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「リーマン」よりやっかい、コロナ株安に政策のジレンマ

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3月17日、各国挙げての政策総動員にもかかわらず、世界的な株安が止まらない。写真は北京で2016年1月撮影(2020年 ロイター/Jason Lee)

伊賀大記

[東京 17日 ロイター] - 各国挙げての政策総動員にもかかわらず、世界的な株安が止まらない。コロナショックは銀行が痛む金融システム危機ではないものの、それゆえに金融緩和策が効きにくいというジレンマに陥っていることが大きな要因だ。財政政策も、新型コロナウイルスにおびえる消費を回復させることは難しい。市場では、「リーマン・ショック」よりもたちが悪いとの声も出ている。

<「コロナ」に直接届かぬ金融緩和>

世界金融危機を引き起こした2008年のリーマン・ショック(サブプライム問題)。その大きな原因は、銀行のレバレッジを効かせた投資拡大にあった。しかし、その反省から銀行に対する規制が厳しくなり、レバレッジ投資は縮小している。

米連邦準備理事会(FRB)は昨年11月に公表した金融安定報告書で、大手行のレバレッジは低水準であると指摘。大手行の資本基盤は強固であるとして「金融セクターの中核には耐性があるようだ」と評価した。

足元の「コロナショック」は銀行危機ではない。しかし、それゆえに大胆な金融緩和策が効かないジレンマが生じている。「リーマンよりもやっかいだ」とBNPパリバ香港・アジア地域機関投資家営業統括責任者の岡澤恭弥氏は指摘する。

中央銀行は銀行の銀行だ。銀行に問題があれば金融政策は直接効果がある。しかし、今回は、新型ウイルスへの警戒感から消費が急減していることが問題の根源だ。各国中銀は銀行を通じた資金支援策を打ち出しているが、市場では「不良債権化が警戒される中で、銀行がどこまで企業を支援できるかは不透明」(外資系証券)との懸念もくすぶる。

さらに低金利は、銀行の体力を奪う。中央銀行から支給されたマネーを中小企業まで届けるのが銀行の役割だが、金利低下で利ザヤが縮小すれば「仲介機能」は働きにくくなる。かといって金利を上昇させれば、これから期待される財政出動が難しくなる。財源である国債発行の利払いが増えてしまうからだ。

<逆回転するファンドマネー>

リーマン後、米ダウ<.dji>は4.5倍に上昇するなど、世界的に株高が進んだ。そのマネーを供給した中心の主体は銀行ではなく、資産運用会社などのファンドだ。

ETF(上場投資信託)などに、個人や年金の資金が流れ込み市場が急拡大。ETF・ETP(上場取引型金融商品)の市場規模は19年末で約6兆ドル(約640兆円)と、金融危機後に約6倍近くとなっている。

こうしたファンドマネーに逆回転がかかっているのが今のマーケットだ。インデックス連動であれば、下落すれば売るだけで、割安な資産に乗り換えることは基本的にしない。ファンドは解約リスクがあるため、専門業者でなければ裁定取引は行いにくい。

野村証券のシニア金利ストラテジスト、中島武信氏は「金融資産の割安・割高が正常なプライスに戻るには1─2カ月かかることもある。解約による資金流出リスクにさらされるヘッジファンドは手が出せない。株安局面であっても、政策を好感し、機動的に買いに動ける銀行や証券は、規制でリスクがとれなくなってしまった」と指摘。相場が一方向に傾きやすい背景だと話す。

中銀の緊急対応が、投資家の不安を増幅させてしまった面もある。サプライズがかえって、足元でリーマン・ショックに匹敵する危機が起きているのではないかという警戒感を強めてしまったという。

「中銀自らが、実際にはまだ起きていない流動性危機や金融システム危機を指摘することで、市場の不安心理をあおってしまったと結果論的には言える」とSMBC日興証券のチーフ金利ストラテジスト、森田長太郎氏は指摘する。

<金融緩和で「時間」稼げず>

流動性危機や金融システム危機が起きてからでは遅い。市場では各中銀などの緊急対応策について「危機が起きる前に手を打った」(ニッセイ基礎研究所のチーフ株式ストラテジスト、井出真吾氏)と評価する声も聞かれる。

ただ、結果として株安が進んでしまったことで、金融緩和策の大きな効果である「時間を買う」効果が発揮できなくなってしまった。むしろ、暴落ともいえる株安が進んだことで、きちんとした財政政策を策定する時間的余裕がない状況だ。拙速な議論は「ばら撒き」を生みやすい。

金融緩和はあくまで、将来の需要を手前に持ってくる前倒しの政策。その前倒しの需要で一息ついている間に、財政出動や成長戦略を策定するのが、政策のタイムパスだ。

市場では財政への期待が大きい。今は悲観一色だが、コロナがいずれ終息するという前提に立てば、低金利と財政出動の組み合わせは消費拡大だけでなく、バブル的な株高の素地にもなる。「景気が多少良くなっても、そう簡単に引き締め政策には移れない」(国内銀行)と市場はみるだろう。

ただし、バブルであればその後、必ず崩壊する。緊急措置としての拡張的な金融・財政政策をいつまでも続けることはできない。リーマン・ショック時の下落率52.1%を今年の高値に当てはめれば、日経平均の底値は1万1551円となる。

(編集:田中志保)

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