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世界6カ国の学校を経験して理解した「生き抜くすべ」ナージャ・キリーロワさんインタビュー

People 更新日: 公開日:
ナージャ・キリーロワさん

―ナージャさんは子ども時代、ロシア、日本、イギリス、フランス、アメリカ、カナダと転校を重ねていたそうですが、いろいろな国で教育を受けたことで得た一番大きな発見はなんですか?

フランスの小学校に通っていたころ、フランス語が堪能ではなかったため外国人クラスで授業を受けていたのですが、そこで日々みんなと議論を重ねたことで、初めて、自分がどういう人間なのかを意識するようになりました。

議論の場では、子どもたちはみんな「わたしはこう思う」「うちはこういう宗教でこういう習慣がある」ということをフランス語がたどたどしいわりには、身ぶり手ぶりで説明するのですが、わたしは、フランス語ができない以前に意見や考えがないことに気づいた。それで、うちに帰って「わたしってどういう子かな?」「うちはどんな習慣がある?」と親に教えてもらううち、初めて自分の特性やスタンスみたいなものが子どもながらにみえてきました。自分が何者であるかに気づき始めて以来、どうすれば自分が活躍できるか、どうすれば毎日がより楽しくなるかの答えが見つかりやすくなりました。

―それ以降、言動にも変化がありましたか?

すぐには変化することはありませんでした。自分でも大きく変わったなと思うきっかけは、中学2年生のときのカナダでのエッセーコンクールです。そのころはまだ英語が得意ではなかったので、エッセーといわれても語彙力もないし文法にも自信がないから不利だと思い、ポエムで勝負したんです。そしたら、なんとモントリオール市で優勝という結果。この課題においては、ネイティブの方々にある意味、英語で勝てたことで、自分の中に大きな自信が芽生えましたね。

ところがその1年後、中学3年生のとき、今度は日本で同じスタイルで作品を提出したところ、0点だと突き返されたんです。「どうしてですか?」と先生に尋ねたら、「“作文”って指示があるでしょう?」と。でも、文章の体裁はダメだけど、表現力があると言われたのが、私にとっては励みになりました。子どもたちが仕掛けていくことに対していいところを見つけて褒めてくれる先生だったら、いろんなことをトライできるようになるなと感じました。

―枠にとらわれずにチャレンジを楽しむためには、どんなことが必要ですか?

まずは、自分自身の特性を知ることがすごく大切です。自分が興味あることはどんなことなのか、どうすればうまくいくかを考えて工夫してみるといいと思います。わたしは、言葉もわからない国に転校するたび、大変さをポジティブに捉え直すために「次の国ではどうやってサバイブしよう?」と考える中で、ゲームのようにおもしろくなっていったことを実感していますが、そうでなくとも、「楽しくするためのアイディア」というのは誰にでも生み出せるものだと思っています。人は誰しもクリエイティブな部分を必ず持っているし、結果を気にせず自由になんでもやっていいよと言われたら、「これをやってみよう!」と思いつかない人間はほとんどいないですよね。

―日本の教育についてはどう思いますか?

「日本の教育は遅れてると思う?」と尋ねると8割くらいの人は「はい」と答えるけど、海外の人に同じ質問をすると、「日本の教育はすばらしい」と返ってくることがものすごく多い。たとえば日本の小学校って家庭科も美術も書道でもなんでもありますが、海外だとこれらの科目は習い事でしか体験できないことの方が多い。そこを手厚く、しかも無料でやらせてもらえる国なんて、私が小学校に通ったことがある他の国の中にはなかったです。体育でも、鉄棒から球技までなんでもやりますよね。みんな泳げるし歌える。それってすごく贅沢なことです。

逆に日本の教育で改善されたらいいなと思うのは、最近は減ってきましたが、生徒みんなが先生のほうを向いて黙って講義を聞くスタイル以外の学び方も取り入れることと、「意見がある人?」の質問に対して、誰かの意見に賛同するだけの人が多いこと。いろんな意見があることを知ることは、「自分らしさ」を知るきっかけにもなるので、みんなが意見を交換し合える機会が増えたらいいですよね。

―わたしたち大人一人ひとりが、子どもたちのためにできることはありますか?

たとえば学校の先生が厳しく接する役割を果たすなら、地域の大人たちと接することでユニークな大人もいることを知ることもあると思うし、その出逢いを通して新たな発見をすることもありますよね。わたしは小学生時代、数学者に出逢って話を聞いたとき、その大人が数学にものすごいおもしろさを感じてワクワクしていることを感じ取って、「もしかして数学をおもしろいと思っていないわたしのほうが変なんだろうか?」と自問したことがきっかけで数学に興味を持ったこともありました。

―最後に、大人の教育についても聞きたいのですが、大人になってからの学び直しで、人生は変わると思いますか?

もちろん。大人もみんなクリエイティブでユニークな発想を持っているのに、そのことを忘れている人が多いです。毎日同じ仕事をしていると効率が上がるけど、他のことを考えなくなることによって気づきを得にくくなるので、興味があることを楽しむ時間は大事にしてほしいなと思います。休日にコンビニのプリンを全部食べ比べてみるだけでも、新しい発見はあるもの。やってみたいと思うことには臆せずチャレンジしてほしいですね。

MASHING UPのウェブサイトはこちら。(https://conference.mashingup.jp/

(取材・文/松本玲子)