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五輪招致、三つの思惑が絡み合うパワーゲーム ロビー活動の現場は

World Now 更新日: 公開日:
2013年、IOC臨時総会で東京招致を訴えた招致団=西畑志朗撮影

2013年7月上旬、IOC臨時総会が開かれたスイス・ローザンヌに、世界のスポーツセレブたちが集った。IOC委員たちが泊まる五つ星ホテルで繰り広げられるロビー活動は、夜のとばりがおりてからが本番だ。(平井隆介、文中敬称略)

2020年の五輪をどこで開催するか。東京招致委員会の専務理事、水野正人(70)は笑顔で入って来た。「しばらくだね」「元気だった?」。そんなあいさつを英語で交わし、握手とハグを繰り返す。あとから赤いネクタイ姿で統一したマドリード招致団の集団が続いた。

どの競技を五輪に入れるか。5カ国語に堪能な国際レスリング連盟会長のセルビア人、ネナド・ラロビッチ(54)は数人を捕まえてバーに腰を下ろした。

ボスは誰にするか。ロビー中央では、会長選に出馬している陸上男子棒高跳びの世界記録保持者、ウクライナのセルゲイ・ブブカ(49)が、胸の前で両手を合わせて懇願のポーズをとっているように見えた。

ウクライナのセルゲイ・ブブカ=西畑志朗撮影

いま、IOCを舞台に、三つの選挙活動が同時に進んでいる。まず、東京、マドリード、イスタンブールの3都市が争う2020年の開催地選び。次に、レスリング、野球・ソフトボール、スカッシュの3競技の中から、一つだけ20年大会で実施する競技を選ぶ。最後が会長選。候補はIOC委員の男性6人だ。三つの選挙とも9月上旬にアルゼンチン・ブエノスアイレスであるIOC総会で行われる。

「誰と、どのスポーツと、そしてどの都市と組めば有利なのか」。委員らは今、三つの選挙が生み出す複雑な方程式を、必死に解こうとしている。

■票読みの方程式

メディアに囲まれるドイツのIOC委員トーマス・バッハ。会長選で本命視されている=西畑志朗撮影

例えば、日本人でただ1人のIOC委員、竹田恒和(65)から見るとこんなふうな構図だ。

会長選で本命視されるドイツのトーマス・バッハ(59)が当選したら、2024年の夏季五輪を欧州に持って来たがるだろう。その場合、20年は欧州から遠い都市を選びたいに違いない。だから、東京は招致を実現するために、バッハと手を結べるのではないか?

逆にアジアの候補者は、東京を応援しないのではないか。なぜなら欧州勢が主体のIOCが、開催地も新会長もアジアを選択するとは考えにくいからだ。レスリングと関係が深い委員は、この競技が盛んなイスタンブールか東京と組みたがるだろう──。

様々な見立てや臆測から、水面下で票の駆け引きが進む。

歴代会長8人のうち、欧州出身は7人。アジア出身はいない。シンガポール出身で第1副会長のセルミャン・ウン(64)は、温厚で敵をつくらない人柄から、バッハを追う一番手と目される。母国で最大手のスーパーマーケットチェーンを展開するウンは、「また欧州から選ばれたら、おかしい。君もそう思わないか?」と言い、アジア人で初めて頂点に立つ野心を隠さない。

呉経国=西畑志朗撮影

もう1人のアジア系候補、台湾の建築家で国際ボクシング協会長の呉経国(66)はこの春、中国・天津にIOC前会長の故フアン・アントニオ・サマランチをたたえる博物館を建て、落成式に多くの委員を招いた。21年間の長期政権を敷いた前会長に恩義を感じる委員は今も多く、1988年に委員になった呉もその一人。「最大の功労者を長年支えた私が、会長職の名誉を授かるのに一番ふさわしい」。何のためらいもなく、前会長の威光を借りることを宣言した。

7月4日、会長候補6人の立候補演説を聴いた竹田はこうつぶやいた。

「本当は6票持っていれば一番良かったんだけどね」