1. HOME
  2. 特集
  3. 世界同時「鎖国」
  4. 「何で食べていけば…」 グローバル化の旗手・香港、新型コロナに隠せぬ動揺

「何で食べていけば…」 グローバル化の旗手・香港、新型コロナに隠せぬ動揺

World Now 更新日: 公開日:
大規模な減便や運休によって行き場を失った旅客機=3月22日、香港国際空港

アジア屈指のハブ空港が目詰まりする光景に目を奪われた。

3月下旬、香港国際空港を望む山に登った。急な坂道を息を切らせて駆け上がること1時間。眼下に広がる駐機場に、運休や減便で行き場を失った100機超の飛行機が見本市のように並んでいた。

香港は世界有数の自由貿易港と国際金融センターを築き上げ、人、貨物、マネーの自由な往来がもたらす莫大な富を享受してきた。そんなグローバル化のシンボルがいま、「鎖国」という最大の危機に直面している。

大規模な減便や運休によって行き場を失った旅客機=3月22日、香港国際空港

「お客が消えた」。観光客に人気の旺角(モンコック)にある雑貨市場「女人街」で、女性店員がため息をついた。昨年6月からの反政府デモと、今回の新型コロナのダブルパンチに見舞われ、売り上げはデモの前から8割以上も減った。「ここも1カ月後は閉店しているかも」

少し前までは中国本土からの買い物客が路上にスーツケースを広げ、「爆買い」の雑貨を詰め込む光景が当たり前だった。ピークだった2年前は本土を含む世界各地からの訪問者は人口の9倍近い約6500万人。日本に例えれば、10億人超が押し寄せた計算になる。

しかし中国本土からの感染者の流入を防ごうと、香港政府は1月下旬以降、高速鉄道の運行を停止。出入境施設の大半も封鎖した。「劇薬」の副作用は大きく、3月の訪問客数は前年同月比99%減(速報値)と急ブレーキ。街から北京語の会話が消えた。バブルにわいた反動は大きく、客足が途絶えた小売店は一転、閉店ラッシュに追い込まれた。

日本人観光客がよく訪れた水上レストラン「珍宝王国」(ジャンボ・キングダム)も3月上旬に営業停止に。「(1997年の)アジア通貨危機以降、不況を何度も克服したけど、今回はさすがにダメだ」と男性社員が肩を落とした。

営業停止した香港の水上レストラン「珍宝王国」(ジャンボ・キングダム)=3月3日

世界に開かれた香港の原点は、英国の植民地時代にさかのぼる。中華圏と世界をつなぐ貿易拠点として発展。グローバル化の足音が聞こえてきた90年代までに日米欧に先駆けて多くの工場が中国本土に移転すると、貿易に加えて金融も中核とする産業構造に転換し、今の繁栄を築いた。

コンテナ埠頭に行くと、緑や紺のコンテナの数が普段より少なく見えた。中国広東省と香港を往復するトラックに荷物を積み込んでいた男性は「一時は全く仕事がなかった。早く感染が終わってほしい」といらだったように話した。香港は2003年、中国から広がった重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染で約300人が死亡。経済も大きな打撃を受けた。08年のリーマン・ショック後はマイナス成長に沈んだが、中国との経済融合を進めてピンチを克服した。

コンテナが山積みされた香港の埠頭=3月19日

運輸業界トップの蔣志偉は「今回が最も深刻だ」と顔をしかめる。中国本土への依存が桁違いに深まったからだ。「中国人が香港に来なくなったら、香港経済は何で食べていけばいいのか」

香港の死者は4月27日時点で4人だが、社会の動揺は小さくない。中国が経済大国になり、香港も乱高下する世界経済と運命共同体になったためだ。香港中文大副教授の荘太量は「香港が自らの『生命』を制御できなくなったことへの不安が広がっている」と指摘する。

昨年来、中国への反発が広がるなか、再び中国から感染症が広がった事実は、香港社会の対中感情に暗い影を落とす可能性もある。「中国依存が危険だと証明された」。デモに積極的に参加する男性(19)は力を込める。苦悩を深めるグローバル化の旗手は将来像をますます描けなくなっている。