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アジアで進むキャッシュレス化、世代間格差の壁

World Now 更新日: 公開日:
スマートフォンを使ったデジタル決済が当たり前になっているという20代のタイの女性たち

ヌアンポンは、4人の中で最も頻繁に決済アプリを使用している。携帯電話の使用料に水道や電気などの光熱費の支払い、そして、親への仕送りにも使うのもTrueMoneyだ。「この前は恋人からスマホゲームで課金するためのお金が足りないと連絡がきたので、すぐにアプリを使って送金しました。彼もTrueMoneyを使っているので、離れていても、あっという間にお金を送れるし、彼からも受け取れます」

TrueMoneyウォレットでマクドナルドの支払いをするタイの若者たち

タイで約700万人の利用者がいるTrueMoneyウォレットは、政府主導で大手銀行が参加しているデジタル決済「プロンプトペイ」(登録者数約4500万人)を除けば、同国で最もよく利用されている非銀行系のeウォレットだ。最近は、バンコクの交通機関で利用できるICカード「ラビット」が、同国で最も人気のコミュニケーションアプリ「LINE(ライン)」と組んでペイアプリ「ラビットラインペイ」を立ち上げた。いわゆる日本のLINE Pay(ラインペイ)のタイ版だ。こうしたペイアプリでの決済を受け付ける店舗なども増えており、タイ社会も徐々にキャッシュレス化が進み始めている。

バンコク近郊のマクドナルドに設置されたペイアプリの読み取り機。TrueMoneyウォレットやラビットラインペイなどに対応している

日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によると、2016年のタイの携帯電話契約数は1億1800万件で、普及率は175.5%。スマートフォンの普及率は50.5%で、都市部では60%にもなる。携帯電話によるインターネット接続の契約数は14年以降、大幅な増加傾向となり、17年で6700万件、普及率は99%にも及ぶ。デジタル決済を促進するための環境は整っている。

ところが「そこには数字には表れない世代間格差がある」と、ヌアンポンは強調する。携帯電話は世代に関係なく誰もが持つようになったが、支払いや決済となると「両親から上の世代は、いまだに現金しか信用しない」と嘆く。

ヌアンポンは、親に毎月の仕送りをしている。いつでも必要な時にスマホを操作するだけで送金が可能なeアプリを両親の携帯にダウンロードし、操作方法を何度も詳しく教えているが全く使おうとせず、銀行振り込みか現金持参を求められる。ヌアンポンと一緒にマクドナルドにいた3人も全員、実家への仕送りをしているが、親がこだわるのは、やはり現金だ。

TrueMoneyウォレットのアプリを見せるナツーダ・ヌアンポン。実家への仕送りにも使いたいというが、親がアプリを使いこなせず、仕方なく銀行振り込みを続けている

「スマホのタッチパネルだと知らないうちに間違ったところに触ってしまい、お金をちゃんと受け取れなくなるかもしれないと言うんです。数字のやりとりだけなので、本当にお金が動いている証拠がないと使えないとも言います。現金を持たないから便利なのに、現金じゃないと信用できないなんて、私たちの世代には全く理解ができません」。そう言うとヌアンポンはため息をついた。結局、毎月の送金は銀行や近くのATMまで行き、口座振り込みでしているという。

これに対し、「現金主義は、フィリピンでも同じ。親の世代はもちろん、私も決済アプリはほとんど使いません」と語るのは、マニラ近郊のカビテ州でデザイナーとして働くリッツァ・ゴンザレス(35)。スマホには決済アプリを入れているが、チャージしたことは一度もない。「決済アプリ大手のGキャッシュなどが普及して、若い人たちは違和感なくeウォレットを使うようになっているのは知っているが、その必要性を全く感じない。むしろ、ネット上のお金のやりとりは、ハッキングなどの危険性のイメージが強くて怖い」

ペイアプリをスマートフォンに入れたものの、デジタル決済が信用できず、お金をチャージしたことがないフィリピン人のリッツァ・ゴンザレス

キャッシュレスに踏み切れないゴンザレスのような人はフィリピン国内で少なくないと、Gキャッシュ広報のケン・アルキーザ(25)は強調する。

「Gキャッシュの利用者2500万人のほとんどが18歳から34歳までの人たち。そうした若い層の人たちに説得されてデジタル決済を使い始めた年配者も増えてはいるが、現状はまだまだCash is the King(現金が王様)のままだ」

アルキーザによると、現金信仰はシンガポールを除く東南アジア各国で根強いという。