1. HOME
  2. Learning
  3. ブラック・ライブズ・マターの時代 差別する側の「弱さ」にも眼を向ける

ブラック・ライブズ・マターの時代 差別する側の「弱さ」にも眼を向ける

Bestsellers 世界の書店から
相場郁朗撮影

今年5月、ミネソタ州で白人警官の暴行で黒人男性が死亡した事件以降、全米規模で広まった抗議運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」。これを受けて、ベストセラー書籍の大半は人種関連の本で占められた。

『White Fragility』は、白人の女性社会学者ロビン・ディアンジェロが著し、2018年6月に出版。主に白人の読者を対象に、白人による黒人差別の構造の解明に焦点が当てられている。

表題の「白人の脆弱さ」とは、11年に著者が作り出した専門用語。白人が「最小限の人種的ストレスを受けただけで耐えられなくなり、様々な自己防御的な行動をとる状態」を表す。例えば、ベージュのクレヨンを「肌色」と呼ぶのは不適切ではないかといった簡単な質問にも、白人は動揺し、早口で弁明する、沈黙する、話題から逃げるなどの反応を示すという。

白人は政治や司法、教育など広範な分野で、組織的に白人の特権を守る社会構造を築き、維持してきた。白人に快適なその社会は、有色人種の犠牲の上に成り立っている。だが、そもそも多くの白人は、自分が特権を有している自覚がないと著者は指摘する。 

著者によれば、白人が自らに有利な社会構造を肯定する要因として、個人の成功は能力によるもので、人種は問題ではないという個人主義の考え方がある。だが現実は、人生で与えられる機会は特定の人種や性別、階級に大きく偏り、平等に用意されていない。

著者の批判は、自分は人種差別主義者ではないと信じる白人の進歩主義者にも向けられる。彼らは「自分は公民権運動にも参加した」と主張するが、人種差別は公民権運動後も続いている。彼らはまた、「人種差別は一部の不道徳な個人による行動」であり、自分たちの問題とは考えない。こうした人種差別に対する白人の単純すぎる定義は、白人が自らの立ち位置と現実を理解する妨げになっていると著者は指摘する。本書の反響は大きく、賛否両論を呼んでいる。

偏見をもたない人間はいない。だが、白人は自らの人種的偏見に一生をかけ向き合っていかなければならないと著者は語る。本書で示される白人の考え方に驚き、在米アジア人である自分についても考えさせられる。人種問題の根深さを思い知らされた本だった。

■人種差別主義者も、変われる

How to Be an Antiracistの著者、歴史学者イブラム・X・ケンディは、米国で現在、反人種差別研究の第一人者として知られる。『How to Be an Antiracist(反人種差別主義者になる方法)は、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」の抗議運動が活発化し、人種関連の書籍に関心が集まるなか、最も注目されている本の一つ。人種差別を、倫理や歴史、法律、科学などさまざまな視点から論じると同時に、著者の半生の回想録でもある。

人は、人種差別主義者(レイシスト)か反人種差別主義者(アンチレイシスト)のどちらかに分けられると本書でケンディは主張する。人種差別はしないが人種差別をなくすための行動もしない「ノット・レイシスト」や「ノンレイシスト」という、中立の立場や安全な場所は存在しない。

各章の冒頭では、人種関連の用語を明確に定義し、反人種差別主義者とはどういう人間かを説明する。

著者は「人種差別主義者」を、人種差別主義の政策を、行動によって、または行動をしないことによって、あるいは人種差別主義者的考えを表現することによって支持する人間と定義。これに対して「反人種差別主義者」とは、反人種差別主義の政策を、行動を起こして、あるいは反人種差別主義者的考えを表現することによって支持する人間だという。

また、「人種差別主義者」には、黒人は文化的にも行動的にも白人に劣るため、白人に追いつくための教育を施すべきだとする「同化主義者(アシミレーショニスト)」と、黒人は永遠に白人に劣るため、隔離するべきだとする「隔離主義者(セグリゲーショニスト)」の2種類がある。これに対して「反人種差別主義者」は、それぞれの人種は平等であるという考えのもと、人種間の不平等を減らす政策を支持する人間だ。人種差別のない世界を目指すためには、皆が反人種差別主義者になる必要があると著者は訴える。

また、白人による黒人差別だけでなく、黒人同士の間でも、肌の色の濃淡、性別や階級、性的指向のちがいなどによって差別は存在しているという。特に肌の色の濃淡に関して、著者自身も以前は人種差別主義的な考え方をもっていたと告白する。大学時代、自分の本来の瞳の色よりも明るい色のコンタクトレンズをつけ、自分よりも肌の色の薄い黒人の女の子とデートした。黒人でいたいが黒人には見られたくなかったという。外見が白人に近い方が美しく優れているという階級付けの存在に気づいた著者は、その後は反動で、肌の色の薄い黒人を下に見るようになった。だが、それもまた肌の色の濃淡による差別であることに著者は気づく。

黒人による白人差別もまた、結局は黒人差別を強めることにつながる。反人種差別主義者の世界を実現するには、人々ではなく権力に、すなわち政策の変更に焦点を当てる必要があるという。

また、人種差別主義者も反人種差別主義者も、固定されたアイデンティティーではない。人種差別主義者だった人間が、次の瞬間に反人種差別主義者になることも可能だ。自分が「誰」であるかではなく「何者」であるかは、人種に対して何を語り、どう行動するかによって決まる。人種差別は永遠に続くという皮肉な考え方を克服することができれば、反人種差別主義者の世界を実現できる。自身の経験と葛藤の末に導き出された著者の主張には説得力がある。

本書で論じられているケンディの反人種差別主義者のコンセプトは、米国の人種的正義の議論を再び活発化させ、新たな形へと導くものだとして、さまざまなメディアから高い評価を受けている。ニューヨーク・タイムズ紙は「西洋における人種問題に関して、これまでで最も勇気ある本」と称賛した。反人種差別主義者による社会は一体どういうものか。その社会を実現するために自分たちはどんな役割を果たすことができるのか。ニューヨークではコロナ禍のなか、年齢や人種を問わず多くの人々が「ブラック・ライブズ・マター」の抗議運動に参加した。本書は、その意義と指針を読者に教えてくれる。

■誰かが作った価値観から自分を解き放つ

『Untamed』は作家でフェミニズムの活動家グレノン・ドイルの3冊目の回想録。彼女は元米女子サッカー代表アビー・ワンバックと結婚している。

著者は元々、人気ブロガー。モマスタリー・ドット・コム(Momastery.com)というオンライン・コミュニティーを主宰し、多くの女性フォロワーを持つ。また、慈善団体「トゥゲザー・ライジング(Together Rising)」も主宰。メキシコ国境で家族と引き離された移民親子を再会させるためのプログラムなど精力的な活動をしている。

ベストセラーとなった過去2冊の回想録では、10代の頃の摂食障害、アルコール依存症の克服、結婚と3人の子どもの子育て、離婚の危機と夫婦関係の修復など、自身の過去を包み隠さず語り、悩みや生きづらさを抱える多くの女性たちの共感を呼んだ。

3冊目の回想録となる本書では、夫と離婚し、ワンバックと再婚するまでの経緯とその後の人生が語られ、大きな注目を集めている。

ワンバックとは2016年、2冊目の回想録出版のための広報活動の際に出会い、お互いにすぐに恋に落ちたという。夫の浮気による離婚の危機を夫婦で乗り越えたと思った矢先の出来事。ワンバックとの出会いは著者の人生の大きな転機となった。敬虔(けいけん)なキリスト教徒の家庭に育ったドイルが、夫と離婚し、女性と結婚する道を選択するまでには大きな葛藤があった。ドイルが赤裸々に語る波瀾(はらん)万丈の人生は、まるでドラマのようだ。

夫は離婚を素直に受け入れてくれたが、3人の子どもたちを傷つけることが何よりも気がかりだったという。両親や家族、友人、彼女を信頼するフォロワーたちの理解が得られるかどうかも不安だった。ドイルは悩み抜いた末に、ワンバックと共に生きる道を選択する。いまでは、元夫とワンバックは地域の同じサッカーチームでプレーをする間柄。元夫とワンバックと著者の3人親体制で、3人の子どもたちの子育てをしているという。

本書は時系列に沿うことなく、章ごとに短いタイトルがつけられている。過度に繊細だった幼少時代、十代の摂食障害、キリスト教、信仰、神、男性優位の社会構造、子育て、友情、フォロワー女性たちとの交流、ワンバックとの恋愛と結婚生活、人種問題など、著者の経験と葛藤、フェミニストとしての信念が語られていく。

女性たちは、「女性は若く美しく、従順で家庭的であるべきだ」という男性優位の社会の価値観に縛られて生きていると著者は訴える。こうした価値観に従って生きることが自分の幸福だと、著者自身も自分の心を偽りながら生きてきた。著者は本書で、女性たちに向けて、見知らぬ誰かが決めた価値観から自分を解放し、自分の心の奥底にある言葉に従って生きて欲しいとエールを送る。

著者の活動は、LGBTQのクリスチャンの女性たちを含め、彼女と同じような境遇の女性たちから、慰めや救いとなっていると強い支持を受けている。だが、著者が発するメッセージは宗教的色彩も強い。個人的には、いくつか心に響く言葉もあったが、こういった本を苦手に感じる読者もいるだろう。

米国のベストセラー(eブックを含むノンフィクション部門)

6月21日付The New York Times紙より

『 』内の書名は邦題(出版社)

1 White Fragility

Robin DiAngelo ロビン・ディアンジェロ

白人が人種問題に向き合うのが難しい理由を歴史的、文化的に分析。

2 So You Want to Talk About Race

Ijeoma Oluo イジオマ・オルオ

米国の人種問題の全般的状況についてアフリカ系女性作家が記した本。

3 How to Be an Antiracist

Ibram X. Kendi イブラム・X・ケンディ

アメリカン大学の歴史学者による「反人種差別主義者になる方法」。

4 Me and White Supremacy

Layla F. Saad レイラ・F・サード

アフリカ系英国人女性作家が語る人種差別と白人至上主義。

5 The New Jim Crow

Michelle Alexander ミシェル・アレクサンダー

初版2010年。公民権擁護者が米黒人男性の大量投獄問題を論じた本。

6 The Color of Law

Richard Rothstein リチャード・ロステイン

カリフォルニア大学の上級研究員が米政府の人種による住居隔離政策を検証。

7 Between the World and Me

『世界と僕のあいだに』(慶応義塾大学出版会)

Ta-Nehisi Coates タナハシ・コーツ

15年全米図書賞ノンフィクション部門受賞。自身の半生と米国の人種問題。

8 Untamed

Glennon Doyle グレノン・ドイル

フェミニズム活動家の回想録。伴侶は元米女子サッカー代表アビー・ワンバック。

9 Stamped from the Beginning

Ibram X. Kendi イブラム・X・ケンディ

3位の著者の前作。16年全米図書賞ノンフィクション部門受賞作品。

10  Just Mercy

『黒い司法––黒人死刑大国アメリカの冤罪と闘う』(亜紀書房)

Bryan Stevenson ブライアン・スティーヴンソン

アフリカ系人権弁護士による冤罪死刑囚の救済活動。2月公開の映画の原作。