2002年から15歳以上の国民に発行されているIDカードを使って、自分のポータルサイトを開くと、氏名や生年月日、住所などだけでなく、納税額や学歴、病歴、犯罪歴まで、あらゆる個人情報を見ることができる。オンラインでできないことは、書類を届ける必要がある結婚と離婚、不動産の売買だけだとも言われる。07年からは、世界初の電子投票による国政選挙も行われている。
このシステムで驚くのは、厳格な個人情報の取り扱いだ。警察や政府の職員らが、オンラインで他人の個人情報を閲覧すると、誰が、どの情報を、いつ見たのかが記録される仕組みになっている。さらに個人情報を見られた人は、理由の開示を求めることができる。
たとえば、警官が駐車違反の車のナンバープレートを照会すると、車の持ち主の住所や違反歴などを見ることができ、持ち主も情報を見た警官の氏名が分かる。正当な理由がないのに閲覧すれば、罪に問われることになる。
エストニアは1991年に旧ソ連から独立し、インターネット電話のスカイプなどを生んだIT先進国としても知られる。情報システムにブロックチェーンを採用したのは、07年にロシア系住民のデモが続いた後、政府や銀行のシステムがサイバー攻撃を受けたからだ。テストを始めたのは08年4月で、ビットコインの構想発表より半年も早い。
だが、エストニア政府のデジタルアドバイザー、マルテン・カエバッツ(34)は「大事なのは技術ではない。国民がシステムを受け入れるマインドセット(考え方)であり、文化だ」と説明。力を込めて続けた。「個人情報は個人に属するべきだ。特にお金のやりとりのような情報は、中国のように政府が中央集権で管理するのも、米国のようにGAFAなどの巨大企業が独占するのもよくない。(小説「1984」に登場する独裁者)ビッグブラザーを生む恐れがある」