が減り続けてしまう」

事実、23の自然保護団体がこのほど、連名で公開書簡を出し、もっと生息環境の保全に力を入れるよう政府に迫った。

環境相にあてた書簡の題名は、「コアラには国勢調査以上のことが必要だ」。文面は、「現政権のもとでコアラの生息環境が悪化し、それは今も進んでいる」と批判する。さらに、「全国調査で生息数が明らかになるまで、コアラは待っていられない。現在は、まさにナイフの刃の上に立たされているような、極めて危うい状況にある」と続く。

「今からコアラを数えるなんて、沈みつつあるタイタニック号の甲板にあるデッキチェアを数えるようなもの」

その緊急性を、野生動物の生息地保護などに努める国際動物福祉基金(IFAW)のオセアニア地区代表レベッカ・キーブルはこう例える。

自然保護団体の中には、独自にこの問題に取り組むところも出始めた。

先のWWFは、(訳注=主な生息地である)豪東部でコアラの生息数を倍増させる野心的な計画を立てている。森林火災で荒れ果てた土地に、ドローンを使ってユーカリの種子をまき、幾万本もの木を再生させようという構想だ(コアラはユーカリの葉を食べ、木をすみかにしている)。その実現に向けて、土地の所有者に積極的に参加してもらうための基金作りを急いでいる。(抄訳)

(Yan Zhuang) ©2020 The New York Times

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