■ビデオ記者、世界に230人
パリ中心部のエリゼ宮(大統領府)にほど近い場所に、AFP通信のビルが立っている。世界151国・地域に201の出先があり、スタッフの数は2400人。世界中のメディアなど5000団体以上に、24時間態勢で記事や写真、動画を配信している。動画担当部署は、このビルのすぐ近くに入っている。
AFP通信は記事や写真に加え、2000年ごろから動画の配信にも力を入れてきた。動画を編集する拠点が、フランスとアフリカを担当するパリ、アジアを管轄する香港、欧州をみるロンドン、中近東や北アフリカを担うニコシア(キプロス)、米国とカナダが担当のワシントン、南米をみるモンテビデオ(ウルグアイ)の計6カ所にある。パリと香港、ワシントンでは世界中で起きている出来事の動画をリアルタイムに配信するスタジオも持つ。世界中で1日100本前後の動画を配信している。
世界中にちらばるジャーナリスト1700人のうち、ビデオ専門のジャーナリストは230人。撮影した動画を上記の拠点に送って編集、世界に配信する。動画部長のジュリエット・オリエールラルス(54)は、AFP通信の動画は「世界中にジャーナリストがいることと、質やストーリーテリングの深さが特徴」と話す。
動画を撮影するのはビデオジャーナリストだけではない。最初に現場にいたジャーナリストが動画を撮るのが原則だ。
今年4月中旬の夜、パリの世界遺産ノートルダム大聖堂で屋根や尖塔(せんとう)が燃え落ちる大火災が起きた。「火事が起きたとき、帰宅中に近くの橋の上を通りかかったペン記者が火災に気づき、スマホで動画を撮影しました。火災の動画でAFP通信が配信した最初の動画です」とオリエールラルス。
撮影が苦手なペン記者もいる。AFP通信は、こうしたペン記者向けに2日間の講習会を開き、スマホを使った撮影や動画送信の仕方などを教える。
■市民撮影の動画、日本との集め方の違い
日本のテレビ局の中では、キー局などが自社のウェブサイト上に動画の投稿窓口を設け、突発的な事件や事故などを撮影した動画の投稿を一般の撮影者に呼びかけている。だが、AFP通信はこうした窓口を設けてはいない。
突発性のある出来事が起きた場合、ソーシャルメディアなどに投稿された動画を担当者が見て、撮影者に直接連絡を取り、許可を得られれば配信している。こうした動画はユーザー・ジェネレイテド・コンテンツ(UGC)と呼ばれる。UGCで重要なのがファクトチェックだ。AFPにはファクトチェックの専門の担当者がいて、動画も見ている。一般の人が撮影した動画が、撮影者の主張する日時や場所、内容で正しいかを確認している。