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トランプ氏が批判するWHOに、アメリカから届いた多額の寄付 「連帯基金」って何?

World Now
「WHOのための新型コロナウイルス感染症連帯対応基金」の伊藤聡子さん

■「日本がかやの外になる」その場で手をあげた

――「連帯基金」に日本からも寄付できる枠組みができています。どういった経緯があったのでしょうか。

これまで感染症分野に携わってきていましたので、2月、3月の時期はコロナ危機を前に何かをしなければ、自分には何ができるのか、ということを考えていました。WHOの記者会見はずっと見ていましたが、3月13日の夜、テドロス・アダノム事務局長が米国の民間財団である国連財団と一緒にコロナ対策の基金を立ち上げると発表しました。「WHOのための新型コロナウイルス感染症連帯対応基金(連帯基金)」といいますが、世界中の人々に連帯を求め、有志の寄付金を募るというのです。その時点では欧米の財団だけが寄付の受け皿となっていました。「これでは日本が、かやの外になってしまう」と危機感を感じ、その晩のうちにニューヨークの同僚とともに旧知の国連財団に連絡を取り、日本も参加したいと手をあげました。この時期は米国もWHOも大混乱の状態でしたが、「仲間は多い方が良い」ということで協議が始まり、すぐに加わったのです。日本の組織が寄付の受け皿として入ることで、日本からの寄付でも税制の優遇が受けられ寄付のインセンティブになります。

WHO本部=スイス・ジュネーブ、吉武祐撮影

――WHOはこれまで、利益相反の懸念から民間企業からの寄付は受けていませんでした。

確かにWHOは企業との関係に慎重です。でも、コロナという緊急事態にあって、目の前の救える命を救うために踏み切ったということだと思います。

ただし、これは突然できあがったものではありません。テドロス事務局長が就任してからWHOの改革が進んでいます。その一つに、企業やNGOなど民間のアクターとの関係見直しの動きがあります。2018年にWHOとNGOの関係作りを検討するタスクフォースが立ち上がって、日本からはJCIEが参加しました。WHOのガバナンスは国家が中心的ですが、政府だけではなくてNGOの知恵をWHOの政策形成や運営に生かすことで、より多くの人に保健サービスを行き渡らせることができるという提案を出したのです。こういったWHOと民間の連携の模索の流れがあって、この基金ができたのだと考えています。

■連帯基金「一国に値するくらいの影響力」

――「連帯基金」には多くの寄付が集まりました(10月21日時点で約246億円)。

個人からの寄付もたいへん多く集まりましたが、規模としては企業が大きいです。100万ドル以上の寄付を下さった企業も多くあります。7割強を占めているのが在米の企業と個人です。

――アップルやフェイスブック、グーグルなど、プラットフォーマーと呼ばれる企業が名を連ねています。

これらの企業のマーケットは世界です。グローバルなマーケットが健全でないとビジネスが成り立たないという思いがあったのではないでしょうか。世界が早く立ち直るためにどこに寄付するか考えた時に、世界全体に効果を及ぼせるのがWHOだと考えたのだと思います。

また米国はトランプ大統領がWHO批判を繰り返していましたが、それでも寄付は続きました。米政府の意向と民意が必ずしも一致していないことが、寄付というかたちでもあらわれたと言えます。

2020年3月13日、ホワイトハウスで国家非常事態を宣言するトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影

――WHO批判を続けるトランプ氏の姿勢と、米国からの寄付が多いというのは対照的ですね。

連帯基金からの寄付金額は、先進国1カ国分くらいの存在感があります。企業や個人の寄付が世界中から集まると、一国に値するくらいの影響力があるということがよく分かりました。金額もそうですが、手続きに時間がかかる政府資金に比べて、迅速にWHOに送金できたということもあります。でも、WHOから一番感謝されたのは、政府資金と違ってお金の使途が柔軟だ、ということです。WHOが必要と思うところに対して柔軟に使える資金源ができたこと、そしてそれが民間の力だったということが、すごく意味のあることだと思っています。

――グローバルヘルス分野で民間組織が担う役割の存在感が大きくなっています。

政府だけで課題を解決することの限界が認識されるようになってきています。もちろん政府が大事なことはいうまでもありませんが、それだけでは手に負えなくなるほど課題が複雑化しています。さらに、単独の政府だけでは対応できない、国境を超える課題が増えてきているからでしょう。

企業やNGOや財団は国境を超える存在です。しかも専門性を持って資金力もあるアクターが力を付けてきています。また、現場を持つNGOや、顧客と従業員を持つ企業は、それぞれの地域の人々に保健サービスや情報を効果的に届ける知恵を持つ存在でもあります。政府としても、そういったところと組むことが地球規模の課題解決に必要だとして、ともに動こうとしています。SDGs(持続可能な開発目標)の理念である「誰も取り残されない」を達成するために、みんながプレーヤーだ、という時代になっているということだと思います。

■個人と課題をつなぐカタリストとして

――世界の課題を解決するために、国家だけでなく様々な組織や個人が動かなければいけない時代なんですね。

大事なことは、そうした個人や企業の思いをうまく受けとめる受け皿作りです。思っていることと、解決すべき課題とのあいだにものすごい距離があるときに、間に立つ存在が大事になります。寄付をしたいがどこに寄付すれば良いのか、自社の技術が役立ちそうだが誰に相談したら良いのか、と考えたとき、間に立つ仕組みがないと一人ひとりの思いがなかなか形になりません。

――解決すべき課題との距離を埋めるために重要になるのが、間に立つ存在だということですね。

触媒を意味する「カタリスト」と言いますが、世界に存在する課題の側から発せられているメッセージを、うまく届ける「翻訳力」がカタリストには求められています。それには、課題の側の問題をよく知っていることと、それを必要とする日本のオーディエンスをよく知っていることの両方が求められます。それがないとただの仲介屋になってしまいます。1+1を3にするような、相乗効果を生むカタリストが、もっと日本にも増えていくといいなと思っています。 

いとう・さとこ 1983年慶応大卒。ロンドン大学東洋アフリカ学院修士課程修了。88年に日本国際交流センター(JCIE)入所。04年にグローバルファンド日本委員会の立ち上げに関わり、現在事務局長。2012年4月よりJCIE執行理事。三大感染症、ユニバーサルヘルスカバレッジ、高齢化対策を中心にグローバルヘルス分野の諸事業を統括。