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手がけた動画は再生6億回 作家が語る「大人が知らないYouTube」

World Now 更新日: 公開日:
YouTube作家の、たけちまるぽこ氏(左)とすのはら氏=渡辺志帆撮影

「YouTube作家」を名乗る、すのはら(24)、たけちまるぽこ(23)の両氏は、窮屈さを感じたテレビの世界を飛び出し、ユーチューブを舞台に活動する。人気ユーチューバーを企画段階から陰で支え、手掛けた動画の再生回数は計6億回を超えた。スタジオを兼ねた東京都内の瀟洒なマンションの一室で、ユーチューブの魅力とテレビの未来について聞いた。(構成・大室一也)

■スピード感ないテレビ

――なぜYouTube作家になったのですか。

たけち氏 僕はテレビが大好きで、中学のころから放送作家に憧れ、放送作家になる王道ルートとされる、ラジオの番組にネタを投稿する「はがき職人」をやっていました。大学に入り、テレビの放送作家になりました。やってみて、企画を立案して、形になるまで、テレビはものすごくスピードが遅いなと思いました。

ユーチューブは、極論を言えば、今ぱっと企画を考えて、ユーチューバーにラインで送ったら、今日、動画ができあがるかもしれないくらいのスピード感がある。企画を考える側としても魅力的。コメント欄も視聴者の反応がリアルタイムでわかるので、演劇的で確実なフィードバックを得られます。(視聴者がどの時点で動画の視聴を止めたか、全体のうちどのくらいの視聴者が動画を最初から最後まで視聴しているかがわかる)維持率やクリック率など、数値的な視聴者の反応もユーチューブはデジタルに出してくれるので、次の企画を考える時の参考になります。感覚的な部分だけでなく、企画力を養えるので、自分自身の成長も早いです。

テレビでは自分が考えた企画を発信できても、視聴者の反応がいまいちわからない。ユーチューブは企画を考える側としてすごく楽しいので、どんどん気持ちが傾いていきました。

■できることの幅が違う

YouTube作家の、たけちまるぽこ氏(左)とすのはら氏=大室一也撮影

――いつからユーチューブに関わっているのですか。

すのはら氏 僕は16歳くらいからユーチューブの活動をしています。たけちとは、企画を出される側と出す側で会い、その後一緒にやろうとなり、4年ほど前から、「YouTube作家」を名乗り始めました。当時はクリエーターとしてつながりのあった方へ向け企画を作り、飛び込みで見てもらう仕事のスタイルをしていました。

YouTube作家としてのキャリアプランを考えた時、最初は「元テレビの放送作家」と名乗っておけば、いわゆる「大人」への説得力はつくだろうなと思いました。当時(2015年頃)はまだユーチューブを知らない人からしたら、「しょっぱいメディアの作家」という見え方をすると感じたからです。

なのでテレビの放送作家としてのキャリアを始め、YouTube作家との仕事と並行していました。

テレビの仕事をしてみて、言い方は悪いですけど、時代が違う人たちがいる感じがしました。動画の投稿の仕方も知らない、ユーチューバーの名前も1人も知らない。クオリティーの問題はあるかと思いますが、ユーチューブはできることの幅が全然違います。僕はユーチューブの方がテレビよりもクリエイティブだと感じました。

肌感覚でしかないですが、今27歳より上の年齢の人たちは、あんまりユーチューブについて知りません。テレビにいる人は、もっと知らないことが多い。

■カギは「言葉に頼らないコンテンツ」

――世界でどんな動画が流行するのでしょうか。

たけち氏 世界のユーチューブでは、だいたい同じ企画や雰囲気の動画がはやります。しかし、インドと日本だけ、ちょっと違う。ガラパゴス化しています。イメージで言うと、インドは人口が多い中でネットが発展し、面白いなという感じ。日本は遅れているという印象。日本のユーチューブで今はやっているのは、海外で2、3年前に流行していた企画がほとんど。僕たちも提案の中に海外の企画を入れることが多いです。

すのはら氏 日本人は英語ができなさすぎて、海外の動画を見る文化がそもそもない。日本で受ける笑いって、ちょっと海外と違う。海外で受けるものって、派手で大きい、みたいな印象があります。それに比べて日本人って、わりとおおざっぱなものより、細やかに計算されたものが好きな印象があります。文化の違いがあり、あとは言語の壁なのかな。

世界で大流行している米国のグループ「Dude Perfect」は、いわゆる凄技動画が特徴です。例えば、すごい遠くからバスケットボールを投げて、ゴールに入れるとか。高層ビルの屋上から路上のゴールに入れるとか。そういうのをやっているクリエーターグループなんですけど。なぜ世界で流行したかというと、多分あんまりしゃべらないから。言語の壁に関係なく、見てわかるすごさ、言葉のいらないインパクトが受けたんだと思います。

今後、言語に依存しないコンテンツを日本のクリエーターも意識して作れば、世界に向けた動画は作れるはず。せっかくユーチューブという世界のメディアにいるので、僕たちも挑戦していきたいです。

■テレビは10年以上見ていない

――今後テレビはどうなっていくと思いますか。

すのはら氏 そもそもテレビを10年以上見ていません。見ていた当時の感覚で言うと、テレビって、大人が絡みすぎだよなと。絶対そうというわけじゃないと思うんですけど、例えば、売り出したいタレントがいる。その人たちにフォーカスしている番組構成がある。出演者の人も、すごいフォーカスして話を振っているよな、という感じがして、嫌気がさしました。利権だとか、いろんな大人が絡んでいるからこそできることが絶対ある、と感じてテレビを見なくなったんです。

今、小中学生とかに、「明石家さんまさんって知ってる?」と聞くと、知らない人の方が多い。「ヒカキンさん知ってる?」って聞くと、みんな知っている。その子たちが大人になってどうなるかというと、当たり前にユーチューブがあったからこそ、「テレビって何?」という時代になるでしょう。

たけち氏 (受像器としての)テレビが発展してきました。今はリモコンに「YouTube」と記されたボタンがあり、押すとユーチューブが見られます。今の子どもたちは、(放送としての)テレビとユーチューブ、何が違うのか分かりません。(放送としての)テレビは巻き戻しができなくて、CMが入って、飛ばせない。一方、ユーチューブは好きな時間に、好きなように見られる。全く同じ(受像器としての)テレビ画面で見られるなら、ユーチューブを見るのは、そりゃそうだろうと思います。

個人的に視聴者目線としては(放送としての)テレビは面白い。作りもしっかりしているから、参考になる部分はあります。今後、ユーチューブが大規模になってきたら、企画の参考にもしたい。こういった取材でよくテレビとユーチューブを比較してと言われるので、あえて比較すると、今、制作者としてテレビの業界にいるのは、いろんな面からちょっとしんどいなと思います。やりたいこともできないですし、ギャラも信じられないくらい安いし。