キャリア形成とプライベートな生活の両立はできるのか――。ひとつのチャレンジだという想(おも)いを抱え、単身でシンガポールに赴任して約2年が経ちました。
人種の万華鏡といわれるほど多くの文化・価値観が混在するこの国で、私がはっとさせられたのは、シンガポール人の女性マネジャーの一言です。
「若いうちに自分の可能性を限定してしまわなくていいんじゃない?」
この国では共働きが当たり前で、出産から2カ月程度で復職する女性も多く、仕事も家庭もどちらも人生の一部として両立させて暮らしています。私も、仕事の変化で私生活が変わることへの不安を先に考えてしまうのではなく、今の自分の延長線上に将来の仕事も私生活も作られていくのだと、自然体で考えられるようになりました。
私は、アジアを中心とする世界各国へLNGの販売・市場開発などを行うダイヤモンド・ガス・インターナショナル(DGI)というシンガポールにある会社に出向しています。私の業務は、三菱商事が関係する北米プロジェクトで産出されるLNGを電力会社やガス会社に届けることです。
新型コロナウイルスの影響でDGIは在宅勤務ですが、北米プロジェクトの操業は継続しています。電力会社やガス会社の方々も市民生活に必要不可欠なインフラを支えるべく、この緊急時にも安定供給のために業務にあたられています。お客様との日々のやり取りの中で、私も目の前の仕事に対する自負を改めて確認しました。
日本のエネルギーの自給率は10%を切っており、「資源を持たない国」とも言われています。日本の人々の暮らしの安定に、エネルギーを通じて関与できていることを誇りに思います。こう思えるようになった“出会い”に感謝し、今の状況を乗り切っていきたいです。
少子高齢化が進むシンガポールの成長のカギは、高度人材の集積と育成だ。2000年代、科学技術イノベーションの力を高めるため、世界トップクラスの科学者を招聘(しょうへい)。優遇税制もありR&D(研究開発)部門の拠点をシンガポールに置くグローバル企業も多い。
近年は「スキルズフューチャー」という職業訓練プログラムを導入し、生涯学び続けることで生産性を上げていく国民運動を展開している。25歳以上であれば誰でも、職業訓練機関で学ぶ費用として500シンガポールドル(約38000円)が支給される。キャリアのどのステージにいても自分にあった学びを続けることができる仕組みだ。