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アメリカで広がる電子たばこ「ベイピング」 増える肺疾患、死者も出た

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
FILE -- A man uses a vaporizer in San Francisco, Calif., June 20, 2019. A person in Illinois has died from a mysterious lung illness apparently associated with an unknown vaping product, public health officials said in August. (Jason Henry/The New York Times)
米カリフォルニア州サンフランシスコの街角で見かけた蒸気吸入器の愛好者=2019年6月20日、Jason Henry/©2019 The New York Times

米イリノイ州でベイピング(訳注=vaping、次世代タイプの加熱式たばこ、あるいは電子たばこで、製品を加熱して蒸気を吸うこと)に関連して起きた奇妙な肺疾患で、初めての死者が出た。2019年8月23日、米公衆衛生当局者が発表した。

この夏はベイピングに関連した呼吸器系の疾患が全国的に増えている――医師や病院が全米各地でそんな報告をしていたさなかに出た初の死亡例だった。報告によると、この奇妙な肺疾患は22州で193例、うちイリノイ州は22例だった。

医師や病院関係者は、疾患の原因に当惑している。州の調査当局者たちは、緊急搬送されたこの種の患者に、ベイピング以外に共通性を見いだせなかったのだ。

連邦及び州の保健当局が出した声明によると、イリノイ州の何人かの患者を含め、患者の多くはマリフアナに含まれる向精神薬テトラヒドロカンナビノール(THC)を蒸気吸入したことを認めている。

しかし、この疾患を引き起こしたのがマリフアナ・タイプの製品なのか、あるいは電子たばこ(e―cigarette、訳注=ニコチンを含む、あるいは含まない液体を加熱してエーロゾル(大気浮遊粒子)を発生させて吸引する)なのか、それとも路上で密売されている化学混合物なのか、あるいは混入物か、吸入具の欠陥に問題があるのか――調査当局も分かっていない。

イリノイ州の患者の死は、米疾病対策センター(CDC)と米食品医薬品局(FDA)、同州の当局者が開いた記者会見の中で明らかにされた。

会見した衛生担当官たちは、死亡した患者の詳細は明らかにせず、本人は成人で、最近ベイピングした後、深刻な呼吸器系の病気で死亡した、とだけ述べた。

この患者が使っていたのが電子たばこだったのか、それとも他のベイピング器具だったのか。担当官たちはそれも明言せず、蒸気で吸入した成分についても特定しなかった。

情報不足の中で、捜査員は呼吸器系の疾患に共通する関連性を懸命に追及している。衛生担当官は、多くの患者――そのほとんどは未成年者か10代後半の青年たち――が呼吸困難や胸の痛み、嘔吐(おうと)、疲労感を訴えていた、と説明した。症状が最も重い患者は、酸素治療を受け、何日か人工呼吸器をつけなければならないほど肺のダメージが大きく、何人かの患者は生涯後遺症が残るとみられている。

「何がこうした病気を引き起こすのか。それを知るにはもっと情報が必要だ」。CDCのイリアナ・アリアスは、8月23日の会見でそう語った。

イリノイ州保健局の当局者によると、州内の患者の年齢は17歳から38歳までとしている。

同州保健局は現在、呼吸器系疾患に絞って集中的に調査を進めている。

「我々は全貌(ぜんぼう)解明の初期段階にいる」とFDAたばこ製品センター所長のミッチェル・ゼラーは会見で語った。さらに、彼は関係当局が多くの要員をこの問題に投入して究明に当たっている、と説明した。しかし、州の調査が常に完全なわけではなく、全体像を正確に描くのは困難だ。 まだ証明されていないが、ニコチンやその他の成分を蒸気にして吸入する際、製品に含まれている有毒物質が疾患を引き起こす、という見解がある。

CDC喫煙と健康に関する調査室リサーチ・トランスレーション担当副室長のブライアン・キングは、問題の刺激成分には「超微粒粉体や鉛のような重金属」が含まれている可能性があると述べるとともに、「いくつかの香味料も心配している」と語った。

しかし、彼は「そうした含有物のどれが特定の疾患に結びつくのか、我々はまだ断定していない」とも付言した。

ピッツバーグ大学医療センターの毒物センター医療部長マイケル・リンチによると、毒物センターの医師たちは、こうした肺疾患は化学薬品を吸い込んで起きる症状と同じだ、と見ている。

だが、テキサス州サンアントニオの呼吸器科医ジョン・ホルコムは、FDAはベイピングに使用される製品の原料を管理していない、と指摘した。

彼は「問題は、ベイピング器具といっても500も600も異なった種類があるわけで、そこからどんな物質を吸い込んでいるのか、我々も分かっていないことだ」と言った。だから「我々はそれらの物質のいくつかは危険であるかもしれない、あるいはいくつかは危なくないかもしれないと臆測するしかないのだ」と。

市販されているニコチンポッド(容器)を空にしてTHCオイルやその他の化学薬品を詰め替えて吸っているからだ、と示唆する医師たちもいた。

もしこうした呼吸器系疾患がTHC入りの蒸気に起因することがはっきりすれば、若者たちのベイピングを止める戦いに第2の戦線が出現したという合図になるだろう。若者たちの間では、規制されていないリキッド(溶液)や密造品、闇取引されている大麻のリキッドの使用が増えているのだ。

「彼らは空のカートリッジをどこからか手に入れて、自分たちで作った製品をそこに詰め込んでいる」。同様の患者を数多く抱えているカリフォルニア州キングス郡公衆衛生局副局長のNancy Gerkingは、そう思っていると言った。「彼らが何を添加しているのか、それともまったく別の何かを使っているのか。私たちにも分からない」とも話した。

蒸気式の電子たばこを吸わないよう若者たちに働きかけてきた多くの医師や公衆衛生当局は、最近までこれらの事例に気づかなかった。しかし、マリフアナのリキッドやオイルはネットや店舗で広く入手が可能になった。成分未公表の場合もあるため、疑うことを知らない消費者は有害な化学物質にさらされる恐れがある。

電子たばこ市場は、偽造業者まで参入し、マリフアナなど異なる材料を詰め込める多種多様な器具が売られている。さまざまな香料や混ぜ物も、いいかげんに調合されているとみられる。

しかし、こうした疑わしい製品は大手企業が生産しているのか、それとも偽造業者が製造しているのか。また、リキッドに含まれる問題の吸入因子は多くのベイピング製品に含まれているのか、それとも吸う人が自分で添加するのか。この点についても、公衆衛生当局者は明言を避けた。

今回明らかにされたベイピング関連の事態は、成長している電子たばこ市場の汚れたイメージをさらに悪化させることになりそうだ。ここ数年「JUUL(ジュール、訳注=米国で人気の高い電子たばこ)」といった大手の電子たばこへの監視も強化されている。10代の若者たちの間で急速に流行しているからだ。こうした若者たちが新たなニコチン中毒世代になり、ゆくゆくは喫煙者になってしまいかねない。(抄訳)

(Matt Richtel and Sheila Kaplan)©2019 The New York Times

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