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アメリカ、アダルト業界に学ぶ感染症対策のノウハウ

ニューヨークタイムズ 世界の話題
A photo provided by Maitland Ward shows her in Las Vegas on Jan. 23, 2020. Ward performs in adult films that rely on a health screening system that some experts say could be a model for a coronavirus screening database. (Maitland Ward via The New York Times)  -- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY SLUGGED VIRUS PORN TESTING BY MICHELLE C. HOLLOW FOR JUNE 22, 2020. ALL OTHER USE PROHIBITED. --
アダルト映画のスター、メイトランド・ウォードは検診システムを頼りに映画出演している=Maitland Ward via The New York Times/©2020 The New York Times

ますます多くの州が開放されて人びとが仕事に戻るにつれ、企業は従業員の感染からの安全をいかに確保するかのガイダンスを探し求めている。一部の専門家は、手本になりそうもないように見える対象に目を向けるよう提言している。成人向け映画の業界だ。この業界は、別のパンデミックを生き延びてきた。1990年代後半に発生したエイズウイルス(HIV)感染発生で、数十億ドル規模の産業がほとんど閉鎖されてしまった。

「ポルノ映画のプロデューサーに耳を傾けることで、安全に関するガイダンスについて現実に多くを学ぶことができる」。米ラトガース大学公衆衛生大学院長のペリー・N・ハルキティスは言う。「エイズの危機を振り返ってみると、成人映画業界は労働者たちの安全を維持する方法を学ぶ必要があったのだ」

ハルキティスは、彼が言うところの四つのTでこの先例に従うよう提言する。Target(特定)、Test(検査)、Treat(治療)、Trace(追跡)である。成人映画業界はPASS(Performer Availability Screening Services=出演者が利用可能な検診サービス)と呼ばれる全国的なプログラムを活用している。PASSは、出演者には14日ごとにHIVその他の性感染症の検査を求めている。仕事ができるようにするためである。検査結果が陽性だったら、治療を受けさせ、パートナーを追跡する。

「これがポルノ産業からの情報だということは気にすべきではない」とハーバード・グローバルヘルス研究所長のアシシュ・ジャーは指摘する。「経済を元に戻そうとするなら、レストランに行く、飛行機に乗る、仕事に行くといった日常的な活動をする時の信頼醸成が重要な要素になる」と言うのだ。

成人向け映画業界を手本にしようという提言は、5月に健康・医療のニュースサイト「Stat News」で報じられた。もちろん、新型コロナの潜伏期間を考えれば、旅行しても安全だとする陰性の検査結果がでていても、飛行機に乗るまでに感染する可能性もある。

成人映画産業は3月15日以来閉鎖されているが、再開に向けてのガイドラインを発表した。成人向け娯楽の業界団体「Free Speech Coalition」の広報責任者マイク・ステイビルは週に2回、テレビ会議システムのZoomを通じて業界の人たちとミーティングをし、産業再開のゴーサインがでた時にどう進めていくかを協議している。医療専門家とも定期的に相談している。

「新型コロナの検査や体温チェック、撮影していない時のマスクの着用、それから同居しているカップルが一緒に仕事をすることを検討している」と彼は言う。

同業界団体は、成人映画産業向けにCOVID-19(新型コロナ)関連情報のウェブサイトを開設した。

HIV検査について、ステイビルは「感染後7日から10日以内にウイルスを検出できる高感度のPCR-RNA検査を使っている」と言う。彼は、頻繁な検査と「検査済みの出演者集団以外とはセックスしないことや、する場合にはコンドームを使うことなど、出演者を管理してHIVの感染リスクを最小限に抑える」と言っている。

しかし、新型コロナはセックスによってではなく、せきや呼吸によってさえ飛ぶ飛沫(ひまつ)で感染するため、「(映画づくりの)現場で一緒に仕事をした人から、検査で陽性反応が出る前に接触した人まで、大勢の人たちが感染リスクにさらされる」と彼は言う。

感染が起これば、映画づくりは停止になる。感染者も陰性反応が出た人も、全員が撮影現場から離れることになる。成人向け映画業界で働く人の大半が個人の請負業者だ。働かなければ、報酬は得られないから、働き続けることへの意欲は高い。

「私はPASSシステムがあるところでしか仕事をしない」と成人映画のスター女優メイトランド・ウォードは言う。アダルトビデオニュースオスカーを3回受賞し、コメディードラマ「ボーイ・ミーツ・ワールド」の元スターでもある。「プロのポルノ業界は定期的にとても厳しいガイドラインに従っている」とウォード。映画づくりが再開されれば、新型コロナ検査の他にも、「体温チェックやスタッフ同士のソーシャルディスタンスなど、追加の予防策がとられることになるだろう」と言っている。

「検診は、私たちには当たり前のこと。アダルト映画業界は、主流映画の現場やその他のビジネスと比べて、はるかに用意周到だと思う。今回は、私たちが注意深く警戒すべきことがもう一つ増えたに過ぎない。はっきり言って、私は、主流映画界はアダルト映画業界がこの事態にどう取り組むかに注目すると思う。健康や現場の安全性に関しては、私たちが旗手だからだ」

ジャーは、(その意見に)同意する。彼は、人びとがオンラインで登録して新型コロナの検査を受けたことを示すことができるPASSプログラムのようなデータベースがあればいいと言っている。

「それは政府ではなく、非営利団体か民間企業が運営すべきだ」とジャーは言う。「私は、政府が運営することに反対しているわけではない。政府が運営することに不満を抱く人がたくさんいると思われるからだ」

ジャーは、ほとんどの人が自分の行く職場やレストラン、乗る飛行機の安全性を知りたいと考えている。

「デルタ航空やアメリカン航空が『コロナに感染していないことを示すために、この検査を受ける必要がありますよ』と言えば、その航空会社の飛行機に乗るのがより安全だと思うだろう」とジャーは言う。「航空会社はたくさんの検査機器を買い入れ、顧客に5ドルなり10ドルなりを請求して検査を受けさせてもいい。その飛行機の全員、そのレストランの全員、職場の同僚全員が安全と知ることで信頼が醸成される」

1980年代のHIVの共同発見者で、米メリーランド大学医学部の人間ウイルス学研究所の共同創設者兼ディレクターでもあるロバート・ギャロは、「HIVと新型コロナは大きく異なるウイルスだ。ウサギとリスを比べるようなもの」と指摘する。それでも、新型コロナとの戦いに際し、「成人向け映画業界の検査を手本にするのは賢い」と言っている。

アダルト映画にはマイナスイメージがつきまとうかもしれないが、ハルキティスは、こう指摘する。「たとえ成人映画業界からであろうが、あらゆる手段を取り込み、コロナウイルスの拡散阻止に活用する必要があるのだ」(抄訳)

(Michele C. Hollow)©2020 The New York Times

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