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新型コロナ、備えが足りなかった世界 しかし今からでもできることがある

World Now 更新日: 公開日:
世界経済フォーラム(WEF)のボルゲ・ブレンデ総裁=WEF提供

世界経済フォーラム(WEF)ボルゲ・ブレンデ総裁寄稿 新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、世界経済フォーラム(WEF)の総裁ボルゲ・ブレンデ氏とグローバルヘルスセキュリティー担当ライアン・モーハード氏が、世界的なウイルスの脅威にどう立ち向かえばよいかについての論文を共同執筆し、GLOBE+に寄稿しました。両氏は、世界は爆発的な感染拡大に対する備えが不十分だったと述べていますが、一方で、適切な対応をするのは今からでも遅くはないと指摘しています。今、私たちがすべきことは何なのでしょうか。論文の全文を紹介します。


世界経済フォーラム総裁ボルゲ・ブレンデ
同グローバルヘルスセキュリティー担当ライアン・モーハード

昨年の秋、政府や企業、国際機関から16人のリーダーたちがニューヨークに集まり、全世界で公衆衛生上の緊急事態が起きた場合にどう対応するかというシミュレーションをおこなった。世界で年間約200の伝染病が発生していることを踏まえると、そんなシナリオが現実となる可能性はますます高まっており、私たちは何が課題になるのかについて考察したのだ。わずか数カ月後にそれが現実になろうとは私たちは知る由もなかったが、その時に出した結論は厳しいものだった。もし緊急事態が起きれば、国際社会はあまりにも準備が整っていないという内容だ。

その数カ月後、新型コロナウイルスの最初の感染が中国で報告された。1月の終わりまでには500人以上の感染が確認され、発生場所の武漢は封鎖状態に置かれた。今や新型コロナウイルスは世界的な広がりを見せ、感染者は10万人以上、死者は4千人以上にのぼっている。経済協力開発機構(OECD)は甚大な経済的損害が生じると予測。世界経済の成長が1.5%鈍化し、世界がテクニカル・リセッションに陥るとしている。

私たちはこの爆発的な感染拡大を予測できてはいなかった。しかし、同じようなことは必ず起こると見られていたのであり、仮にニューヨークでのシミュレーションで「世界は公衆衛生上の緊急事態に対する備えができているか」と問われていたら、私たちは「ノー」と答えていただろう。このシミュレーションや過去の研究によれば、こうした脅威を前に官民が連携できるためには、もっと多くの準備をしておく必要があった。一方で、明るい見通しもある。それは、私たちが昨秋に学んだ教訓を生かすのは、まだ遅くはないということだ。世界を動かし、より良い対応をするために、私たちにできることは何だろうか。

まず、新型コロナウイルスによってすぐに表れる健康への影響のさらに先に視野を広げ、体系的な対応をとらなくてはならない。私たちの調査や分析では、世界的な公衆衛生上の脅威が甚大な国際的リスクをもたらすこと、そして感染拡大の代償は大きくなる一方であることがわかっている。命を守ることよりも大切なことはないが、爆発的な感染拡大による経済的および社会的余波についても考える必要がある。

新型コロナウイルスの問題は、爆発的な感染拡大がサプライチェーンや産業、企業、交通ネットワーク、労働力、そして他の多くの分野に影響を与えうることを改めて浮き彫りにした。ウイルスがもたらした経済的な低迷は世界規模で感じられ、まさに今も全世界的で社会経済的な影響が発生している。私たちは衛生上の脅威に対応するためのシステムを優先してきたが、人々の暮らしへの影響にどう対応するかについては十分に考えてこなかった。今、それを変えるべき時が来ている。

米疾病対策センター(CDC)が立ち上げた、新型コロナウイルスの緊急オペレーションセンター(CDCアーカイブから)

時を経るとともに、消防署がどのように発展してきたかを考えてみよう。200年前、英国の消防署は火事そのものに対応するだけだったが、長く経ってから「火を消すだけでは不十分だ。影響を受けた人たちやそのコミュニティーへのサポートを考慮した方法で対応しなければならない」という声が上がった。それと同じように、私たちは、経済的および社会的混乱に対応できる体系的な方法で、世界的な公衆衛生上の脅威に対処する必要がある。

二つ目として、私たちは恐怖ではなく、事実に基づいて行動しなくてはならない。シミュレーションでも、事実を重視し、根拠に基づいた決定をできるようにすることの重要性が示された。「インフォデミック」がウイルスそのものよりも早く広まってしまうことは国際社会で認識されている。しかし、私たちはこれまで、企業のリーダーや厚生大臣、政治家、そして一般の人々が事実にアクセスし、それに基づいて行動するための環境づくりを十分にはしてこなかった。

まさに今も、恐怖が勝利し、世界保健機関(WHO)や各当局の公式情報よりも「誤ったニュース」の方が早く広がっている。多くの人々が、マスク買い占めや国境封鎖、アジア人への非難といったリスク回避型でしばしば根拠のない意思決定をしている。その先にあるのは底辺への競争だ。そうではなく、私たちは人々が信頼できる情報にアクセスできるようにし、それぞれの組織や自分自身にとっての決定を自信を持ってできるようにする必要がある。

WHOは、日々の記者会見や、市民や企業、政府向けの情報を載せて誰でもアクセスできるようにしたウェブサイトで方向を打ち出している。ティックトック(TikTok)チャンネルまで開設した。スウェーデンのダーゲンス・ニュヘテル、欧州のザ・ローカル、米国のザ・シアトル・タイムズのようなメディアも、すべての人を対象にオンライン上のうわさではなく確かな研究を基にした情報を伝えている。これは称賛に値する対応で、世界各地に広がってほしいものだ。

世界経済フォーラム(WEF)でグローバルヘルスセキュリティー担当を務めるライアン・モーハード氏=WEF提供

三つ目として、民間の意思決定者たちを巻き込んでいく必要がある。政府は多くの場合、一般の人々との直接的なコミュニケーションに重きを置くが、民間企業とそのリーダーたちもパズルの重要なピースである。まず、様々な経済圏で働く人の半数以上を雇用する彼らには、情報をシェアする力がある。さらに、彼らが保健機関や公共機関からの正しい情報を遅れることなく把握していれば、経済的な影響も抑えることができる。

企業はこのような状況にただ耐えるのではなく、状況を正すために何かしたいと考える。しかし、これまで企業の多くは、重要な役割を果たせるにもかかわらず危機対応においては蚊帳の外に置かれていた。例えば、全世界の医療従事者たちに十分な供給品がいきわたるようにするには、整理されたアプローチが必要だ。移動や作業場での方針を導く際にも同じことが言える。信頼と情報共有、意思決定者の協力がなければ、これらの課題を克服することはできない。

韓国・大邱で通りを消毒する兵士ら=2020年3月6日、ロイター

世界経済フォーラムはこの役割を担っている。新型コロナウイルスへの対応では、最高責任者やWHO、その他のトップエキスパートたちによる協力が求められている。目標は、信頼できる情報や分析結果に企業がいつでもアクセスして意思決定できるようにすること、そして、世界的な対応を支援するために民間の資源と能力が活用されるようにすることだ。

最後に、私たちはみんなで力を合わせていかなければならない。昨今は国際機関や強力な公共の対応システムの意義が問われているが、このウイルスはその答えを明らかにしている。世界的な衛生上の緊急事態においては、企業であれ経済であれ医療制度であれ、どこかに弱点があれば全体が危険にさらされることになる。新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちがこの新しい環境下でリスクや混乱を軽減させるために力を合わせられるかどうかが真に試されている。

私たちの多くは、爆発的感染拡大はどこか別の場所で起こり、そして誰かがそれをそこに留めておいてくれると考えがちだ。だが、今回のケースは違う。新型コロナウイルスは全世界の問題であり、世界的な衛生上の危機としてはこの数十年で最も深刻なものだ。私たち一人ひとりが力を合わせて全世界を守らなければ、自分自身を守ることもできない。私たちが情報を把握し、十分な備えをして国境を越えたコミュニティーとして力を合わせてこそ、変化を起こすチャンスが生まれる。

一人ひとりがばらばらに行動を起こしても間に合わない。しかし私たちが力を合わせれば、健康や社会的、経済的活動にこの危機がもたらす影響を和らげることができ、将来的なリスクへの耐性をさらに高めることができるだろう。

※世界経済フォーラムは、国際組織および経済大国と連携した取り組みの一部として、衛生上の危機に関するワークショップを2019年秋にニューヨークで共催し、架空の新しいコロナウイルスに関するシミュレーションをおこないました。