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「これが迷惑な行為」に国ごとの違いは出るか 大阪大の留学生に聞いてみた

World Now 更新日: 公開日:

日本人が毎日のように使う「迷惑」という言葉は、海外から来た人には、どう聞こえているのだろう。大阪大学国際教育交流センターの近藤佐知彦教授の協力を得て、14カ国31人の留学生に、アンケートやディスカッションを通じて聞いてみた。「日本人は、迷惑について考えすぎだと思いませんか?」

■日本人は迷惑について考えすぎ?

「考えすぎ」と答えてくれたのは、半数を超える17人。オランダ出身の21歳女性は「母国にくらべると、迷惑をかけないようにという重圧を感じる」。日本では自分が誰かに迷惑をかけたときにも、母国で感じる以上の申し訳なさを感じるという。

実際に留学生たちが日本で「迷惑だ」と注意されたという経験を聞いてみると「電車でうるさいと言われた」(オランダ、21歳)とか、「ごみ捨ての方法を注意された」(中国、21歳)といった声が上がった。ごみ捨ては、外国人が日本に住むときにも注意されることの多い課題のひとつ。気にはしていても、やはり問題になることは多いようだ。

各地を観光しているときに注意された経験もあるようで「船で嵐山を観光していたときに静かにするように言われた」(メキシコ、24歳)とか「温泉の大浴場で隣のおばあさんから、シャワーのお湯がかかったと言われた。ものすごく申し訳ない気になった」(韓国、23歳)といった声もあった。

「迷惑」について意見を述べ合う留学生たち=大阪府豊中市の大阪大学豊中キャンパス

一方で、注意される前に、そもそも相手が迷惑に感じているかどうかが分かりにくい、という指摘も多かった。

カナダ出身の男性(21)は、日本の朝の駅で、突然周囲から白い目で見られた経験を教えてくれた。自分が悪いらしいが、なにをしたのか分からない。後日、日本人の友人に聞き、「ホームで並んでいた列が、自分が乗った電車のための列ではなかったらしい」と分かった。どうやら違う列から割り込んで電車に乗った形になったようだ。

それを聞いて、申し訳ないと感じたが、その時に教えてくれればいいのに、とも思ったという。「日本には暗黙のルールが多い。また、迷惑だと思っていても、なかなか指摘しないのでは」

同じように日本人は迷惑に思っていてもはっきり言わない、という意見は複数の学生から出た。そのおかげで、迷惑について考えすぎることになるのではないかと言うのはフランス出身の女性(21)。「日本では迷惑をかけられてもはっきり言わないので、『もしかして(自分の行動が)迷惑かもしれない』と気にしすぎることになるのではないでしょうか」

■「争いになるよりはいい」

「ほかの利用者にめいわくとなる行為はやめましょう」として、公園でのボール遊びをやめるように促す看板

一方で「考えすぎとは思わない」と答えたのは9人。うち6人は中国や韓国などアジアからの留学生だ。中国の女性(20)は「これくらいでいいと思う。ほかの国では見ないぐらいマナーがいいので」。ブルネイの女性(22)も「お互いのことを考えるのは、考えないで争いになるより、はるかにいい」。

日本語の「迷惑」の使い方についても聞いてみた。多かったのは、似たような言葉はあるものの、迷惑のように幅広い事象に使われることは少ない、という意見だ。

オランダの学生たちが教えてくれたのは、退屈させたり、イライラさせたり、面倒をかけたりするという意味の「vervelend」という言葉。ドイツの女性(22)は「相手に不便をかけた時に使うUnannehmlichkeitという言葉があるが、用途は迷惑のように幅広くはなく、小さな事柄に使う」。

中国語にも「迷惑」という言葉はあるが、「使い方がちょっと違う」(中国、21歳)という。中国語の「迷惑」は、字のとおり、日本語の「戸惑い」に近い意味だという。日本語の迷惑に近い中国語としては「困擾」や「困惑」が挙がった。

「迷惑」について意見を述べ合う留学生たち=大阪府豊中市の大阪大学豊中キャンパス

日本語の「迷惑」に近く、幅広い意味で使われる「ミンペ(民弊)」という言葉を教えてくれたのは、韓国からの学生たち。もともとは失政により民が困って疲弊することを民弊と呼んだようだが、いまでは日本語の迷惑とほぼ同じような意味で使われているという。韓国の女性(27)は「言葉としては知っていたけれど、以前はあまり使わなかった。ここ数年でものすごく使われるようになってきた気がする」と教えてくれた。

■あなたの国の迷惑は…?

「母国で典型的な迷惑は?」とも聞いてみた。日本と同じもの、違うもの。反応はさまざまだ。

地域によって、静かにすべき時間が決められているなど、騒音にうるさいことで知られるドイツ。ドイツの学生たちは「日曜の騒音」(25歳)、「ある時刻以降に騒ぐこと。みんな夜の休息をすごく大事にしているので、これには苦情を言う」(ドイツ、22歳)など、やはり音についての迷惑が挙がってきた。また「自転車専用レーンを歩く」(オランダ、21歳)など、自転車大国オランダならではの「迷惑」も。

一方で、「最後に来たのに一番前に行こうとする」(オランダ、20歳)

「電車やバス、レストランなど、ふさわしくない場所で騒いだり、走り回ったりする子ども」(ドイツ、23歳)、「公共の場でひどく酔っ払っている人。電車の中で大声で話す人」(フィンランド、25歳)など、日本でよくあげられる迷惑行為と同じようなものも多かった。

アンケートは2019年12月、近藤教授が担当する「メディアコミュニケーション」の授業で行った。授業に出席したのは、14カ国出身の31人(ドイツ6人オランダ、中国各4人フランス、ブルネイ各3人、日本・韓国各2人、カナダ、フィンランド、コンゴ、メキシコ、ベトナム、マレーシア、英国各1人)。半年から1年程度のプログラムで日本に留学している学生たちだ。授業では、最初に記者が「ある人にとっての常識が、ほかのひとには「迷惑」になりうる」といった問題意識を伝えた上で質疑し、最後に配布したアンケートに答えてもらった。