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エッセンシャルワーカーの女性たち それぞれの、働き続ける思い 

ニューヨークタイムズ 世界の話題
Stephanie Garcia, as one of the last responders on the front lines, worked quietly and tirelessly in the background as the number of bodies piled up. (Sol Cotti/The New York Times) -- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY ESSENTIAL WORKERS BY ALEXANDER E. PETRI FOR JUNE 11, 2020. ALL OTHER USE PROHIBITED. --
葬儀ディレクターのステファニー・ガルシア=Sol Cotti/©2020 The New York Times

最前線で働く「エッセンシャルワーカー」といえば、私たちはしばしば医師が頭に浮かぶ。そして、看護師。当然である。

しかし、米国の機能を維持する上で重要な役割を担っている女性はもっとたくさんいる。目につく人もいれば、そうでない人もいる。彼女たちは、国が危機の混乱を乗り切るために不可欠の存在なのだ。

ワクチンができているかどうか――医学博士アンソニー・ファウチ(訳注=米国の感染症の権威で、国立アレルギー感染症研究所長)は2021年に期待している――学校が再開されているのか、またはある種のオンラインとの混成型の苦しい状況が続くのかどうか、託児所の有無、オフィスが開いているかどうか。そうしたことにかかわらず、貨物が運ばれ、食事が用意され、食べ物が配達される必要は依然としてある。年配者は引き続き介護が必要だ。それに、葬儀も次から次へと行われる。

国勢調査のデータと米連邦政府のエッセンシャルワーカーの指針を組み合わせたニューヨーク・タイムズによる今年の分析で、女性が従事する仕事は3件に1件が不可欠であることが判明した。しかも、そうした仕事に就く女性は有色人種の可能性が高い。

ここに、いくつか彼女たちの物語がある。何人かは、自身や愛する人の安全を守る防護用具を見つけることに苦労してきた。マスクをつけることに関心がない人と向き合ってきた人もいる。家族と一緒に悲しんだり、高齢者を落ち着かせたり、病人を支えたりする人もいる。いずれも骨の折れる、困難な仕事だ。

だが、苦痛だったり難儀だったりするにもかかわらず、ロビーのあちこちで、笑顔や「サンキュー」の声や寛大さを示すちょっとしたしぐさが繰り返されることに、彼女たちの多くは救いを感じてきた。たいていの場合、こうした必須の仕事は華やかでもなければ、報酬がいいわけでもない。しかし、大切だ。ウイルス性の病気がダラダラと長引き、人びとの疲労がたまっていくにつれ、恐らく、これまでにも増して重要になる。(抄訳)

(Francesca Donner)

■ステファニー・ガルシア 満杯の葬儀場で

中国で新奇なコロナウイルスについての報道があった時、米ブルックリンにある「ニューヨーク国際葬儀サービス(IFSNY)」の葬儀ディレクター、ステファニー・ガルシア(24)はどうすればいいのかわからなかった。恐怖を感じ、困惑し、遠くて目に見えない脅威がニューヨークにどんな影響を及ぼすのか、確信が持てなかったのだ。

しかし、ウイルスが米国に到達すると、ニューヨーク市はすぐさまそのエピセンター(中心点)になった。

「事態がこれほど悪化するとは、思ってもみなかった」と彼女は言う。彼女が扱う葬儀の件数は、パンデミック前まで週平均4件だったのが14件に増えた。

この急増は、葬祭業、とりわけニューヨーク市のこの業界に大きな打撃を与えた。同市では2万3千人以上の死者が出た。患者であふれかえった病院と埋葬が滞った墓地。そうした状況下、都市の葬儀場は危機のピーク時には対応能力が限界を超え、棺で一杯になった。

葬祭業の従業員は、最前線に立つ最終対応者だ。彼女と同僚は最低でも12時間シフトの勤務に就いてきた。だが、車を運転して仕事に向かう際に、まるでパンデミックが都市を引き裂く事態とは無縁のような生活が展開されている様子を垣間見る時が何日かあった。

「真剣に受け止めていない人たちがこんなにいる」とガルシア。「私からすれば、狂っている。だって、私はまさに悪夢の真っただ中で暮らしているのだから」

彼女は、白人男性優位の業界で葬儀ディレクターをしている。全米葬儀ディレクター協会(NFDA)によると、米国の葬儀ディレクター課の卒業生の70%は女性だが、業界は約80%を男性が占めている。

彼女は4年間、葬儀ビジネスに携わってきた。ディレクターとして、亡くなった人に対処する過程で遺族を導くのだ。遺体の引き取り、書類の記入、追悼の準備、火葬と埋葬の段取りなど。この仕事は、死者への尊厳をもたらすと同時に、遺族をケアする仕事でもある。

ニューヨーク市での死者が増えるにつれ、彼女の葬儀場には数百体――ガルシアの推計だと200体近く――の遺体が運び込まれた。この地域の墓地と火葬場は数週間前に予約で満杯になっており、ガルシアと同僚は遺族の申し込みを断らなければならなかった。ところが、電話のベルは鳴り続ける。

要請に応じるため、彼女の上司は冷凍トラックを借りた。そのトラックは葬儀場脇の横道でブンブン音をたてた。仕事仲間はストレスを抱え、燃え尽きる瀬戸際にあった。どうしたら乗り越えられるか、ガルシアは知りたかった。

「私は泣いた。遺族の頼みを断り、彼らの愛する人のお世話ができなかったのだから」。そう彼女は言っていた。

仕事から帰宅すると、彼女はドアのところで服を脱ぎ、そのままシャワーに直行した。

彼女の日課の自己療法には、ジグソーパズルもある。仕事の苦痛から気を紛らわし、正気を保つのだ。

「私が見ていることをあなたが目撃したなら……」とガルシア。「あなたは自宅に留まっていたいと思うはず」(抄訳)

(Alexandra E.Petri)

■アシュリー・レイノルズ ファストフード店で働き続け

アシュリー・レイノルズ(18)は、育ってきた過程で、兄の跡をなぞるという通過儀礼に順応してきた。

彼女の兄は、父の名にちなんで名付けられたジェフ・ジュニアで、18歳の時に自宅でパーティーをしていて銃で撃たれた。その時、彼女は3歳だった。以来、誕生日や休日ごとに、喜びが混じった悲しみを感じてきた。そうした祝いの場にジェフ・ジュニアが一緒にいればよかったのにという両親の気持ちがくみ取れるからである(兄は生きていれば現在、33歳になる)。

高校の卒業式は、彼女にとって最高の日になるはずだった。彼女の母親からすると、高校を卒業するのは彼女が初めての子なのだ。卒業まであと何日かを数え始めた。そうした折、アラバマ州バーミングハムに新型コロナがやって来た。

「もう、あきらめたような気分?」。5月初旬、彼女はインタビューにそう答えた。「兄が越せなかった(高校卒業という)ステージを、私も越せないことで家族を失望させている気がする」

Ashley Reynolds is one of the 3.7 million high school seniors in the U.S. who saw their season of festivities canceled — she
ファストフード店で働きながら高校を卒業したアシュリー・レイノルズ=Sol Cotti/©2020 The New York Times

彼女は、今年高校を卒業する「新型コロナ組」370万人のうちの一人だ。パンデミック初期の数カ月間、米国の最前線の労働者2400万人のうちの一人でもあった。エッセンシャルワーカーの半数以上は女性だが、3人に1人が彼女のようなアフリカ系の米国人だ。彼女の高校最終学年が一変した間も、週30時間勤務というマクドナルドでの仕事のシフトはそのままだった。

アラバマで自宅待機令が出された時、彼女は行事の日程がカレンダーから消えるのをがっかりしながら見つめていた。プロム(訳注=高校最終学年のダンスパーティー)の予定は宙に浮いてしまった。認定看護助手(CNA)になるために履修していたコースは、中断された。

だが、エッセンシャルワーカーとみなされていたため、ほとんどの友人たち同様、在宅はできなかった。日々の仕事でマクドナルドに出勤した。

いら立つ顧客ややっかいな同僚たちなど、仕事の上でのふだんのストレスはすべてパンデミックで増幅されたとレイノルズは言う。顧客の多くは、ソーシャルディスタンスの指針に従わなかった。「それがいかに深刻なことか、彼らにはわかっていない」と彼女。「指示に従いたくないのだ。6フィート(約180センチ)の距離を保つルールを信じていない」

彼女は、新型コロナの拡散や高齢者と黒人が(人口比において)不釣り合いな影響を被っていることに関するニュースを丹念に追っている。看護コースがキャンセルされる前は、彼女は地元の高齢者福祉施設で毎週ボランティア活動をしていた。

さて、うれしいことに、彼女は、その高齢者福祉施設で新しい仕事を始めた。看護助手として、新型コロナで家族が訪ねて来られない高齢者のために慰めを提供する仕事だ。時給10ドル71セントになる。

もう一つ、予期していなかったことが起きた。結局、彼女は卒業式に参加できたのだ。アラバマ州は5月下旬に自粛が緩和され、彼女の高校は当初の計画を縮小して卒業式を挙行した。「ベストではなかったけど、有意義だった」と彼女は言う。

レイノルズは、パンデミック後の将来に目を向けている。この秋、(アラバマ州の)タラデガ・カレッジの授業が始まることを願っているのだ。だが、母親が彼女を大学に送り出す日のことを不安に思っているのを彼女は知っている。「両親は手放したくないと感じているけど、わかる?」と彼女は問い、「それが私の母なの」と続けた。(抄訳)

(Emma Goldberg)

マルタ・ロドリゲス 医療通訳は「使い捨て」?

病院の通訳者マルタ・ロドリゲスの日常は、重篤な患者に予後を理解してもらう手助けをすることだが、容易な仕事ではない。彼女には、いまにも泣き出しそうな時に使う裏技がある。「爪を手に突き立てるのだ」と言う。「涙を止めるためにする。だって、潰れてしまったら、いい仕事ができないから」

彼女は30年以上にわたり、医師や看護師の通訳をして毎週20人から30人の患者の面倒をみてきた。

新型コロナのパンデミックは、彼女の仕事がいかに緊急に求められているかを見せつけた。新型コロナによるヒスパニック系の死亡率は、45歳から54歳についてみると、白人の米国人の死亡率と比べて少なくとも6倍高い。英語の能力に限界がある患者は、英語を話せる人より著しく高い比率で健康への悪影響を受けていることが研究でわかっている。だから、彼らは、そのギャップ縮小の手助けをするロドリゲスのような医療通訳者を頼りにしているのだ。

For Marta Rodriguez, helping very sick patients understand their prognosis has become routine — but it hasn
医療通訳者のマルタ・ロドリゲス=Sol Cotti/©2020 The New York Times

ロドリゲスの一家は、彼女が10歳の時にコスタリカから米ボストンのジャマイカプレーン地区に移住した。父親はレストランで皿洗いをし、母親は乳母として働いた。ロドリゲスは米国に着いた最初の夏、英語を勉強した。彼女が通ったカトリックスクールの修道女のシスター・ルイーズが、学校が始まるまでに英語を流暢(りゅうちょう)に使えるようしっかり準備しておきなさいと言っていたからだ。

両親は子どものために経済的な機会を求めて米国に来たが、彼女は、コスタリカに留まっていたら当初の夢だった医者になれたかもしれないと思っている。米国では、医者になる教育はあまりに高額だ。彼女がそのことに思いをめぐらした数十年前でさえ、医学部卒業生が抱える負債の平均値は1万8652ドルだったし、その後も少なくとも3年以上の研修が必要だった。

彼女は長年、あらゆる類いの疾病や負傷にかかわり、病院の専門分野の枠を超えて働いてきたが、ここ数カ月は主に新型コロナのケアが中心だ。当然ながら、新型コロナの急増で、患者もそうだが、自分自身や同僚の健康状態も懸念される。彼女は3月初旬、病院スタッフ全員に十分なマスクがないことを知った。全米各地の多くの施設同様、彼女の病院でもPPEとして知られる個人防護用具を十分確保するのに苦労した。

「私たちは、使い捨ての存在であるように感じた」とロドリゲスは言う。彼女の同僚2人が新型コロナに感染。両人とも生き残ったが、特に自分自身の家族やコミュニティーの一員が病気になるのを目撃した同僚たちの間に生じた恐怖感が手にとるようにわかったと彼女は言っていた。

「新型コロナに感染しないよう、私はあらゆることをしているけど、それが神の意思なら、そうなるしかない」と彼女。「でも、家には持ち込みたくない。私を頼りにしている人があまりにも多いから」

しかし、パンデミックは35人の通訳者がいるロドリゲスのコミュニティーの絆も強めた。お互いに精神的な支援を提供し合っているのだ。「街角に酒屋があるので、最悪の日には『そこに行こう』と声をかける」と彼女は言う。「ウイルスに感染するかどうかわからないので怖いが、私たちはそうした感情を抑え込んでいる」(抄訳)

(Emma Goldberg)

■デシア・グラント 食品配達を止めない

デシア・グラント(41)は、きつい一日を過ごした時、メアリー・J・ブライジの曲を聴く。最近はブライジを聴く日が多い。

彼女はフルタイムの仕事を二つしているように感じる。昼間は、脳性まひの20歳になる娘ダオナの面倒をみる。夜は、食品配達アプリ「DoorDash(ドアダッシュ)」を通じた食事を配る。その間に、急いで睡眠不足を補うのだ。

ニューヨーク市に暮らす彼女は、全米に約20万人いる食品配達ワーカーの一人である。食品配達サービスアプリで働く人の過半数は女性だ。ドアダッシュの場合、郊外の「ダッシャー(ドアダッシュ従業員)」の半数以上、都市では60%以上が女性である。グラントは、柔軟な勤務時間が気に入っていると言う。昼間、自宅で娘の世話をする時間がとれるからだ。

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食品配達ワーカーのデシア・グラント=Sol Cotti/©2020 The New York Times

ところが、パンデミックがすべて事態を複雑にしてしまった。

今は、配達に時間が長くとられる。配達ごとに、いつも消毒のルーチン(決まりごと)をしなければならないからだ。顧客はいら立っているし、彼女もイライラしている。娘をオンライン授業に集中させ続けることに苦労し、学校閉鎖で娘の来年の卒業予定が遅れる可能性性も心配している。

自宅を出てドアダッシュでの勤務に就くのは容易ではない。仕事中、ウイルスにさらされる危険性が絶えずあることをよく知っているからである。彼女はいま、ニューヨーク市で働く最前線ワーカーの一人なのだ。同市の労働力の25%に当たる100万人超がエッセンシャルワーカーだ。彼女は2006年に購入した車アキュラMDXで動いている。

「自転車(bike)に乗るかって? えっ、いやいや」と彼女は笑った「最初、あなたが『何か口にする暇はあるのか』って言ったと思ったので。まさか」。

夜は長いから、彼女は配達の間中、ジョークのネタを探している。リル・デュバルに合わせて歌うのが好き。「I ain't going back and forth with you / I'm living my best life!(あなたと堂々巡りはしない。最高の人生を送っている)」という詞の曲だ。 長い夜は、注文の品――ピザやサラダやローメン(汁なしの麺)――を届ける時のお客の対応に助けられる。交流はできなくても、ロビーの向こうの顧客とアイコンタクト(目と目を合わせること)はしたい。「お客は『サンキュー』といった具合に手を振り、ボディーランゲージを通じて、温かい食べ物を受け取ってうれしいという気持ちが伝わってくる」と彼女は言っていた。

「ありがたさの表現や感謝の態度には、ドル札以上のものがある」と彼女は言う。

もちろん、チップも大事だ。ありがたいことに、チップをはずんでくれる顧客もいる。調子がいい晩は、7時間勤務で、賃金とチップを合わせて110ドルから160ドル稼ぐこともある。仕事中は、彼女の母親がダオナを見守っている。

ダオナはクイーンズ区のサウスジャマイカにあるPS233を来年6月に卒業する予定だ。特別のニーズを必要とする生徒のための機関である。

「いつもの生活が戻ることを願っている。そうすればダオナがバスに乗って、新しい車いすをお披露目できるから」とグラントは言う。

夕方、グラントは自宅を出る準備にかかる。娘にグッバイのキス。それからマスクと手袋を取り出し、祈りの言葉を口にする。「私は怖くない。私は慎重だ」と彼女は言う。「だって、恐怖は人の動きを止めてしまう。私は、何であれ、誰かのためになる動きを止めたくない」(抄訳)

(Emma Goldberg)©2020 The New York Times

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