Joseph Tanfani and Josh Horwitz
1カ月ほど前、コルフェージ氏はアメリカ・ファースト・メディカルという名の企業を設立し、高性能マスク「N95」の大量販売を仲介するとウェブサイトやソーシャルメディア上で宣伝している。提示価格は1枚あたり約4ドル。パンデミック前の数倍だが、一部の病院、介護施設、救急隊員が最近払っている価格に比べれば、それでも数ドル安い。
まだ買い手は見つかっていないが、コルフェージ氏によれば、日本や東欧諸国の倉庫で眠っていた在庫など、世界中でマスクを発見しているという。契約がまとまれば、発注規模に応じて1─3%の手数料を徴収するつもりだと同氏は言う。
コルフェージ氏は、自分がやっているのは公共サービスだと称している。「人が嫌がることをわざわざ試み、こういう病院などができない仕事をすべてこなしている」とロイターに語った。「我々がやっているのは橋渡しだ。病院が金を払う気になるか、それは彼ら次第だ」
■病院や介護施設に売り込み
コルフェージ氏がめざしているのは、「マスクブローカー」という新たな職種だ。新型コロナウイルスが世界中に広がるなかで、急造の混乱した市場が突然生まれた。ブローカーたちは数千万枚、場合によっては数億枚のマスクを入手できると主張している。通常ルート以外の供給網に頼る場合が多く、価格も1枚1ドル前後というかつての小売価格に比べ大幅に高い。
大量の取引が成立すれば、手数料が低率だったとしても、ブローカーにとっては大きな稼ぎになりうる。供給不足になかなか対応しないメーカーや商社に対して、必要に応じてマスクを売るよう促せるとすれば、こうしたブローカーたちは危機的なマスク不足の緩和に貢献するかもしれない。
だが、医療関連製品の供給企業や医療産業の関係者によれば、こうした狂乱ブームは同時に、標準的な品質管理を損ない、製造元や効果の怪しい大量のマスクが出回る市場を生み出しているという。供給がかつてなく減少するなかで、そうしたマスクを供給するという申し出が病院や介護施設に殺到している。詐欺に引っかからないことを祈りつつ、有望な調達先を模索するしか選択肢がない、という声もある。
売れ筋のマスクはN95だ。サージカルマスクより作りがしっかりとしており、コロナウイルスなどはるかに小さい粒子まで遮断することができる。
医療専門家によれば、品質が良くフィット性の低いマスクは空気中を漂う病原体を通過させてしまう可能性が高く、医療従事者が新型コロナウィルスに曝されてしまうという。新型コロナウィルスの感染者はすでに世界全体で80万人近くに達し、3万9000人近くが死亡している。
ロイターは新興のマスクブローカー5社にインタビューを行った。3社は米国、2社は世界最大のマスク生産国としてグローバル生産量の約半分を占める中国である。
こうしたブローカーたちは、動きの激しい市場において、ライバルが参入してくる前に、売り手と買い手をすばやく結びつけ、手持ちの在庫を売りさばくことをめざしているという。
■在庫確保には苦労
テキサス州ヒューストンのポンプ部品企業のオーナー、ジェイク・メイ氏は、「業界大手3M製のマスク2種類、計800万枚の在庫あり、1枚4.10─4.20ドルで販売」という内容を、ビジネス交流サイトのリンクトインに投稿した。
「お得な価格、迅速に納品」と約束しているが、あるインタビューでは、在庫の確保に苦労していると語っている。
ブローカーは皆、仕入れ先や顧客について明らかにしておらず、彼らが本当に膨大な隠れ在庫にアクセスできるのか、ロイターでは裏付けを得ることができなかった。どのブローカーも、基準価格を決めているのはメーカーであり、最近の価格上昇のほとんどはメーカーの責任によるものだとしている。
コルフェージ氏は、彼が見つけたマスクは品質が高く(中国からの調達ではないという)、米食品医薬品局(FDA)の認証を得たものだという。また、同氏は便乗値上げをしておらず、むしろ他のブローカーに比べて手数料もかなり低いと述べている。
確かにロイターはコルフェージ氏よりも高価格のマスクを確認している。ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は、マスク1枚あたりの価格が85セントから7ドルに上昇したと指摘している。
3月23日、トランプ米大統領は医療用品の買いだめと便乗値上げを禁じる大統領令に署名し、バー司法長官は、そうした動きを調査するための全国規模のタスクフォースを立ち上げたことを明らかにしている。
■「ステルス」企業、偽造品販売、投機筋
大手メーカーの3M(ミネソタ州セントポール)や、医療機関向けサプライヤー大手のプレミア(ノースカロライナ州シャーロット)によると、一部のマスクブローカーは偽造品や品質基準を満たさない類似品を販売しているようだという。
プレミア幹部のショーン・パウエル氏によれば、同社は顧客に対し、即席ブローカーに関する警告を発したという。それでも一部の納入先は、幸運を祈ってこうしたブローカーに発注しているという。
「我々のサ流通経路がいかに絶望的な状況になっているかを実証している」と、パウエル氏は言う。「病院では、品質に問題のあるマスクがあるのと、まったくマスクがないのと、どちらがマシかを見極めようとしている」
ある大手流通企業によれば、価格高騰による一儲けを狙うメーカーその他の企業によって、3M製品も正規ルートを外れて流通しつつあるという。ニューヨーク市ブルックリンを拠点に、医療関連製品を供給するディールメド社のマイケル・アインホーン社長は、「どのようにして商品が正規のルートから消えているのか、それが問題だ」と話す。「流通に何か根本的な間違いがある」
アインホーン氏は、正規の販売代理店でさえ確保できない製品を「膨大な数の素人が」手に入れているようだと言う。「彼らはそれを別の人間に転売し、またそれが転売される。病院に届くまでの間に10人もの人間が介在し、利益を貪っている」
■怪しいオファーを避けるには
既存の流通ルートは品不足が深刻だ。2週間前、介護施設の業界団体の幹部らは、数千の加盟施設でマスクが底を突きつつあると述べていた。
プレミアが25日に発表したアンケート調査の結果によれば、回答した病院の25%は、マスクの在庫が1日分以下しか残っていないとしている。
市場の混乱により、ニュージャージー州ティーネックのホーリーネームメディカルセンターなど移動制限措置のもとにある病院が直面する課題はいっそう深刻化している。同病院では3月29日時点で23人の新型コロナ患者が死亡し、139人がウイルスに感染している。
病院の責任者アダム・ジャレット氏によると、職員は医療用品を確保しておくため、通常の流通経路以外に頼らざるをえなくなっている、という。最近入荷した1000枚のマスクは品質基準を満たしておらず、FDA認証も得ていないことが判明した。販売側は良品への交換に合意した、と同氏は言う。
ジャレット氏によれば、同病院の職員は、怪しげな売り込みを避けつつ、4日分の備蓄を維持できるだけの調達先を見つけることができたという。
100万枚提供するという売り込みもあったが、1枚9ドルで全部買い取ることが条件だった。危機前の9倍の価格での大量購入の要求だ。「悪事を働いている恥知らずな人間も確かにいるが、我々はそういう連中をうまく避ける程度の見識は持っている」
平時ならメーカーはFDAの認証を受けるために、検査結果や設計図を含め、長大な申請書を提出しなければならない。
だが、品不足の状況を考慮したFDAは先日、たとえ米国の基準を満たしているという認証を受けていないとしても、外国から輸入した医療用マスクを販売することに反対する意向はないと発表した。
■「まるで値上がりを待つ株式市場」
商社の幹部によれば、上海には何千万枚ものマスクの在庫を抱えている業者があるという。N95規格を満たし、FDA認証を得ている製品は、誰もが探し求めている「ユニコーン」だという。
台湾のJHコンサルティンググループのジャスティン・フアンCOO(最高執行責任者)は、「基本的には、こういう取引業者は価格上昇を当て込んで買いだめしているだけだ。株式市場と変わらない」と話す。「1枚2ドルで仕入れた在庫があれば、今なら4ドルで売れる。明日になれば5ドルで売れるかもしれない」
中国杭州市のビジネスマン、ポール・バン氏は、最近になって友人とともにマスク販売ビジネスを始めた。
「この仕事をやるための資格を持たない人は多い。私も資格などない」と、バン氏は言う。だが、彼は金を稼ぐ必要があり、自分なら工場と買い手を直接つなぐことができると信じている。「毎日どれだけ作っても完売する」と、バン氏は言う。「だから工場側では、いま誰が買っているのかは気にしていない」
「ふだんの状況なら、工場を視察して書類もチェックする。だが今は写真を見るだけだ」
(翻訳:エァクレーレン)