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認知症の発症率、欧米で下がり始めた 科学者が考えた「なぜ」

ニューヨークタイムズ 世界の話題
10 May 2019, Berlin: An old woman is holding a teddy bear. Photo by: Jens Kalaene/picture-alliance/dpa/AP Images
欧米では認知症発症の勢いが衰えつつあるという(本文と写真は関係ありません。写真はalliance/dpa/AP Images)

認知症には効果的な治療法や予防策がないが、それでも米国や欧州ではその発症の勢いが衰えつつある。科学者が8月3日に明らかにした。

生涯を通じ、認知症になるリスクは現在、2010年時点と比べて13%減った。ここ四半世紀、認知症の発症率はあらゆる年齢で着実に低下している。この傾向が今後も続くとすれば、米欧の認知症患者は現在より1500万人減るだろうと論文の著者(複数)はみている。

この研究は、認知症の発症率の低下をこれまでで最も明確に実証したものである。米ミズーリ州セントルイスのワシントン大学老化研究所長のジョン・モリスによると、今回の研究成果は、認知症で一番多いタイプのアルツハイマー病のツナミが押し寄せるとする患者擁護団体の警告への回答だ。

目下、認知症の患者数が今まで以上に増えているのは確かだが、それは全人口に占める高齢者の数がますます増加しているからである。

発症率の新しいデータは「期待に満ちている」とモリスは言い、「これは非常に有力な研究であり、とても力強いメッセージだ。発症リスクは修正し得ることを示唆している」と続けた。

マサチューセッツ州ケンブリッジのハーバード大学の研究者たちは、計4万9202人を対象にした7件の大規模な研究データを精査した。この研究では、65歳以上の男女を少なくとも15年間追跡した。これは対面式の検査を含み、多くの場合が遺伝子データや脳の断層写真、研究対象者の心血管疾患の危険因子に関する情報を精査したものだ。

データには、アルツハイマー病の個別評価も含まれている。研究者は、その発症率が10年で16%の割合で順調に低下してきたことも突き止めた。この研究は学術誌「Neurology(神経学)」に掲載された。

1995年でみると、75歳の男性は残りの生涯で認知症を発症する可能性が25%あった。それが現在では18%にまで低下したとアルバート・ホフマンは言っている。ハーバード大学公衆衛生大学院疫学研究科長で、今回の論文の筆頭著者である。

男性より女性の方が認知症になりやすいとよく言われているが、ホフマンらは認知症の発症率に男女差はないことを解明した。

混乱した原因は、高齢者人口が男性より女性の方が多いことにあるようだ。認知症になる可能性が高い年齢層では、何歳であれ認知症患者の数は女性の方が男性より多くなる。

認知症発症率の低下に関して不可解な側面の一つは、低下が米欧に限られており、アジアや南米、そしてデータは限定的ながらアフリカでは低下現象がみられないことだ。論文著者の指摘によると、日本、中国、ナイジェリアでは認知症患者が増えているとする報告が複数ある。

ホフマンは、そうした増加が不可解だと言っている。この傾向は、そうした国々で喫煙率が高いことと関係があるかもしれない。喫煙は認知症を発症させやすいのだ。

米欧における発症率低下の主な仮説の一つは、特に血圧やコレステロールといった心血管の危険因子の制御が改善されたこと。認知症患者のほぼ全員が、高血圧の結果とみられる血管損傷などの脳の異常も抱えている。

ホフマンによると、高血圧は中年期に最もダメージを招きやすい。若年期に血圧が低く、その後に血圧が高くなった人は認知症を発症する可能性が低くなる傾向がある。

血圧の大幅な変動は、どの年齢でもリスクがある。そうホフマンは付け加えた。

認知症の発症率が低下したもう一つの理由は、より良い教育にあるかもしれない。良質な教育は、たとえば過去に忘れたことのある言葉の同義語を増やした記憶領域など、脳により多くの容量を付与することで保護効果が得られると考えられている。

血圧やコレステロールの制御と同様、教育レベルは過去数十年間で徐々に改善されてきた。「教育は認知症の発症年齢を遅らせるとの仮説があるが、まだそのエビデンス(科学的根拠)は多くない」とホフマンは言う。

認知症の遺伝的危険因子が変わったはずはない、と米国立老化研究所の所長リチャード・ホーズは指摘する。「つまり、環境に何か変化が起きたということで、勇気づけられる」と彼は言い添えた。

だが、教育の改善がその回答だとすれば、認知症発症率の低下は限界に近づいている可能性があるとホーズは言う。彼は、観察研究で認知症と関連づけを示唆しているのではと考えることにも注意を促している。

科学者たちは、さまざまなライフスタイルを認知症のリスク低減と関連づけることができても、それが防護措置になるとはまだ想定していない。

「より良質な食事や多くの運動を推奨するために、多くの人がこうした報告を活用している」とホーズ。「より多くの社会的な交流や活動、良質な食事、より良い血圧コントロールといったことに、私は反対できない」と言っている。

「しかし、確実性を大いに高めるためには、もっと研究が必要だ」(抄訳)

(Gina Kolata)©2020 The New York Times

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