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日本にとっての重大関心事 バイデン新政権でアメリカの対中軍事戦略は変わるのか

ミリタリーリポート@アメリカ
ジョー・バイデン次期米大統領=2020年3月、米カリフォルニア州ロサンゼルス、藤原学思撮影

2021年1月20日にスタートすることとなったバイデン政権の外交政策のうち、尖閣諸島領有権や東シナ海での境界線設定に関して中国政府と対立している日本政府にとって(もっとも日本政府は日中間に領土紛争は存在しないとの態度をとり続けているが)最も気がかりなのは、対中政策ということになるであろう。

軍事面ではアメリカに頼り切っている日本政府にとって、強大な軍事力を築き続けている中国に対して「バイデン政権がどのような姿勢を示すのか」は「様子見外交」を続けていく上で決定的に重要な要素となるからである。

■トランプ政権で起きた、異例の抜本的な方針転換

バイデン政権の対中政策に多大の関心を示さざるを得ないのは、米軍当局にとっても同様だ。アメリカの国防戦略は、たとえ共和党から民主党あるいはその逆であっても、政権が交代したからといって、(国際情勢や軍事バランスの変化に応ずるのではなく)それを理由として抜本的な方針転換が迫られることは稀である。

ところが、トランプ政権は違った。オバマ政権が実施したことを大幅に否定することを標榜(ひょうぼう)していたトランプ政権は、国防戦略の基本方針も抜本的に転換させた。

2001年9月に発生した同時多発テロ事件以降、アメリカはイスラム過激派の国際テロ組織と、アメリカが認定したテロ支援国家をアメリカの「主敵」とし、それら国際テロ勢力との戦いに打ち勝つことを国防戦略の主軸に据えてきた。

それに対してトランプ政権は、アメリカの主敵を国際テロリスト勢力から軍事大国(その筆頭は中国で、ロシアが続く)へと転換し、軍事大国間の対抗に打ち勝って優位を確保することをアメリカの国防戦略の目標に据えたのである。

このような抜本的な方針転換に対応して、米国防当局は軍事戦略や基本作戦構想の修正を迫られ、それに伴って戦力や組織、そして教育訓練などの大幅な改革をスタートさせることとなった。

そのため、バイデン次期政権が、再び国防方針を抜本的に転換しようとしたならば、米軍諸組織には混乱が生じ、士気の低下や戦力の低下は免れなくなってしまう。とりわけ、トランプ政権が中国をアメリカの仮想主敵に指定した以上、バイデン政権の対中姿勢は米軍当局にとって最大の関心事とならざるを得ないのだ。

■スタートした封じ込め態勢

今回の大統領選挙戦が近づくにつれてトランプ政権は中国に対して軍事外交面でも経済面でも強硬な姿勢を打ち出した。しかし、実はそのトランプ政権も発足当初は中国には融和的な態度を示していた。

たとえば、南シナ海への中国の軍事的進出に対しても、トランプ政権初期においては、中国に対して一定の関係を保ちながら米主導の国際秩序へと導く「関与政策」(あるいは「取り込み政策」)をとり続けたオバマ政権と決定的な違いを見せたわけではなかった。

2014年の環太平洋合同演習(リムパック)の記者会見には、ハリス米海軍太平洋艦隊司令官(中央)とともに海上自衛隊幹部や中国軍幹部らが並んだ=米ハワイ、ランハム裕子撮影

中国に対して融和的であったオバマ政権では、中国が南沙諸島に建設しつつあった七つの人工島や西沙諸島での軍備増強の動きを牽制(けんせい)するために、2015年10月から2016年10月の間に4回の「公海での航行自由原則を維持するための作戦」(以下FONOP)を実施した。

これに対して2017年1月に発足したトランプ政権は、北朝鮮による大陸間弾道ミサイル開発を中止させるよう中国政府から北朝鮮へ圧力を加えてもらうことを期待して、同年8月まではFONOPを中断した。

しかしながら、中国政府が北朝鮮へ本気で働きかけをしないと見て取ったトランプ政権は、中国に対北朝鮮圧力を促進させるためにFONOPを再開した。再開当時は、中国の南シナ海進出への対抗というよりは、北朝鮮問題への関与を促す目的であった。

しかし、経済問題をはじめとして中国との関係が悪化してくると、中国が南シナ海で軍事的優勢を確保するのを阻止するために、FONOPをますます強化するに至った。そしてこれまでにトランプ政権下で実施されたFONOPは30回に迫ろうとしている。

FONOPの強化と共に、トランプ政権はアメリカ海軍が2年ごとに開催している太平洋沿岸諸国による多国間軍事演習から中国海軍を閉め出した。そしてアメリカ海軍は、中国軍による海洋進出に対抗するために、大艦隊建造計画を立案し建造がスタートした。

海上自衛隊の護衛艦かがに乗艦し、記念撮影に臨むトランプ米大統領夫妻と安倍晋三首相(当時)夫妻=2019年5月28日、神奈川県横須賀市の海上自衛隊横須賀基地、代表撮影

また強大になっている中国海軍に対抗するには、当面の間はアメリカ海軍だけで対抗して打ち勝つことは困難と判断した海軍当局は、南西諸島やフィリピン諸島に展開したアメリカ陸軍のミサイル部隊が地上から中国艦隊を攻撃できるように、海軍向けに開発されている対艦ミサイルを陸軍が装備することにも同意している。

更には、これまで敵の海岸線に海側から接近して突入する強襲上陸作戦を(表面的には)“お家芸”として陸軍との違いを強調してきたアメリカ海兵隊も、中国軍相手に強襲上陸作戦は不可能に近いことを認めて、アメリカ陸軍と同じく、地上から海上の中国艦艇を攻撃する地対艦攻撃部隊を創設して拡充する努力を開始した。

そしてアメリカ空軍も、一時は戦力を縮小し始めたグアム航空基地に、戦略爆撃機をはじめとする爆撃機部隊を戻し始めて、中国をにらんだ攻撃力の強化を推進し始めている。

このように、トランプ政権の国防政策の抜本的転換によって、米軍当局は中国を封じ込める態勢をスタートさせていたのである。

■関与政策への回帰はあるか

これに対して、バイデン政権が国防方針をどのように転換するかは、現在のところまだ明らかにされていない。

アメリカのシンクタンクや国防関係者の間では、経済面や軍事面それに外交面で中国の力がこれだけ強大になってきており覇権国アメリカの地位が脅かされるに至っている状況では、覇権国家と強力な新興国家の軍事衝突は不可避だという、いわゆる「トゥキディデスの罠(わな)」は避けられない、との議論もある。

そのため、もはや米中軍事対決は避けられない以上、バイデン政権としても、少なくとも軍事面においては、トランプ政権の中国敵視政策を180度転換させることはできない、という味方がある。

ただし、トゥキディデスの罠はあくまで仮説であって、人間には戦争や軍事対決を避ける努力をなすことも可能である。そのために、トゥキディデスの罠を口実として軍備を増強し中国に対する封じ込め政策を突き進むのか、あるいは関与政策的な方針を取り入れて、決定的な米中軍事対立を避ける方向へと舵取りをするのか、いまだに選択の余地が残されている。

実際に、バイデン次期大統領が政権発足後の国家安全保障担当の大統領補佐官に指名したジェイク・サリバン氏は、オバマ政権下において中国に対する関与政策を推進した経験がある。そのため、米軍関係者の間では、急激に対中封じ込め政策が捨て去られることはないにしても、徐々に中国を取り込む政策が復活するのではないか、と考えられ始めている。