■外出、人との接触、制限が続くベルリン
新型コロナウイルスによって、世界中がこれまで経験したことのない事態に陥っている。筆者が住んでいるドイツもまた例外ではない。首都ベルリンでは、3月23日以来、外出や人との接触が大きく制限されている。
公共空間での滞在が認められるのは一人か、または家族かパートナーが同伴している場合。家族かパートナー以外が同伴者の場合は1名しか同伴が認められない。また他人との距離を最低1.5メートルとることとされている。職場への通勤や託児、高齢者介護などのケア、買い物、通院のほか、屋外で新鮮な空気を吸うための運動は引き続き認められている。
これによって、生活に最低限必要とみなされた業種以外の店舗は閉鎖となった。ただし、4月22日からは800平方メートル以下の店舗は条件付きで営業再開された。飲食店はテイクアウトとデリバリーのみ許されているが、対応できないために休業している店も多い。
操業を短縮した会社の従業員たちは、自宅待機や労働時間の短縮を余儀なくされている。
当初これら制限は最短2週間の予定だったが、現在はドイツ政府の指針では5月3日までの延長が決まっている。
■ドイツのテレワーク事情
交通機関は間引き運転ながらも機能している。通勤は禁止されておらず、3月にドイツ連邦デジタル経済連盟(BVDW)が企業に勤める1000人以上の会社員を対象に調査したところ、75.4%がコロナウイルス危機にある期間は原則的に在宅勤務をする準備があると答えた。他方で「家で仕事をすることは想像がつかない」と答えた人も24.6%いた。
もともとコロナウイルス危機以前のドイツでは、在宅勤務を含めたテレワークは緩やかな増加傾向にあった。ドイツ労働市場・職業研究所(IAB)が2019年11月に発表したリポートによると、従業員50人以上の企業における在宅勤務の割合は2013年では19%だったが、2017年には22%に上昇したという。また、在宅勤務をする人のうち、63%は終日ではなく時間単位で行っていた。育児など家族の事情に合わせて部分的に在宅勤務を取り入れることは、決して珍しい事例ではない。
コロナウイルス感染防止のため、それまでのオフィス勤務から在宅勤務に切り替わった社員たちは、どのように働いているのだろうか。
ベルリンのメーカーでマネジャーとして勤務する男性は、会社の要請で在宅勤務に切り替わった。仕事用のパソコンを自宅に持ち帰り、個人所有のパソコンと併用している。仕事用ツールは電話、メール、ウェブ会議などで、これまでのオフィス勤務時と変化はない。
現状の仕事量は通常時の7割程度だという。しかし会社からは「いつもと同じように仕事ができなくても仕方がない。特殊な状況なので、いちばん大切なことを優先するように」というメッセージが届いている。3月中旬から学校も休校になったため(4月6日から17日まではベルリンはイースター休暇だった)、家庭で子どもの面倒を見ながら仕事をする人もいる。在宅勤務で思うように仕事が進まない状況下で、会社からのメッセージに安心する社員も多いのではないだろうか。
オフィスでほかの社員と顔を合わさない分、お互いのコミュニケーションが不足しがちだ。これをフォローするため、会社のCEOから2日ごとに社員全員にメールが届く。メールには現状が詳しく説明されており、モチベーションが高まる内容だという。
別の会社の女性マネジャーは、在宅勤務による部下とのコミュニケーション不足を感じていたと話す。やはりメッセージを送ることで不足を補っていた。
非常時の現在、誰もが不安を抱えているだろう。トップや上司からの明確なメッセージは、社員の安心やモチベーションにつながっているようだ。
■コミュニケーションにも一工夫
ベルリンのあるスタートアップ企業のファウンダー(創業者)は、全員が在宅勤務に切り替わるに伴い、年間達成目標を変更した。人と会う業務は延期にし、その代わり自宅でできる作業を優先させている。電話、チャットツールで社員同士とチーム内の連絡を行い、ミーティングや会議はウェブ会議で。資料はオンラインストレージに保存し、メンバー同士で共有する。
それまでオフィスで週1回行っていたミーティングは2回に変更、その分1回あたりの時間を短縮した。短時間で済ますからメリハリがつくし、回数を増やすことで社員同士のコミュニケーションも取りやすい。オンライン会議では限られた時間内に決断するために、話し合う項目を減らした上で事前に項目をチャットツールでシェアしている。メンバー全員が項目についてきちんと準備をし、実りある会議ができると達成感が得られるという。
在宅勤務では、家事や育児などでオフィス勤務のようにまとまった時間が取れないこともある。タスクを細かくし、短時間で集中して行うことがポイントかもしれない。
■在宅勤務時代のオンオフの切り替え
終日家で仕事をしていると、オンオフのメリハリがつけにくいと考える人もいるだろう。
先のスタートアップでは、毎朝定時にメンバーから5分間だけ体調などの報告を受けている。これによって毎日一定のリズムが保てると好評だそうだ。毎日時間を決めて互いに連絡を取り合うことは、オンラインで十分可能だ。
小さい子どもがいて本来の仕事量がこなせないメンバーがいる一方で、逆に在宅だからこそ仕事を詰め込んでしまう人も出はじめた。そうしたことを防ぐため、ファウンダーがメンバーに対して電話やオンラインで短い連絡を入れるようにしている。
冒頭のメーカー勤務の男性は、仕事場がオフィスから自宅へ変わったことで、私生活に大きな変化が訪れた。これまでは出張や残業は当たり前だったが、それが一切なくなって規則正しい生活を送るようになったという。仕事の合間には庭仕事などで気分転換を図り、夕方には仕事を終えて家族とともに夕食を取るようになった。新型コロナの危機は、健康的な生活スタイルをつくるきっかけにもなりうる。
コロナウイルス危機は、これまでの私たちの働き方とライフスタイルを大きく変えた。いつか収束する日が来ても、新しい生き方や働き方の一部は、このまま続いていくかもしれない。
久保田由希(文・写真)
ベルリン在住フリーランスライター。東京都出身。日本女子大学卒業。出版社勤務の後、フリーライターとなる。ただ単に住んでみたいという気持ちから、2002年にベルリンへ渡りそのまま在住。著書や雑誌への寄稿を通して、ベルリン・ドイツのライフスタイルを中心とした情報を発信している。散歩をしながらスナップ写真を撮ることと、ビールが大好き。著書に『歩いてまわる小さなベルリン』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか多数。近著は『ドイツ人が教えてくれたストレスを溜めない生き方』(産業編集センター)。Kubota Magazin