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アニメで知る北朝鮮収容所、国際映画祭にノミネート 『TRUE NORTH』

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アヌシー国際アニメ映画祭の長編部門にノミネートされた『TRUE NORTH』から

■収容所体験者らにインタビュー重ね

――作品の粗筋を教えてください。

日本から北朝鮮に戻った在日朝鮮人の家族が、他の帰国者を助けようとして反逆罪の疑いをかけられ、収監された強制収容所で生きていく物語だ。

――使っている言語は英語ですね。

北朝鮮で起きていることを広く欧米にも訴えたかった。主人公の男の子の名前はヨハン。朝鮮半島にあり、欧米にも親しみやすい名前にしたかった。

――いつごろから構想を持っていたのですか。

もともと、チベットやパレスチナなどでの人権問題を漫画で世界に発信する仕事をしていた。10年ほど前、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの方から「北朝鮮の人権問題を扱ってみないか」と声をかけてもらったのがきっかけだった。

清水ハン栄治さん=牧野愛博撮影

――製作に10年もかかったのはどうしてですか。

まず、可能な限り、事実に基づいたフィクション映画にしたかった。実際に強制収容所に収監されていた4人へのインタビューのほか、合わせて30人くらいの脱北者と交流させていただいた。作品では、衛星写真に基づいた収容所内の配置、証言に基づいた公開銃殺刑の様子、ペラグラと呼ばれる栄養失調状態に陥った際に体に現れる症状などを忠実に再現したつもりだ。

次に、3Dアニメ映画を製作するのは初めてだった。収容所内の映像はないし、世界の幅広い世代の人々に知ってもらうためにも、アニメが一番良い手法だと考えた。ただ、政治的なテーマということもあり、大手スポンサーの支援は得られないので、資金が十分ではなかった。作品が日本とインドネシアの共同作品になっているのは、インドネシアのアニメーターが高い技術を持ち、比較的安価な人件費で助けてくれたからだ。

『TRUE NORTH』から

■悲惨な現実、目を背けず見るには

――北朝鮮では今も12万人以上が強制収容所に収監され、拷問や公開銃殺刑などが続いているという証言もありますね。

現実はあまりに悲惨で、そのまま描くと、人々が目を背けてしまう。ユダヤ人虐殺問題で、人々がアンネ・フランクの笑顔の写真に救われたように、ストーリーにヒューマニズムを多く取り入れた。収容所内での友情やロマンス、自己犠牲といった話だ。

ハリウッドで監督をしている知人の女性らから、キャラクターの描き方が最高だという作品への評価をもらった。作品では主に4人の登場人物の生き方に焦点を当てた。主人公は過酷な生活のなかでヒューマニズムに目覚めていく。逆に普通の市民だった兵士は収容所に赴任してから洗脳教育を受けて人間性が破壊されていく。

『TRUE NORTH』から

――作品では、日本人拉致被害者も出てくるそうですね。

事前インタビューのなかで、収容所に日本人拉致被害者の女性がいたという話があった。北朝鮮に強要されたスパイ訓練を拒んで、収容所に入れられ、布団もない悲惨な生活をしていたそうだ。

日本ではどうしても拉致問題に関心が集中する。横田滋さんが亡くなって、拉致問題への世間の関心が低くなりそうだが、この映画を通じて再び関心が集まって欲しい。

同時に、帰国事業に応じた在日朝鮮人や日本人配偶者らは、当時の日本政府や朝日新聞などのメディアによる「北朝鮮は地上の楽園だ」という主張を信じていた。国際法上は何らかの形で「だまされて」渡航を自主選択した場合でも「human trafficking(人身売買)」にあたると聞いた。北朝鮮市民の人権も含め、すべてが同じ価値を持つことも知って欲しい。

『TRUE NORTH』から

――清水さんのご両親も在日韓国人だそうですね。

母は3世、父は1960年代に日本にやってきた。4歳か5歳のころ、祖父母から「悪いことをすると収容所に入れられちゃうぞ」と言われて、怖い思いをしたこともある。映画の話はまさに人ごとではない。

■ミドルネーム「ハン」の意味

――なぜお名前のミドルネームにハンという名前を入れているのですか。

世界中を旅するのに便利だと考え、30歳のときに日本国籍を取った。すると悪気はなかったと思うが、知人の一人から「やっと日本人になれたね」と言われた。

その違和感から、自ら名乗り出さなければ注目されることもない出自を、あえて名前に組み込むことによって、「隠していたら楽だな」と思う自分に相対してみたいと思った。

差別や不正義に対する怒りがいつも自分のどこかにあり、それが人権や平和をテーマにするこの作品を作る原動力になったのかもしれない。肌の色は違うけれど、「Black Lives Matter」の精神は、生まれた時から、自分には切実な課題だった。

――今回は新型コロナウイルス問題で、オンラインでの開催だそうですね。

配給会社などとの現地での接触がなくなり、この映画が広く公開されるかどうかはわからない。今はイタリア人作家の絵本と、シリアやイラクなどで生まれた紛争をテーマにした2本のアニメ映画をそれぞれ準備している。是非、「TRUE NORTH」を様々な方にみていただき、次の作品づくりへのチャンスを与えて欲しい。

しみず・ハン・えいじ 1970年横浜生まれ。「難しいけれど重要なことを、楽しくわかりやすく伝える」をモットーに映像、出版、教育事業を世界中で展開。TEDレジデント、University of Miami MBA、Search Inside Yourself講師、Cultivating Emotional Balance講師、Wim Hof Method講師。著書に「HAPPY QUEST」(A―works社)がある。 東南アジアのアニメーターのネットワーク「すみません」代表。映画公式サイトはこちら

(映画スチル写真は©すみません)