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怒りぶつけるよりエンタメ 日本のレイジルームは「SNS映え」がカギを握る

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プリンターをバットで破壊する利用客。破片が高く飛び散った

【もとの記事】怒りを全力でモノにぶつける 盛況「レイジルーム」を体験してみた

「自分自身が短気で怒りっぽく、この性格を直したい」(横浜市・木村泰子さん 66歳)などと大きな反響のあった特集「怒りの正体」(6月号)。「日本でも需要がありそう」という声の上がったカナダの「レイジルーム」の「日本版」が5月に東京にオープンしたと知り、行ってみた。

■特集記事一覧はこちら

店の名は、野獣(BEAST)と解放(RELEASE)を合体した造語を冠した「REEAST ROOM」。雷門にほど近い台東区の雑居ビルの中に入ると、まず「音」に圧倒された。

大音量の音楽をかき消す「キサマー!」「給料あげろ!」の叫び声。叩き壊す音、割る音……。1人4260円・15分間の「スタンダードコース」だと、壊せるのは瓶などの割れ物10個に家電一つが基本。「スペシャルコース」は1人6980円になり、壊せる割れ物は20個、家電は二つになる。高いコースほど制限時間が長くなり、壊せる物の数が増える。決して安くない価格設定だと感じたが、訪れた週末の昼間は予約客が途絶えることなく訪れていた。

プリンターをバットでたたき壊す利用客。つなぎやヘルメットは店が貸し出している

会社員の安藤菜々子さん(29)は電子レンジを放り投げ、バールでたたいてスッキリ。「仕事でストレスがたまるので駅ごと、オフィスごとにこんな部屋があればいいかも」。とはいえ、友人2人と「SNSに載せたいね」と話す姿には爆発寸前の怒りを抱えた切迫感はなく、にぎやかで楽しそうだ。

店を見回してみれば、赤や黄色、ピンクなどカラフルなつなぎの貸衣装がそろい、スマホで自分を撮影するための「自撮り棒」も備えられている。「インスタ映え」を意識しているのだろう。聞いてみれば、客もお1人よりもグループ連れが多く、7割弱が女性。自分が「怒る姿」を撮影して、SNSで発信する人が多いという。ユーチューバーの投稿をきっかけに店に来た、という人もいるという。

地下1階に下りると、店内の壁には様々な装飾が施されていて「撮影スポット」になっていた

6月号の特集に登場するカナダのレイジルームは、殺風景な部屋に破壊行為の「残骸」が飛び散る様子が印象的だったが、これが日本流なのだろうか。

運営会社社長の河東誠さん(25)が、5月のオープン時にこの路線を選んだことには理由があった。開業前に100人ほどにアンケートしたところ、日本では「怒りの発散」は「犯罪率が上がりそう」といったネガティブな印象を持たれやすいことがわかったのだ。なら、「やってはいけないことができるワクワク感」を前面に出してはどうか。

壊す様子をお互いにスマホで撮影して楽しむ利用客が多かった

ふだんは体験できない「非日常」を友人や恋人、会社の仲の良い同僚たちと体験する??。そのためにはどんな空間を作れば良いのか。かわいらしいマスコットキャラクターを作る、内装をカラフルにするなどの工夫を重ねていった。発祥の地・米国のレイジルームも見て回り「日本流はエンタメ系でいける」と確信した。

店では、破壊で出た廃プラスチックをリサイクルする「創造プロジェクト」も進めている。「壊したものが再び製品になるプロセスが見えると、お客さんもより楽しく、思い切ってできるかなと」。店では、専用のブース内でオノを投げたり、壁に自由に落書きできたりするコースも加えている。

REEAST ROOMの運営会社社長の河東誠さん。描かれているのはマスコットキャラクターの「らぶぅ」

実は、開店に際してなによりも大変だったのは、物件探しだったという。前例のない業態のため、安全面や騒音などを懸念するオーナーに断られたり、そもそも話を聞いてもらえず門前払いされたりすることが続いた。それでも「粘って粘って、やっと見つけたのがここ」だという。「1号店で店のコンセプトやサービスをつくり込んで、うまくいけば他のエリアにもオープンさせたい」と河東さんは意気込む。

やってはいけないことができる空間。そんな商売が日本で誕生した背景には、何があるのだろう。河東さんは「価値観が多様化しているからではないか」とみている。

「ネットが普及して、だれでも様々な価値観に触れられるようになった。今まではやってはいけないと思われていたこと、タブー視されていたことも、多様化する価値観に触れることでやってもいいんじゃないのと、許容するような土台ができていたのかなと感じる。例えば、この店が20年前にできていたら、たたかれて終わったかもしれないし、大衆化しなかったかもしれない」

廃プラスチックをリサイクルして作った製品の試作品(マグカップ横の灰皿)。壊したものを再利用するプロジェクトを進めているという

会社の同僚と4人で来ていた石澤るいさん(38)は、「普段できないことができて良かった」と満足げだ。「仕事していると、やっぱり人間関係とか、ストレスはある。でもこういう場があって発散できたら、みんな健やかになれるのでは」。大阪や名古屋にも、こうしたエンタメ系の店が続々とできているという。(目黒隆行)

■「レビュー2019」は全5回。次回(12月29日)は7月号の特集「評価なんてぶっとばせ!」を再取材。スウェーデンの高校生グレタ・トゥンベリさん、あなたならどう「評価」しますか?