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ファーウェイ5Gめぐる米中の冷戦に巻き込まれた、大西洋の小さな島

ニューヨークタイムズ 世界の話題
Salmon in a holding net in the Faeroe Islands, on Dec. 17, 2019. The islands have become perhaps the most unexpected place for the United States and China to tussle over the Chinese tech giant Huawei. (Ben Quinton/The New York Times)
フェロー諸島の広大ないけすで飼われているサケの大群=2019年12月17日、Ben Quinton/©2020 The New York Times

フェロー諸島(訳注=デンマーク領)は、存在自体が驚異だ。北大西洋上に、雪の張り付いた火山岩の山頂がそびえ立ち、絶壁が狭いフィヨルドの深い入り江に落ち込んでいる。

アイスランドとノルウェーの間に位置する18の島々から成る同諸島は、海鳥ツノメドリの生息地、そして伝統的なクジラの追い込み漁で知られている。デンマークの自治領で、サケの産地としても活況を呈している。

しかし、フェロー諸島に暮らす5万人の住民が、テクノロジーを話題にすることはまずない。それなのに2019年末、米国と中国の「テクノロジー冷戦」という、同諸島には縁のなさそうな争いに巻き込まれた。

事は、ある契約をめぐって起きた。フェロー諸島も「5G」と呼ばれる次世代通信規格による超高速の無線ネットワークを整備することにしたのだ。整備は、通信技術企業1社に任せることにした。

その際、米国はある特定の企業を名指しして、同諸島に契約から排除するよう要請した。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)である。米国は、華為は中国政府の影響下にあり、治安上の問題を引き起こすと言い続けてきた。

すると、中国の政府当局者もからんできた。最近のことだが、この問題に関する同諸島の自治政府高官の発言が音声録音されていたことが明らかになった。高官の発言は、華為に5Gの整備を任せれば、フェロー諸島と中国の貿易を強化すると中国側が申し出た、と自治政府と中国側の会談内容を明かしたのだった。

「商業的にみれば、フェロー諸島は華為にとっても、他の企業にとっても大して重要ではない」。同年12月、デンマーク議会フェロー諸島代表のSjurdur Skaaleは、諸島の中心都市トースハウンで朝食をとりながら語った。「米中の大使館が5Gの整備をめぐって激しく争っているという事実は、他に狙いがある。純粋なビジネス以外の何かがある」とも打ち明けた。

いまやテクノロジーの未来を競い合う米国と中国にとって、ちっぽけな場所などというものは存在しない。北極に近いフェロー諸島は、軍事的にも重要だ。中国の技術分野で最高峰に立つ華為。その最高峰をめぐってにらみ合う米中両大国。同諸島は、そのはざまに立たされたヨーロッパの一員である。

Workers at a fish processing plant and farm near the Faeroese island of Streymoy, on Dec. 17, 2019. The islands have become perhaps the most unexpected place for the United States and China to tussle over the Chinese tech giant Huawei. (Ben Quinton/The New York Times)
フェロー諸島・ストレイモイ島近くの水産加工場で働く人びと=2019年12月17日、Ben Quinton/©2020 The New York Times

米政府当局は過去1年以上にわたって英国、ドイツ、ポーランド、その他の国々に、5Gのネットワーク整備から華為を排除するよう圧力をかけてきた。米当局者たちは、華為は中国共産党による盗聴や重大なネットワーク妨害に利用されてしまう、と主張してきた。華為は、中国政府に協力していないと、米国の主張を否定してきた。

しかし、いずれにせよヨーロッパ諸国が米政府の味方につけば、中国との経済協力上のリスクがともなう。中国ではドイツの自動車、フランスの航空機、それに英国の医薬品への需要が高まっている。

フェロー諸島の自治政府首相バールドゥル・ニールセンは、米中の衝突回避に努めてきた。彼は声明の中で、自治政府は「5Gネットワーク整備に関してはいかなる外国当局からも、圧力や脅迫を受けていない」と表明した。

そのうえで、華為に整備を任せるかどうか、いかなる決定も地元通信会社Foroya Teleが決めるだろう、と述べた。

Foroya Teleも声明を出し、さまざまな技術をテストしていると明かした。5Gネットワークのプロバイダーの選択は「フェロー諸島にとって、投資の規模や重要性からして、熟慮が欠かせない」と述べた。

フェロー諸島の住民にとって、華為や5Gに関する論争はダウンロードの高速化の問題よりもサケの問題の方が根深い。

サケはフェロー諸島の経済の中心だ。同諸島の輸出品の90%以上はサケ、ニシン、タラを含む水産物。周辺の海では何千匹ものサケが大きな養殖いけすの中で跳びはねている。ここで育てられたサケはパリやモスクワ、ニューヨーク、そして目下、次第に増えている北京へと運ばれ、食卓に上る。

10年以降、中国へのサケの輸出量は増加した。10年、ノルウェーのノーベル賞委員会は中国の人権活動家の劉暁波(リウシアオポー)に平和賞を授与した。これに反発した中国がノルウェー産のサケの輸入を減らしたのだった。

今ではフェロー諸島産サケの約7%が中国に輸出されている。19年には自治政府が貿易拡大を狙って北京に駐在事務所を開設した。

14年、欧州連合(EU)がロシアへの水産物輸出を制限した後、フェロー諸島のサケの対ロ輸出は爆発的に増えた。フェロー諸島はEUの領域には含まれていないため、EUの規制は適用されないのだ。

フェロー諸島のサケの輸出額は19年、全体で過去最高の5億5千万ドルにのぼったとみられる。10年前の約1億9千万ドルから大幅な伸びだ。

「ここは大西洋サケの本場なのだ」。1カ所に1万5千匹のサケを養殖している大きないけすを見下ろしながら、地元水産業界のコンサルタントRuni Damは言った。「我々は完璧な(サケ産業の)環境下にある」

Runi Dam, a consultant for local fishing companies, on the Faeroe Islands, on Dec. 17, 2019. The islands have become perhaps the most unexpected place for the United States and China to tussle over the Chinese tech giant Huawei. (Ben Quinton/The New York Times)
フェロー諸島の水産業界コンサルタントのRuni Dam=2019年12月17日、Ben Quinton/©2020 The New York Times

今日、そのサケ産業が5Gネットワークをめぐる争いに巻き込まれてきた。

19年11月、米国の駐デンマーク大使カーラ・サンズは、華為を排除するよう警告した。フェロー諸島の地元紙のオピニオン面にこう記した。もし華為に5Gネットワークの整備を許したら「重大な結果をもたらすだろう」。華為が採用されるようなことになれば、「彼らは中国共産党のルールの下で整備することになる」と。

同年12月のデンマークのメディアとのインタビューでも、サンズは華為のスカンディナビア地域担当を「中国共産党のために働いている」と批判。共産党政権は「スパイ活動と汚職と賄賂を世界中に輸出している」と非難した。

サンズにインタビューを申し入れたが、断られた。

一方、中国の駐デンマーク大使は11月から12月にかけ、少なくとも2度フェロー諸島を訪問した。

12月、中国大使と自治政府の会談内容を自治政府高官Herálvur Joensenが要約した音声が録音され、それをデンマークの全国紙Berlingskeが記事にした。Joensenは、5Gネットワークの整備で華為が採用されなければ、中国はフェロー諸島との貿易交渉、さらに多くの魚の輸入を中断する、と脅しをかけたと音声に残していた。

録音された音声記録の中で、Joensenは「もしForoya Teleが華為との合意に署名すれば、中国との自由貿易協定のドアがすべて開かれるだろう」と語るとともに「合意ができなければ、貿易協定もなくなるだろう」と話していた。

華為は声明を出し、両政府間のいかなる会談にも関与していない、と述べた。

フェロー諸島の村や港で聞いたところ、人びとは中国と米国の争いに巻き込まれている現状に戸惑っている様子だった。

「まるで二つの爪に挟まれたシラミだ」とたとえたのはトースハウンに住む大学講師ののRógvi Olavson。「一方で米国に押し込まれ、他方から中国に押さえつけられている」と言った。

多くの住民は、中国より米国の方が好きだと言った。しかし、何人かは華為を排除するよう要求している米政府当局に怒っていた。華為は、携帯電話や、諸島内のいくつかの遠隔地と写真を共有するのに使っている今の4Gネットワークの整備に協力してくれた、と彼らは言うのだった。

地元産のウールでセーターや衣類を制作しているSissal Kristiansenは、米国大使サンズの最近のインタビューを聞いたが、その時、「『とっとと消え失せろ』という感情が私の中に湧き上がった」と振り返った。そうして「決断は私たち自身がすることだ」と言った。(抄訳)

(Adam Satariano)©2020 The New York Times

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