ホワイトハウスには、実にさまざまな住民がいた。毛皮をまとっているかと思えば、羽根をはやしている。つめあり、ひづめあり、うろこあり。しま模様もあれば、巻きつけるのに向いたしっぽも。
もともとそこにすみついていた場合もあるが、多くは新しい居住者とともにやってきた。外国のえらい人からの贈り物だってあった。
いずれにしても、ほとんどの大統領は、米国の近現代史を通じてここでペットを飼っていた。
2021年1月にジョー・バイデンが大統領に就任すれば、この伝統が復活する。チャンプとメジャー。2匹のジャーマンシェパードがいるからだ。前任のドナルド・トランプは、何十年ぶりものペットのいない主(あるじ)だった。
米大統領のペットとしては、しばしば犬と猫が登場する。しかし、ペンシルベニア通り1600番地のこの所在地には、それほど典型的ではないペットも多くいた。その数や種類の多さは、ときの政権によって異なると「ホワイトハウス歴史協会」の上級研究員マシュー・コステロは指摘する。
「では、いつのホワイトハウスが、まるで動物園だったかといえば、それはセオドア・ルーズベルト(第26代。在任1901~09年)の時代だろう」とコステロは続ける。「なにしろ、子供が6人もやってきた。一家をあげて動物好きで、ペットの詰め合わせのようなありさまになった」
ホワイトハウスのペットは、居住者の性格をも映し出していたとコステロはいう。ときには、政権のイメージ作りにも大きな役割を演じた。
「大統領の人間味をもっと出すのに貢献した。ほとんどの人には、ペットがいるか、いたことがある。だから、身近に感じる存在となる」
ホワイトハウスのペットに関する情報や遺品を保存するために設立された「大統領ペット博物館」によると、その目録はかなり長い。加えて、信憑(しんぴょう)性が定かではないお話の類いや詳細不明の情報が、数多く入り交じる歴史となっている。その一端を紹介しよう――。
■片脚の雄鶏とハイエナのビル
セオドア・ルーズベルト(共和党)は、国外を旅し、国内を歩き回り、大統領在任中は自然保護に努めた。そんなこともあり、ホワイトハウスで飼っていた動物のリストもかなり長かった。
大統領ペット博物館によると、一家で世話をしていたのは複数の馬と犬、カンガルーネズミ、1羽のスミレコンゴウインコ、5匹のモルモット。それに、片脚の雄鶏が1羽。
まだ、いる。ジョサイアという名の気の荒いアナグマ。緑色のガータースネークは、エミリー・スピナッチと名付けられていた。
ウェストバージニア州の共和党支持者が熊を贈ると、ルーズベルトの子供たちがジョナサン・エドワーズと命名した。ファーストレディーである母親の先祖の一人に由来する名前だった。
外国の首脳たちからの一風変わった贈り物もあった。1904年にはアビシニア(訳注=旧エチオピア帝国)の皇帝メネリク(2世)から、子供ライオンのジョーとハイエナのビルが寄贈された。「ビルは、ほとんどいつも笑い声を出しているように聞こえる」と当時のニューヨーク・タイムズ(以下、本紙)は報じている。
(この種の贈り物は、ドワイト・アイゼンハワー〈第34代。在任1953~61年〉も受け取っている。コンゴ首相のフルベール・ユールーから59年に、ジンボというオスの赤ちゃん象を進呈された。後日、エサをやろうとした大統領は、ジンボと自分のひ孫とを重ね合わせた。「おやおや、この子もニンジンは好きではないみたいだね」。この象は、最終的にはワシントン動物園に引き取られた)
■羊の群れがいたことも
経費と要員数を抑えようと、ホワイトハウスに羊の群れが運び込まれたこともあった。第1次世界大戦下にあって、芝生をきれいに整えるためだった。
当時の主だったウッドロー・ウィルソン(第28代。在任1913~21年)の大統領図書館・博物館によると、この群れはメリーランド州から18年に来て、少なくとも2年は敷地内の芝をはんだ。
もちろん、毛刈りもあった。あるときは各州に羊毛2ポンド(900グラム強)ずつが配られ、それぞれの州で競売にかけられた。収益は計5万2千ドルほど。赤十字社に寄付された。
■アライグマのレベッカ
ホワイトハウスに風変わりな動物を集めたのは、カルビン・クーリッジ(第30代。在任1923~29年)とグレースの夫妻だった。
複数の犬と猫、鳥にガチョウが1羽、ロバ1頭。しかし、何といっても、抜群の人気と知名度を誇ったのは、メスのアライグマのレベッカだった。
レベッカは26年11月、ミシシッピ州から贈呈された。感謝祭の晩餐(ばんさん)に供せられるはずだった。ところが、クーリッジ大統領図書館・博物館によると、とても人なつっこく、大統領一家がその運命を変えてあげた。
歳月を重ねるにつれてレベッカと心が通うようになったクーリッジは、彼女にリードを付けてホワイトハウスの周りをときどき散歩させた。それだけではない。ホワイトハウス歴史協会によると、「ホワイトハウスのアライグマ」と自ら呼んだ刺繍(ししゅう)入りの首輪を作るほどだった。
レベッカは、よくスポットライトを浴びた。在任中の27年には、ホワイトハウスの庭で開かれるイースター恒例の卵転がしでも注目の的となった。
ところが、問題を起こすこともあった。27年には、サウスダコタ州にあるクーリッジの私邸から逃げ出してしまった。真っ暗な夜。世話人の目を盗んで高い木に登り、下りてこなくなった。「どんなに懇願してもダメだった」と本紙は伝えている。
レベッカは、最後は首都ワシントンのロッククリーク公園にある国立動物園に寄贈された。
■フクロネズミのビリー
1929年から33年まで大統領だったハーバート・フーバー(第31代)は、ホワイトハウスで何匹かの犬を飼っていた。しかし、人目を引くという点では、野生のフクロネズミ(オポッサム〈訳注=南北米大陸に分布する有袋類〉)のビリーに太刀打ちできる犬は、そうはいなかったようだ。フーバー大統領図書館・博物館によると、ビリーは敷地内に迷い込み、フーバー家に引き取られた。
ビリーは、先のクーリッジ家のアライグマ、レベッカがいた囲いで飼われていた。米議会図書館によると、29年にはニュースの主人公になった。近所の高校のマスコットだったフクロネズミが行方不明になり、その代役をしばし務めることになったからだ。
ペットとしてのフクロネズミは、フーバーの前にもホワイトハウスにいた。1889年から93年までの大統領、共和党のベンジャミン・ハリソン(第23代)が2匹飼っていた。名前は、「ミスター・レシプロシティー(互恵主義)」と「ミスター・プロテクション(保護主義)」。それぞれ当時の党内政策集団の呼び名にちなんでいた。
■ポニーのマカロニ
ジョン・F・ケネディ(第35代。在任1961~63年)時代は、裕福な名門一家らしくペットの主役に馬とポニーが加わった。ファーストレディーのジャクリーンは「乗馬をして育ち、終生、馬術に関心を持っていた」と先のコステロは語る。
一家の馬の中でもよく知られていた1頭は、サーダーと呼ばれていた。ジョン・F・ケネディ大統領図書館・博物館によると、62年にパキスタンの大統領からの贈り物としてやってきた。
娘のキャロラインの愛馬は、ポニーのマカロニ。一緒に写真に納まることも多かった。キャロラインと弟(訳注=3歳下のジョン・ジュニア)は、中・小型インコのパラキート2羽と仲よしで、ブルーベル、メイベルと名付けていた。
なお、キャロラインには、他のポニーもいた。61年に当時の副大統領リンドン・B・ジョンソンがプレゼントしたテックス。マカロニとともに、ホワイトハウスに近い一家の所有物件に厩舎(きゅうしゃ)があったが、よくホワイトハウスに来ていた。
一家には、さらに3頭目のポニーがいた。名前はレプラコーン(訳注=アイルランドに伝わる妖精)。こちらは、ケネディ家のルーツであるアイルランドから贈られていた。(抄訳)
(Derrick Bryson Taylor)©2020 The New York Times
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