モノがネットにつながるIoTは、すでに生活の一部になりつつあります。私が構想段階から携わる福岡のオンデマンドバス「のるーと」もIoTのひとつ。スマートフォンアプリで出発地と目的地を入力すると近くの乗り場にバスがくる、AIを活用した新しい公共交通サービスです。西日本鉄道と三菱商事が共同出資するネクスト・モビリティがサービスを提供しています。
入社時から自動車に関わる仕事をしてきました。その中で、深刻な運転士不足など、バスをはじめとする公共交通が直面する問題を意識するようになりました。「この社会課題を解決したい」。その思いがより具体的な考えになったのは、シリコンバレーを拠点にするチーム・M-Labへ参加したことがきっかけです。M-Labは、三菱商事と10社以上の日系企業の人材が企業の垣根を越えてのビジネス創出を目的とした集まりです。自動運転の実証実験が進むモビリティ社会の最先端であるシリコンバレーでアイデアや意見をぶつけ合ったことが、今の事業にもつながっています。
テクノロジーで世界中に便利な移動を提供することを使命に開発に取り組むカナダのスタートアップ企業Spare Labs Inc.とも、M-Labメンバーの紹介で出会いました。また、「のるーと」の事業パートナーである西日本鉄道は、110年以上にわたり人々の移動を支え、街の発展をけん引してきた企業です。プロジェクトに関わる皆が「交通をより良く変えていく」ことに挑戦しています。このメンバーならきっと新しい未来を作っていける、そんな思いが日に日に高まっていったことを今でもはっきり覚えています。見ている未来が同じ人やチームに出会えたことは、何よりも強い。
この事業のすべてが新しいことばかりなので、手間もかかりますし、エネルギーも使います。課題をクリアするための答えも、一つというわけではありません。社会課題の解決は大きな挑戦で、終わりのないマラソンのようにも見えますが、そこにどうチャレンジしていくか、を考えることは、私の会社人生のテーマでもあります。その中で大切にしていることは、「仕事はとにかく楽しんでやる」ということ。興味をもって挑戦してこそ達成感が得られると思っています。
公共交通の運行にはたくさんの人たちが関わっていて、その一人ひとりの支えがあって運行が成り立っています。彼らの仕事に対する真摯(しんし)な姿勢を見るたびに、しっかりと成功させていかなくてはならないと感じます。そして、お客様からいただく声も大きな支えです。「待ち時間が少なくて使い勝手が良い」「子供だけでも安心して利用できます」といった言葉は、とてもうれしく励みになります。
今この事業を全国に展開しようとしています。利便性が高く持続可能な移動サービスの構築に向け、新しいものを生み出そうとする仲間と試行錯誤する日々です。公共交通は移動だけでなく高齢者や子供たちが暮らしやすい街づくりなど生活の色々なシーンに関与する重要なポジションにあります。モビリティがもっと社会に貢献する新しい世界があると信じています。
2019年より福岡市アイランドシティや壱岐南地区で、ネクスト・モビリティ㈱がサービス提供中のオンデマンドバス「のるーと」。特徴はその配車システムで、利用者がスマートフォンアプリで乗車予約、同じ方向に行く乗客を効率良くピックアップできるルートをAIが割り出す。サービス開始から1年で、のべ5万人が利用。オンデマンドによる運行の効率性や利便性に加え、運転士不足や利用者減少による路線維持の解決策となる可能性を秘めた、新たな公共交通サービスとして期待されている。今後、オペレーションの仕組みや導入・運営ノウハウも全国に展開される予定だ。