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コロナ禍で「詐欺」急増、心の隙間につけ込む犯行も

World Now 更新日: 公開日:
ロンドンの金融街で11月撮影(2020年 ロイター/Simon Dawson)

事の発端は、新型コロナ用の個人防護具の需要が劇的に増えていた中で、フランスの医薬品メーカーがシンガポールの警察に、同国のサプライヤーから個人防護具1000万ドル相当が届かないと通報したことだった。

ラジ氏が率いるチームは、在シンガポールのある銀行での決済を糸口に計7行の取引を追跡。複数のデビットカード決済を調べた結果、代金を詐取したとみられる男が香港にいることを突き止め、男の逮捕につなげた。

ロイターが銀行関係者や銀行のアドバイザーなどに取材したところ、こうしたコロナ関連詐欺の増加により、銀行は不正取引防止や探知のための人員を拡充。地元や世界各地の司法当局と、より緊密な連絡態勢をつくり、一般の人への注意呼び掛けにも乗り出している。

ラジ氏は「コロナ前まで私が扱っていた詐欺事件は、年間で20件か30件というところだった。それが今年は、3月から今に至るまでに数百件になっている」と語った。

BAEシステムズ・アプライド・インテリジェンスの調査によると、米国でも今年に入って保険金詐欺が倍増した。新型コロナ感染対策の各種規制措置で生じた損害を巡り、これをカバーする保険金が狙われており、業界のコストは1000億ドルに上っている。

同社の詐欺対策担当グローバル・ディレクター、デニス・トーミー氏も「架空請求」犯罪が激増していると話す。ハイヤー会社が自動車の消毒費用を水増しすることから、旅行会社が1件の予約キャンセルに対していくつもの保険会社に保険金支払いを請求することまで、手口は多岐にわたる。トーミー氏は、犯罪者側の動機が強く、一方で行為を防ぐ「壁」が低い以上、詐欺発生の条件は完璧にそろっていると警鐘を鳴らす。

<ソーシャル・エンジニアリング>

新型コロナの影響で世界中の人が家に閉じ込められたことも、新たな詐欺の機会を生み出している。

バークレイズのデータを見ると、英国では今年1─10月に、当局者などを装って銀行手数料や商品代金の未払いや罰金などを電話、もしくは電子メールで追及する「成り済まし詐欺」が20%余り増えたことが分かる。

心の隙や弱みにつけ込み、偽の信頼関係をつくった上で、現金やパスワードなどの個人情報を盗もうとする、こうした「ソーシャル・エンジニアリング」行為は、これまでは人々が属するさまざまな互助的ネットワークが、実現を阻止する役目を果たしてきた。しかし、多くの人が孤立状態に置かれたことで、犯罪に巻き込まれた。

トーミー氏によると米国でのインターネット不正侵入事案の3分の1でソーシャル・エンジニアリングが利用された。電子メールを通じた詐欺被害額は12億ドルを超える。

バークレイズ関係者の話では、英国で、恋人を失って悩んでいる人を狙った「ロマンス詐欺」も10月、前月に比べて46%増加した。平均で9000ポンドをだまし取られている。

ロマンス詐欺の手口はさまざまだが、大概はデートアプリに架空の魅力的なプロフィルを掲載した犯罪者が、数週間から数カ月かけて粘り強く被害者と連絡を保った後、現金か何らかの贈り物をねだるやり口だ。

ローハンプトン大学で犯罪学と法言語学を研究するエリザベス・カーター氏は、だます側も、書面に露骨に現金が欲しいと書くのでなく、もっと巧妙な手法に変わっていると述べた。

<まるで軍拡競争>

ただ、銀行や司法当局も反撃に動いている。

消息筋がロイターに明かしたところによると、英ナットウエスト・グループは詐欺対策拡充のため専門家を追加で採用したほか、不正なローン申請を見破る新技術を導入した。

とりわけ英国で詐欺問題が深刻だ。英会計検査院は10月、小規模企業を対象とし政府が100%保証する融資制度「バウンスバック・ローン」で、最大260億ポンドが詐欺ないし経営破綻のために永久に返済されない可能性があると試算した。

HSBC、ロイズ、メトロバンク、ナットウエスト、バークレイズなど英銀7行は9日、正当な受取人のものだと信じ込まされた口座に入金してしまう「APP詐欺」に関して、該当する被害者への補償に応じる姿勢を表明した。英財務省のデータによると、今年前半のAPP詐欺被害額は2億0780万ポンドに上った。

バークレイズUKの詐欺対策責任者ジム・ウィンターズ氏によると、頻繁に取引をフィルターにかけて不正洗い出しの機会を最大限にする一方で、普通の決済は滞らせないようにする技術やプラットフォーム構築に向け、年数百万ポンドを投じている。

「われわれは詐欺師らがかなり高度な技術を使うことを認識している。だから互角の立場を確保しなければならない。彼らは資金も潤沢だし、自分たちがやっていることの意味もよく分かっている」と述べ、「月並みな表現だが、まるで軍備拡張競争だ」と指摘した。

複数の関係者は、国際的に事業展開する銀行が当局とコミュニケーションを強化し、詐欺師に新型コロナを利用させないよう協力を緊密にしていると指摘した。

(Sinead Cruise記者、Lawrence White記者) 

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