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焦点:エアバスA380生産中止、「欧州の夢」なぜ失速したか

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2010年1月、スイス東部上空を試験飛行するエアバスA380。スイス空軍提供(2019年 ロイター)

By Tim Hepher

[トゥールーズ(フランス) 14日 ロイター] - 旅客から愛され、会計担当者からは恐れられた世界最大の旅客機の生産中止が決まった。欧州航空大手エアバスは、運用開始から12年にして、販売不振を理由に超大型旅客機「A380」の生産をやめると発表した。

欧州産業界最大級の挑戦に終止符が打たれることになる。巨大な旅客機を投入することで空港の混雑を解消するというエアバスのビジョンに航空会社の支持が集まらず、受注が伸び悩んだ。

世界の航空機の運航量は記録的な速さで増加している。だがこれにより需要が伸びたのは、旅客を目的地まで直接運べる、小回りの利くエンジン2基の双発機であり、ハブ空港まで旅客を運んで乗り換えさせるエンジン4基の巨大旅客機ではなかった。

A380の最大顧客であるエミレーツ航空など忠実な顧客は、544座席の機体は満席の場合、利益が出るとしている。だが、2階建て構造の巨大な機体を飛ばすための燃料代がかさむため、空席が1つ増えるごとに航空会社の財務に穴が開くことになる。

「エアラインの最高財務責任者(CFO)を震え上がらせる機種だ。空席が大量に出るリスクが高すぎる」。航空産業のある幹部は、こう説明した。

かつて欧州単一通貨の産業版といえる発明だと評価され、欧州のシンボルとして世界的に認知されたA380の失敗は、機体の生産拠点が置かれている英国とフランス、ドイツとスペインの政治情勢の変化と時期が重なった。

2005年、欧州各国首脳を招いて華やかに完成披露の式典が行われ、欧州の統一と明るい未来を内外に示したことを考えれば、隔世の感がある。

当時のブレア英首相はA380について、「強い経済の象徴」だと述べ、スペインの同サパテロ首相は「夢が現実になった」と褒めそやした。

利用客も、翼幅が車70台分もあるA380の巨大さに目を見張った。A380は、米航空大手ボーイングの大型旅客機「747」のこぶのように盛り上がった2階部分が、そのまま最後尾まで伸びたような外見をしている。

航空各社は当初、競って発注した。2001年9月の米同時多発攻撃後に落ち込んだ旅客数が次第に回復し、運航コストが下がって利益が伸びることを期待したからだ。

エアバス側は、700─750機のA380を受注し、ボーイング747を過去のものにすると息巻いていた。A380の価格は現在、1機あたり4億4600万ドル(約491億円)程度だ。

だが実際は、A380の受注はようやく300を超えたところだ。ライバルのボーイング747は今週、誕生から50周年を迎え、A380よりはるかに長命な機種となった。

<転落>

内部関係者によると、A380の転落の芽は、2005年の披露式典の時にすでにあったという。

公の場では統一が強調されたが、A380製造という大仕事は、やがて独仏の協力関係に入ったヒビを露呈させ、同機の生産体制を揺るがした。

納入が遅れ、ようやく2007年に就航したが、その時すでに世界金融危機の前兆が出始めていた。規模や上質さはもはや必要とされず、売り上げが減速した。

それと並行し、A380の巨大エンジンを開発し、その後10年は効率性でこれを上回るエンジンは造れないと約束していたエンジン製造会社が、次世代の双発機用により効率の良いエンジンの開発を進め、A380と競合するようになった。

さらに、A380が新たな投資と販売のテコ入れを必要としていたまさにそのタイミングで、不安になったエアバス経営陣が、価格を上げ利益を出すよう要求し始めたと、複数の内部関係者は明かす。

「3重の打撃だった」と、社内の議論を知る人物は語る。

需要が安定しない中、マーケティング戦略も迷走した。最初はシャワーを備えた高級路線で売り出し、その後、「A380で、地球を救う」という救世主的なスローガンで環境への負荷が少ないことをアピールしたかと思えば、最後には座席数を増やしてコストを削減する路線に切り替えた。

一方のボーイングは、やはり根深い問題を内部に抱えつつも、新中型機「787ドリームライナー」で競争を制しつつあった。A380が就航するハブ空港を通り越して、比較的中規模の都市間を結ぶ「ポイント・トゥ・ポイント」路線を推奨する戦略に沿って開発された機種だ。

エアバス側は、それでもメガ都市間の路線が主流になるとして反撃した。

だが経済成長は、エアバスが予期せぬ形で「分散」した。 経済協力開発機構(OECD)の2018年の調査によると、中規模都市が巨大都市の倍近い成長を遂げていた。

これは、ボーイング787や777、またエアバスのA350といった双発機には追い風となる。A350は、A380の3倍売れている。

もともとA380を熱心に支持していなかったとされるエアバスのトム・エンダース最高経営責任者(CEO)は、2年ほど前に生産中止を考えたが、最後のチャンスを与えるよう説得された。

だが、生命線となっていたエミレーツからの最新の受注が、エンジンに関する交渉がまとまらず、時間切れとなった。

「エアバスはA380のことを旗艦機として見がちだが、エンダースCEOには受注不足しか目に入らない」と、ドイツ出身で、4月に退任するエンダース氏に近い人物は語る。

生産が停止する2021年以降、エアバスがプライドの象徴を失い、商業面での存在感が低下するのではないかと心配する関係者もいる。

航空各社の経営陣は現在、スペア部品を使っての長期にわたるA380のメンテナンスを保証するようエアバス側に求めている。多くの航空会社が、自社の旗艦機としてA380を導入しているほか、空港側でも新施設の整備に巨額投資してきた。

エールフランスKLMや独ルフトハンザのような大手顧客は、それほど悲嘆にくれることはないだろうと、アナリストは指摘する。

両社ともA380を導入しているが、エミレーツのような湾岸諸国のライバルから強力な武器が奪われることに安心する面もあるだろうと、彼らは言う。両社は、エミレーツなどが市場を侵食していると非難していた。

エミレーツ側はフェアに競争していると反論。A380は「集客の切り札」なのに、他の航空会社は誤解して宣伝に失敗しているとしている。

エミレーツの会長は14日、A380の生産中止は残念だが、「これが現実の状況だと理解している」と話した。

(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)

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