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ノーベル賞でも盛り上がらず コロナ対策「緩め」のスウェーデン・ストックホルム

At the Scene 現場を旅する
ストックホルムの旧市街ガムラスタンにあるノーベル博物館。10月前半の週末には入館待ちの列が出来ていた=下司佳代子撮影

ストックホルム中央駅(1)から目抜き通りドロットニンガータン(2)に出ると、思いのほかにぎわっていた。通りを覆うように飾られたカラフルな傘が映える。新型コロナの抑止策として欧州各国が商店閉鎖や外出制限を伴うロックダウン(都市封鎖)に踏み切る中、スウェーデンは、市民が自発的に社会的距離を取ることを期待する「緩め」の独自路線をとってきた。街の様子は一見、普通。連れ立って買い物する人たちの、マスクなしの笑顔がまぶしい。

10月はじめ、買い物客でにぎわうストックホルム中心部のドロットニンガータン

通りを南下し、スウェーデンの国会議事堂、リクスダーゲン(3)前に着いた。環境活動家のグレタ・トゥンベリさん(17)らが気候危機を訴える学校ストライキをする場所としても知られる。この日は別の環境団体の男性がハンガーストライキをしているところだった。5日目になるという。自然と話題はコロナに。滞在中、保健当局を支持する市井の声をたくさん聞いたと水を向けると、男性は首をひねった。「わたしの妻は怖がって春からフィンランドに避難したまま戻ってこない。不安な人も多いと思うけど」

ストックホルム中心部とアーランダ空港を結ぶ列車内では1列置きに座るよう指示があった=10月4日、下司佳代子撮影

一見にぎわう街も、平常通りではないのかもしれない。土産物店が立ち並ぶ石畳の観光地、旧市街ガムラスタン(4)に入ると、日中も閉まったままの店が目立った。ノーベル賞の授賞発表があるのに、歴代受賞者の業績を紹介するノーベル博物館(5)はすいていた。

地元の人に聞いた話を思い出した。今年はノーベル賞の関連報道が少なく、毎年12月、授賞式の夜にテレビ中継される豪華な晩餐会も早々に中止が決まった。誰が招待されて、どんな格好で参加するのか。恒例の話題で盛り上がることもない――。ノーベルの街がノーベル賞に沸かないのは、何だか寂しい。

ライブハウス「バゲン」(6)を訪ねた。14世紀には修道院の別棟の一部だったという地下空間は、まさに隠れ家。古典から前衛音楽まで、多様なコンサートが開かれる。

社会に感染の不安が広がった3月半ばから休業し、8月に再開すると、生きた芸術に飢えた聴衆が押し寄せた。一人で来る客が多く、この夏に妻を亡くした男性は、スタッフや演奏者と会話するために通っているという。

ライブハウス「バゲン」

オーナーのアン・クリスティン・エドブラッドさん(65)は、「ここは小さな場所だから誰とでも話せる。出会いがある。開けておくことに意味があると思うんです」。

「運営は大変だけど」と言う地下のぬくもりは、外の小雨を忘れさせた。

■「生きた美術館」

旧市街ガムラスタンは観光ガイドで「生きた美術館」と紹介される美しさだ。第2次世界大戦の戦火を免れ、中世の街並みが残る。40年ほど前まで実際に王族が住んでいたという巨大な王宮がランドマーク。石畳の路地沿いには教会や博物館、レストランやカフェなどが密集し、時間をかけて探索したい場所だ。

「生きた美術館」といわれる旧市街ガムラスタン

■甘味でコーヒーブレーク

街中ではよく「FIKA」と書かれた看板を見かけた。フィーカは、甘いものを食べながらお茶をするコーヒーブレークのこと。ふらりと寄ったカフェで「スウェーデンらしいフィーカがしたい」とお願いすると、シナモンロールと緑色のマジパン、ココナツをまぶしたチョコレートが出てきた。甘い!

■サーモンとディル、北欧の味

快晴だったのもつかの間、雨脚が強くなり、ノーベル博物館に駆け込んだ。館内のカフェ「ビストロ・ノーベル」で昼食をとることに。この日はサーモンの蒸し焼きと野菜のダンプリングの2種類あり、サーモンを選んだ。前菜は香り豊かなキノコのスープ。冷えた体に染みていく。続いてメイン。ふかふかのサーモンの上に、ピンク色のラディッシュとともに添えられた、緑色のハーブのディルを見ると、北欧に来たなと実感する。素材のやさしい味を楽しんだ。物価が高いといわれるこの地で、120スウェーデンクローナ(約1500円)とはお値打ちだ。

ノーベル博物館のカフェで食べたサーモン。ディルとビーツの下に隠れている

毎年12月10日の授賞式前後の1週間は「ノーベル・ウィーク」と呼ばれ、受賞者は講演や記者会見などのほか、このカフェを訪れてイスの裏にサインするのが恒例行事になっている。ただ、この日のカフェを見渡すと、地元の人らしきグループが、お尻の下にある偉人のサインを気にする様子もなく会話を楽しんでいた。(下司佳代子)