マスクを当たり前の存在に お手本はコンドームだ

(コロナ感染を防ぐ)マスクは(HIV感染を防ぐ)コンドームのように、ユビキタス(あたりまえ)で、時にファッショナブルな存在となり、公共機関が広報して使用を促すほどになるだろうか。あるウイルス研究者は、そうあるべきだと言っている。新型コロナウイルス(COVID-19)は、体調が良く無症状の人によって拡散されるという初期の兆候が正しければ、の話だが。
「その人が症状を自覚するまでに、感染がかなり広がってしまうとすれば、どう食い止めるのか?
体調が悪くなって病院に行くころには、検査や隔離をしてももう手遅れだ」とデビッド・オコナーは指摘する。彼は、米ウィスコンシン大学マディソン校でウイルス性疾患を研究している。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)や新型コロナなどのウイルスを調べている彼は、最近のいくつかの研究によって現在のパンデミック(感染症の世界的な流行)についての自分の考えが変わったと述べている。
「HIVも、体調が良いと思っている間に拡散する」。彼は電子メールでそう指摘し、「一貫した、正しいコンドームの使用が性的ウイルスの感染を防ぐ」と伝えてきた。
「マスクも、一貫して正しく着用することでウイルス感染を防ぐ手段になる」と書き添えた。
彼は「マスクの着用を常習化すること、それも早急にするべき時が来たのだ」と言う。
「授業が再開されたら、子どもたちはマスクをつけて登校する必要がある」とし、次のように指摘した。「おとなたちも、マスクをして仕事に行かなければならなくなる。バスケットボールの試合に行きたいのなら、その時はマスクを着用する。ティッシュペーパーのようにユビキタスになる必要がある。それも、できるだけ早く」
そして、マスクはおそらくファッショナブルにもなるべきで、有名人がそれを広めるべきだとオコナーは言う。有名人として、レブロン・ジェームズ(訳注=バスケットボール男子の米プロリーグ=NBA=の人気選手)の名前をあげた。
NBAも同じことを考えていたのかもしれない。なぜなら、NBAは4月17日、WNBA(バスケットボール女子の米プロリーグ)と共にチームブランドのマスク生産に参加する意向を明らかにしたからだ。
この1週間に、マスクとコンドームについてのオコナーの考えを後押しした論文が2点、発表された。その一つは国際医学誌「Nature Medicine(ネイチャーメディシン)」に載った論文で、人が呼吸やせき、くしゃみによって活発なウイルスを拡散させる場合、何らかの症状があらわれる2日から3日前に、ウイルスの放出が始まっていると推定している。
もう一つは学術誌「Science(サイエンス)」の論文で、4月17日にオンラインに掲載された。その中で、研究者たちは、カニクイザルは新型コロナによる感染の影響を受けやすく、感染するとすぐに体からウイルスを放出するとみられると報告している。
サルは、決して目立った症状が出るわけではないが、ウイルスの検出は可能で、その肺の損傷は新型ウイルスのような疾患と一致する。
サイエンス誌の論文著者の一人で、オランダのエラスムス大学医療センターのバリー・ロックスは、この研究はサルが治療法やワクチンの検査に役立つことを示したとしている。また、彼は「ウイルス放出のピークは非常に早い時期にくるようだ」とも指摘する。
ネイチャーメディシン誌の論文で判明したように、それがヒトにも当てはまるとすれば、「このウイルスがなぜ、人びとの間で急速に拡散しているかを説明できる可能性がある」とロックスはみている。
人とのソーシャルディスタンシング(社会的な距離を保つこと)が今回の問題解決の役に立つようにマスクも役立つだろうし、それは、コンドームに適用されたたぐいの革新と促進から恩恵を得られる。オコナーは、そう電子メールで伝えてきた。
彼は、こう言っている。「HIVに抗するためにコンドームの使用を増やすには性に前向きで、それを不名誉とはしないというマーケティングが必要だったのと同様に、マスクはクールで不可欠だ、と人びとに思わせる必要がある。それには、デザイナーの意匠によるおしゃれなマスクとか、もっと快適に装着できるマスクとかが必要だ」
そんな現象が起きてもおかしくない。オコナーが言及したわけではないが、究極のベストセラーになる可能性をひとる。いくつかインターネットを検索したところでは、まだ販売されていないらしい。ファウチのマスクである。
米連邦政府トップの感染症専門家の医師アンソニー・ファウチの顔を利用する商品はたくさんあるだろうが、彼の顔が付いたマスクはどうだろうか?
さあ、ネット販売各社のみなさん、国はいまこそ、あなたがたを必要としています。(抄訳)
(James Gorman)©2020 The New York Times
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