コロナウイルスは、1930年代に鳥から分離され、その後、マウス、豚、犬、猫などさまざまな動物から見つかり、その種類は数千にのぼるとされる。人に感染する病原体としては7種類。最初に見つかったのは、普通の風邪を起こすウイルスだった。にわかに注目を集めるようになったのは、2002~03年に中国などで流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因がコロナウイルスと突き止められてからだ。8千人以上が感染して死者は774人、致死率は10%程度だった。1年で収束し、人の記憶が薄らいだ12年、致死率が35%でSARSより高い中等呼吸器症候群(MERS)の流行を起こす。
そして19年末。中国武漢で流行した原因不明の肺炎の原因は、新型コロナウイルスと突き止められた。コロナウイルスは、20年足らずの間に3回も新興感染症として出現し人類を脅かす存在となった。いずれも自然宿主はコウモリだと考えられている。中間宿主ははっきりしない。
新型コロナウイルスの感染拡大のスピードはすさまじく、この8カ月間で、世界で2千500万人以上の感染者が出ている。死者も85万人にのぼる。新型のゲノム(全遺伝情報)の80%はSARSウイルスと同じで、基本的な構造や増殖の仕組みはもそっくりなのに、なぜこれほど違うのだろう。
SARSとの大きな違いは、軽症ですむ人が多いということだ。当初は安心情報と受け止められていたが、感染を簡単に拡大させる要因になる。重症になって入院するSARS患者は隔離されたが、軽症や無症状の新型コロナ感染者は動き回ることができる。
SARSでは症状が重くなるほどウイルスを排出する量が増えていったが、新型コロナウイルスは、症状が出る2~3日前から症状が出た直後に、ウイルスを排出する量が多いこともわかってきた。
こうした違いをうみだす原因は何か。東京大医科学研究所のグループは、新型コロナウイルスはSARSウイルスより、インターフェロンを抑える働きが強い可能性を報告している。ウイルスが細胞に侵入すると、インターフェロンというたんぱく質が細胞の外に出て、免疫を活性化する。このため、体がだるくなったり、熱が出たりするが、効率よくインターフェロンの働きを抑えられると、症状が出にくくなる。免疫をうまく逃れたウイルスが増殖する可能性がある。
世界中から大量の論文が発表され、かつてない速さでウイルスの解明、治療薬やワクチンの開発も進んでいる。しかし、まだ多くの謎が残されている。一つは、症状の多様性だ。なぜ軽症ですむ人と重症に至る人がいるのか。免疫が強く働きすぎると暴走し、感染した細胞だけでなく、正常な細胞も攻撃する。この状況で血栓ができやすくなる。免疫の個人差が症状とどうかかわるのか。
地域による感染者数や死亡率に差がでているのもなぞだ。600万人超えた米国と6万人の日本。日本は欧米に比べて感染者も死者も少ない。文化や生活習慣、遺伝子、ほかの病原体の感染歴などさまざまな要因があげられているが、今のところよくわかっていない。
大阪大の松浦善治教授(64)は、「新型コロナウイルスについてはわかっていないことだらけ。しかし、世界中の研究者が猛烈な勢いで研究しているので、いずれ解明されるだろう」と話している。