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「有志連合」には加わらずに自立的に海上自衛隊を派遣する、という選択肢

ミリタリーリポート@アメリカ 更新日: 公開日:
ホルムズ海峡を警備するイランの精鋭部隊・革命防衛隊の警備艇と大型船舶=2019年7月3日、イラン南部バンダルアッバス沖、杉崎慎弥撮影

安倍首相のイラン訪問中の6月、ホルムズ海峡沖オマーン湾で日本とノルウェーのタンカーが吸着機雷攻撃を受けた。この事件を契機に、アラビア半島周辺のチョークポイントで、タンカー保護を強化するという課題が表面化。アメリカは多国籍海軍による護衛部隊の結成を同盟国や友好国に呼びかけている。(北村淳)

問題は「有志連合に加わるか否か」ではない

これまでのところ、イギリスとオーストラリア、バーレーンが参加を表明し、韓国が参加を検討中である。中国に次いでホルムズ海峡を通航するタンカーの仕向け地となっているインドは、アメリカ主導の多国籍海軍による「有志連合」ではなく、独自に海軍艦艇や航空機をオマーン湾からホルムズ海峡方面に派遣して、自国に関連するタンカーの保護を実施している。

ホルムズ海峡を通航するタンカーの最大の仕向け地となっている中国は、国内石油需要の40%強を中東から輸入している。だがアメリカ政府が主張するように、アラビア半島周辺海域でのタンカー航行に軍事的脅威を加えるテロリストの黒幕がイランであるならば、同じく米国と対立する中国向けタンカーへのテロ攻撃を心配する必要はない。ただ、金銭目的の“純然たる”海賊から中国関連タンカーを保護する姿勢を示せばよいだけである。実際、中国は、ホルムズ海峡ではなく、アデン湾を中心とするアラビア海に海賊やテロリストから自国のタンカーなどを守る軍艦を独自に派遣している。

一方、中国、インドに続く仕向け地となっている日本は、石油供給量の85%強がホルムズ海峡を通航しているものの、いまだに態度を明らかにしていない。日本政府は現在までのところ、有志連合への参加に躊躇しているようだ。これに対し、「日米同盟の強化こそが日本の国防戦略の根幹だ」と考える人びとからは、日本も速やかに有志連合に参加するべきだ、との意見が唱えられている。

しかしながらアメリカや日本が直面するタンカー保護の問題は、日本にとっては「アメリカ主導の有志連合に加わるのか否か」というよりも、「ホルムズ海峡を通航する日本に関連するタンカーを、日本自身が防衛するのか否か」という問題としてとらえねばならない。

余裕がなくなりつつある米海軍

アメリカ海軍駆逐艦に向かってくるイラン革命防衛隊のスピードボート(写真:米海軍)

なぜならば、これまではアメリカ海軍が世界中の海上航路帯に睨みを利かせ、日本のように安全保障面で米国に頼る国のタンカーや商船の航行を保護してきた。だが頼みのアメリカの海洋戦力にそうした余裕が、もはやなくなりつつあるからだ。

実際、海軍力の低下を立て直そうとするアメリカに、他国のタンカーを直接護衛する気はない。このことは多国籍海軍が結成されたとしても、「アメリカ軍艦はアメリカ向けのタンカーだけを防御する」と表明していることが何よりの証左だ。それだけではない。トランプ大統領は「日本は自国のタンカーを自ら守るべきだ」とも公言している。トランプ大統領側近らの真意は、有志連合の結成を名目に、イラン包囲網を作ることだと思われる。

アメリカに言われるまでもなく、ホルムズ海峡に限らず、日本に関係するタンカーや商船の航行の安全は、可能な限り日本自身の手で確保するのが、独立国にとって当然の原則である。このことは、すでに本コラムで指摘したとおりである。要するに、「ホルムズ海峡を通航する日本に関連するタンカーを、日本自身が防衛するのか否か」という問いには、「日本自身が防衛する」という回答しかあり得ない状況に至っているのだ。

有志連合参加のメリットとデメリット

ただし、「日本自らが日本に関係するタンカーの安全を確保する」というのは、日本が単独でタンカーを保護するという方策だけを意味するわけではない。アメリカ主導の多国籍海軍による有志連合に加わるという選択肢も含まれる。

有志連合に加わった場合、アラビア半島周辺海域をはじめ中東情勢に関して、アメリカ軍が握る情報を、アメリカ軍が提供する限度において、海上自衛隊も共有することができるというメリットがある。

しかしそれは同時に、イランを仮想敵国とすることも意味する。というのも、アメリカはタンカー攻撃事件のみならずホルムズ海峡やアラビア半島周辺海域、イエメンなどで発生しているテロ事件は直接的あるいは間接的に、イランが関与していると断定しているからである。

対イラン強硬派、すなわち強固な親イスラエル派のトランプ側近高官たちは、場合によってはイランとの軍事的対決をも辞さない構えを崩していない。一方、アメリカ軍首脳たちはイランとの戦争は何としても避けたいと考えてはいる。しかし文民優勢の原則下で、大統領命令が下った場合に備え、イラン軍との戦闘に打ち勝つための戦略を策定しつつ、具体的な準備を開始している。

したがって、万が一にもアメリカとイランの軍事衝突が勃発した場合、有志連合に加わった日本は、イランの明確な敵国となり、海上自衛隊艦艇にはイラン軍の対艦ミサイルが降り注がれることになるのだ。

アメリカ国家戦略の手駒になる必要はない

日本はイランと敵対関係にあるわけではない。イランから原油の輸入を停止しているのは、イランと敵対するアメリカによる日本への制裁を避けるためである。そうした事情はイラン側も理解している。

日本が海自艦艇や航空機を派遣するのは、「日本のタンカーに何らかの危害が加えられるのを、日本は容認しない」という日本の国家意思を内外に明示することが主たる目的となるのだ。

そもそも、有志連合に参加してアメリカから参考情報を提供されようが、そのような情報を手にすることなく軍艦や航空機を展開させようが、広大な海洋に1~2隻の海自艦艇を出動させただけでは、数多くの日本関係タンカーや商船をテロ攻撃から完璧に守り切ることは至難の業だ。あくまで海軍力を派遣するのは強力な抑止力を造り出すためではなく、「日本のタンカーは日本が守る」という強い意思を示すためなのである。

アメリカが表面上掲げるであろう「アラビア半島周辺海域でのタンカーの自由航行の保護」と同じ目的で、日本が独自に海洋戦力を派遣するのである。それでも「有志連合に参加しないのならば日米同盟にはマイナスだ」とアメリカが考えるならば、アメリカは日米同盟を支配・従属のための同盟と考えていることを意味する。

日本が独立国であるならば、日本はアメリカの国家戦略に組み込まれて有志連合の一員になる必要はない。インドのようにとは独立した形で自立的に軍艦や哨戒機をホルムズ海峡方面に展開させればよいのである。